『プリンセス トヨトミ』 その仕事の費用対効果は?

 世の中には、その実態があまり知られていない職業、あるいは誤解されている職業が少なくない。会計検査院の仕事も、そんな一つかもしれない。

 『プリンセス トヨトミ』のように会計検査院の調査官が主人公となる映画は、おそらく珍しいだろう。
 だから、映画の前半、調査官が行政機関や公益法人等に乗り込んで検査する場面は、なかなか興味深い。エンドクレジットには取材協力として会計検査院の名もあるので、実際の検査もこのように行われるのかもしれない。
 しかし出来上がった映画は、はたして会計検査院の姿を正しく伝えているだろうか。

 会計検査院とは、その名のとおり行政機関等を対象に会計検査をする組織である。企業の会計を公認会計士が監査するように、行政機関等に対しては会計検査院が検査するのである。
 では、どのような観点で検査を行うかというと、会計検査院の平成21年度決算検査報告には、次の6点が挙げられている。

 (ア)決算の表示が予算執行等の財務の状況を正確に表現しているかという正確性の観点
 (イ)会計経理が予算、法律、政令等に従って適正に処理されているかという合規性の観点
 (ウ)事務・事業の遂行及び予算の執行がより少ない費用で実施できないかという経済性の観点
 (エ)同じ費用でより大きな成果が得られないか、あるいは費用との対比で最大限の成果を得ているかという効率性の観点
 (オ)事務・事業の遂行及び予算の執行の結果が、所期の目的を達成しているか、また、効果を上げているかという有効性の観点
 (カ)その他会計検査上必要な観点

 映画の中では調査官たちが山のような書類を前に電卓を叩いており、これは上の観点のうち(ア)に挙げられた正確性の検査であろう。そして調査官たちは見事に書類の虚偽を暴いたりするのだが、これは(イ)の合規性に該当しよう。
 もちろんこれらも会計検査院の重要な仕事ではあろうが、珍しく会計検査院を取り上げた映画であるからこそ、(ウ)~(カ)の観点が描写されないのは残念だ。これでは映画の観客は、会計検査院の調査官が犯罪捜査を行っているかのような印象を抱くだろう。

 やはり会計検査院をモデルにしたテレビドラマ『黄金の豚 - 会計検査庁 特別調査課 - 』も行政機関等の不正を暴く話であり、まるで行政機関等が悪の巣窟のような描かれ方であった。
 たしかに行政機関とて、民間同様に不正はあろう。たとえば警察の不正・腐敗については、映画『ポチの告白』がたっぷりと見せてくれる。不正・腐敗を暴く取り組みが必要なのは当然だ。
 しかし、このように会計検査院の活動の一面ばかりがクローズアップされるのは、はたして適切だろうか。


 ここで会計検査院の実績を見てみよう。
 平成21年度決算検査報告の第1章第2節「検査結果の大要」によれば、会計検査院による検査の結果、不当事項として指摘された金額は202億2859万円である。
 不当事項とはいかないまでも、何かしらの意見を表示したり、処置を要求した事項等を加えると、指摘金額は1兆7904億8354万円に上る。202億円に比べると2桁も多い。
 映画やテレビで書類の虚偽を暴く姿は判りやすくて痛快だが、そのようにして指摘した金額は会計検査院の成果の中では1%程度でしかないのである。会計検査院の仕事はこれまで映画やテレビではあまりスポットライトが当たってこなかったので、映画界・テレビ界としては開拓する余地の大きい分野であろうが、調査官がまるで犯罪捜査をしているかのような映像作品が広まるのが会計検査院にとって良いことかどうか。

 実のところ、平成21年度の会計検査院自身の支出済歳出額が163億4432万円に及んでいる。不当事項の発見と指摘は重要な業務だが、163億円超を費やして指摘した不当事項が202億円では、あまり効率の良い活動とは思えない。
 それどころか、平成20年度の不当事項の指摘金額は123億2993万円しかないので、各機関からこの金銭を返還させるよりも、会計検査院が何も活動せずに平成20年度の歳出決算額164億円を返還する方が国庫のためとさえ云える。

 したがって、会計検査院の活動としては(ウ)の経済性や(エ)の効率性、(オ)の有効性の観点がたいへん重要なのだ。
 ところが、平成21年度決算検査における指摘金額の総計1兆7904億8354万円も、どれほどの成果なのか評価は難しい。
 検査の対象は、107兆円以上の一般会計、377兆円以上の特別会計1兆円以上の政府関係機関の決算額である。合計486兆円以上の金額を対象に検査して、指摘金額が約1.8兆円だ。割合にして、わずか0.37%。
 民間企業で、コストの見直しを検討する部署が全社売上の0.37%に相当する程度の施策しか打ち出せなかったら、その部署は存続が危ういだろう。

 もちろん、会計検査院の調査官諸氏は極めて優秀なはずだ。
 64.1万人の国家公務員と多数の公益法人職員に対して、会計検査院の調査官又は調査官補が約970人で足りるのか、といったところに検討すべき課題があるのかもしれない。


 そうは云っても唯一の検査機関であり、大きな成果が望まれる会計検査院の調査官が、大阪にある怪しい財団法人と対決するのが『プリンセス トヨトミ』である。
 その財団法人が国から得ている補助金は5億円。はたしてその5億円は、国の支出として適切なのかが問題となる。

 国家財政486兆円以上のうちの5億円という数字が、本作のスケール感を如実に表している。
 ちなみに、大阪市の年間予算は3兆9354億円なので、5億円を巡って国と攻防を繰り広げなくても、大阪市民の協力があれば捻出できる金額であろう。
 戦国の世からの歴史を紐解きながら「大阪国」の秘密に迫る本作は、壮大なスケールを予感させながらも、金額に換算するととてもチープなのである。それこそが本作の肝と云える。

 大阪と国家を取り上げた作品としては、先に公開された『さらば愛しの大統領』がある。
 その記事でも述べたことだが、大阪が一つの国として立ち上がるという発想は、歴史的経緯からすれば逆である。大阪を中心とした京阪神地域は、本来、日本の首都に名乗りを上げてもおかしくない。
 だが『プリンセス トヨトミ』では、そんな大それた構想が描かれることはない。
 印象に強く残るのは、美味そうなお好み焼きとたこ焼きと串かつである。


 さて、珍しく会計検査院を取り上げた『プリンセス トヨトミ』だが、おそらく劇中の仕事ぶりに戸惑うのは、他ならぬ会計検査院の方々かもしれない。
 日本の映画やテレビドラマでは、公務員に命令違反をさせたり、ルールを破らせて、それを肯定的に描くことが間々あるが、本作の調査官もいささか個人的裁量の度が過ぎるようだ。
 正確性、合規性を重んじる調査官諸氏は、劇中の調査官の活躍をどう見るだろうか。


プリンセス トヨトミ Blu-rayスタンダード・エディション [Blu-ray]プリンセス トヨトミ』  [は行]
監督/鈴木雅之
出演/堤真一 綾瀬はるか 岡田将生 沢木ルカ 森永悠希 笹野高史 和久井映見 中井貴一
日本公開/2011年5月28日
ジャンル/[コメディ] [ミステリー] [ファンタジー]
ブログパーツ このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録

【theme : 日本映画
【genre : 映画

tag : 鈴木雅之 堤真一 綾瀬はるか 岡田将生 沢木ルカ 森永悠希 笹野高史 和久井映見 中井貴一

最新の記事
記事への登場ランキング
クリックすると本ブログ内の関連記事に飛びます
カテゴリ: 「全記事一覧」以外はノイズが交じりますm(_ _)m
月別に表示
リンク
スポンサード リンク
キーワードで検索 (表示されない場合はもう一度試してください)
プロフィール

Author:ナドレック

よく読まれる記事
スポンサード リンク
コメントありがとう
トラックバックありがとう
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

これまでの訪問者数
携帯からアクセス (QRコード)
QRコード
RSSリンクの表示