『戦火の中へ』 ここだけの話

 あえて『戦火の中へ』の問題を指摘するなら、面白すぎることだろう。

 この映画は、朝鮮戦争を戦った学生たちの実話を基にしている。
 今でこそ、38度線でにらみ合ったまま休戦状態となっているが、1950年の開戦当初は北朝鮮が優勢で、韓国側は半島の南端まで追い詰められていた。韓国軍及び国連軍は、戦力のすべてを最重要拠点に集中せざるを得ず、他の拠点の兵士はみな移動することになった。
 そうして兵士たちがいなくなった地域に、学徒兵だけが取り残された。ろくに銃を撃ったことすらない71人の学徒兵たちは、敵の影を警戒しながら、軍司令部の置かれた学校に寝泊りした。
 そこへ、破竹の勢いの北朝鮮軍が攻め込んでくるのである!

 この攻防戦が滅法面白い。
 多勢に無勢ながら善戦する彼らには、それでなくても肩入れしてしまう。ましてや、こちらは寄せ集めの学生たち、相手は北朝鮮の正規軍だ。手に汗握るとはこのことだ。

 学徒兵のメンバーには、お約束通りの連中が揃っている。
 生真面目でプレッシャーを抱えた主人公と、反抗的なライバル、そして太ったお銚子者や、まだ小さな弟分など、『科学忍者隊ガッチャマン』等に代表される伝統にのっとり、説明しなくても役どころが判る面々だ。
 学生服の彼らがボロボロになって戦うアクションシーンは、『クローズZERO』シリーズをエスカレーションしたかのような迫力だ。


 そしてまたアクション物やヒーロー物の魅力といえば、敵軍団の強大さだ。
 『超人機メタルダー』の例もあるように、ヒーロー側の描写は薄くても、敵組織の構成や階級、キャラクターそれぞれの個性が際立っていれば、充分に面白い作品になる。

 『戦火の中へ』では北朝鮮軍が敵組織に当たるのだが、単に命令を受けて行軍するだけの部隊ではない。これまたヒーロー物のお約束のように、一人だけ白い軍服を着た非常に目立つ少佐がおり、彼が北朝鮮の部隊を率いている。
 少佐は、本部の命令に黙って従うような男ではない。自分なりの論理と倫理を持ち、戦略上必要と思えば自分の判断で軍を動かしてしまう傑物だ。
 サイドカーにふんぞり返って、部隊に指示する少佐の姿は、敵役として充分すぎるほどの貫録だ。まさしく、典型的なヒーロー物の敵軍団である。
 『戦火の中へ』は、ヒーロー物、アクション物として、鉄板の作りなのだ。


 それが気になるところではある。
 朝鮮戦争はいまだ終わってはいない。1950年当時の戦いの経験者も存命している。
 そんな中で、『戦火の中へ』を戦争アクションとして楽しんでしまっていいものだろうか。

 もちろん、イ・ジェハン監督は勧善懲悪のエンターテインメントとして描こうとしているわけではない。
 映画には、辛く、悲惨なシーンもあるし、北朝鮮側の描き方にしても、少年兵の悲劇的なエピソードを織り込んだり、一人ひとりは人間くさく親しみが持てることを匂わせたりしている。
 また、捕虜になった者がせっかく無事に帰ってきたのに、無事を喜ぶどころかおめおめと戻ってきたことを非難する場面など、日本人にも通じる悲しい性質も描かれる。

 とはいえ、同時にアクション物として優れているのも確かなのだ。
 公式サイトによれば、イ・ジェハン監督は本作をオファーされたとき「骨太なドラマと強烈なアクションによる新境地へ踏み出したい」と考えていたという。

 そういえば、かつて戦争映画はしばしばアクション映画でもあった。
 たとえば、第二次世界大戦前のリビアを舞台にした『砂漠のライオン』(1981年)がそうだった。植民地支配に抵抗する激しい戦いを見ながら、こんなに血湧き肉踊っていいのだろうかと思ったものだ。


 どうも戦争映画と聞くと、頭を垂れたり、しかつめらしい顔をすべき気持ちになってしまう。とりわけ『戦火の中へ』は、いささか縁遠いリビアのことではなく、日本人にも関係の深い隣国のことなのだ。
 本作は、もちろんそのような受け止め方もできるし、宣伝も戦争の過酷さを打ち出している。だから、戦争のことや南北の分断について語る方が相応しいのかもしれない。

 けれども、それにしては面白すぎるのだ。
 『クローズZERO』のように、学生が殴りあうだけのフィクションであれば、どれだけ血にまみれても割り切って楽しめるのに、本作が実話に基づき、多くの犠牲を出した事件であることを考えると、なんだか「面白い」と口にするのがはばかられる。

 イ・ジェハン監督も論評しにくい映画を作ってくれたものだ。
 だから私が『戦火の中へ』を観てワクワクしてしまったことは、ここだけの内緒である。


戦火の中へ [Blu-ray]戦火の中へ』  [さ行]
監督/イ・ジェハン  脚本/イ・マニ
出演/チェ・スンヒョン (T.O.P) クォン・サンウ チャ・スンウォン キム・スンウ パク・ジニ キム・ヘソン ムン・ジェウォン
日本公開/2010年2月19日
ジャンル/[戦争] [ドラマ] [アクション]
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【genre : 映画

tag : イ・ジェハン チェ・スンヒョン クォン・サンウ チャ・スンウォン キム・スンウ パク・ジニ キム・ヘソン ムン・ジェウォン

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