『港町純情オセロ』 お馴染みなのに新鮮とは?

 シェイクスピアって、こんなに泣ける話だったのか。
 『オセロ』がどんな話かも知らず、ただシェイクスピアの四大悲劇の一つとしか認識していなかった私は、純情と奸計が渦巻くこの物語に魅了された。

 まず『港町純情オセロ』は、劇団☆新感線の芝居として、とても新鮮だった。
 理由の一つは時代設定だ。17世紀の作である『オセロ』を、昭和初期の日本に置き換えているのだが、これは劇団☆新感線にしては珍しい時代設定である。昭和初期にしたわけを、演出のいのうえひでのり氏は次のように語っている。
 「ここのところ、時代劇が続いていたっていうのもあって、毛色の違うものでやりたい、と。(略)現代だとまた邪魔なものが出てくるので。つまりリアリティ、というものですね。」

 そして舞台設定も珍しい。本作は、神部(かんべ)と小豆島(あずきじま)を中心としたヤクザの抗争劇だ。サムライ、ニンジャと並ぶ日本発のコンテンツといえばヤクザ物であるが、サムライやニンジャの芝居には事欠かない劇団☆新感線にあって、ヤクザ物は珍しい。
 また、劇団☆新感線は関西の劇団ではあるものの、これまで関西弁が飛び交う芝居は少なかった。しかし、ヤクザの女の「あかん」という言葉には、標準語のセリフにはない情感がある。
 さらには、音楽の魅力も大きい。音楽を担当するのは今回も岡崎司氏であるが、本作ではこれまでのロック調を離れ、ジャズを中心に構成している。

 かくして『港町純情オセロ』は、「いつもの劇団☆新感線」とは異なる新鮮さに満ちていた。


 とはいえ、やっぱりこれは劇団☆新感線の芝居だ。
 その大きなポイントは、主人公オセロの人物像にある。戦いにはめっぽう強いが、単純で真っ直ぐで、ホラばっかり吹いているエロ男。橋本じゅんさんが演じる主人公は、劇団☆新感線の看板キャラクターである剣轟天兜鋼鉄そのままだ。
 そんな男が、愛憎と奸計に満ちたシェイクスピアの世界に飛び込んだのが本作だ。
 これが実に合っている。イアーゴーならぬ伊東郷の奸計があくどければあくどいほど、いやらしければいやらしいほど、単純で真っ直ぐな轟天もといオセロが引き立ってくる。おバカなギャグメーカーであるところも、純情さの表れと思えてくる。

 実は、シェイクスピア劇をよく知らないのに恐縮だが、私はあまりシェイクスピア劇が好きではなかった。
 たとえば劇団☆新感線でいえば『メタル マクベス』、いのうえひでのり氏の演出作としては『リチャード三世』の例があるが、どうもシェイクスピア劇の登場人物は冗舌で――いや単にセリフが多いというだけではなく、ゴチャゴチャといろんなことを考え過ぎていて、観客に感情移入させるよりも、人間観察をさせてるような気がしていた。
 もちろんこれは、私の乏しい鑑賞歴からの感想なので、異論・反論もあるだろう。

 ただ、『港町純情オセロ』に関して云えば、シェイクスピア劇らしい冗舌さは田中哲司さんが演じる伊東が一手に引き受けており、他方オセロは劇団☆新感線のファンにはお馴染みの轟天タイプのキャラクターなので、このオセロをとっかかりにして作品世界に入っていきやすい。そして、いつの間にかオセロの苦悩を感じ、オセロの悲しみを受け止めている。
 伊東は、とりあえず独立したキャラクターだが、実際は他の登場人物の内面を代弁し、思考を導くと共に説明する役どころであり、本作のナレーターであるとも云える。主人公オセロと、その内面の代弁者を分離していることが、おバカな主人公なのに苦悩や悲しみを感じとれる所以だろう。


 この芝居が、新感線ファンにとって馴染みもあれば新鮮でもある作品になったのは、脚色の青木豪氏の手腕も大きい。
 過去、青木豪氏をはじめ幾人もの作者が劇団☆新感線に脚本を提供してきたが、どれを観ても常に「いつもの劇団☆新感線」という気がしていた。これは、脚本家の差異を飲み込むほど劇団☆新感線のパワーとカラーが強いからでもあろうし、脚本家側が劇団☆新感線を意識して芝居を構想してしまうからかもしれない。
 もちろんファンが「いつもの劇団☆新感線」を観たがっているのも確かである。
 この点で、劇団☆新感線とは関係ないところで成立したシェイクスピア作品を、劇団☆新感線のカラーに馴染ませつつ脚色した青木豪氏の巧みさは特筆すべきであろう。

 何はともあれファンにとっては、橋本じゅんさんが元気で活躍する姿を見られたのが1番嬉しい。


『港町純情オセロ』DVD港町純情オセロ』  [演劇]
演出/いのうえひでのり  脚色/青木豪  原作/ウイリアム・シェイクスピア
出演/橋本じゅん 石原さとみ 大東俊介 粟根まこと 松本まりか 伊礼彼方 田中哲司 右近健一 逆木圭一郎 山本カナコ
公演初日/2011年4月30日
劇場/赤坂ACTシアター (大阪公演は2011年4月15日よりシアターBRAVA!にて)
ジャンル/[ドラマ]
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【genre : 学問・文化・芸術

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