『阪急電車 片道15分の奇跡』 私たちの勧善懲悪

 【ネタバレ注意】

 こいつは一本取られた。

 実在の阪急電車を舞台にした映画『阪急電車 片道15分の奇跡』は、阪急電鉄の多大なる協力を得て制作されている。とうぜん企業イメージを悪くする内容のはずがない。ましてや阪急電鉄の特設サイトでは、三宅喜重監督や原作者の有川浩(ありかわ ひろ)氏が次のように語っている。
 三宅監督「この映画は、電車の中でたまたま出会った人に、勇気付けられたり癒されたりする物語です。(略)関西発のやさしい物語を届けたいと思います。」
 有川氏「映画を見ている2時間、私はほっこりと和むことができました。」

 私の中で「ほっこりと和む」とは、ほとんど「温くて退屈」と同義なので、映画館に足を運ぶのは躊躇された。
 しかし、監督は『僕の生きる道』で視聴者を号泣させた三宅喜重氏だし、脚本は『あいのうた』でこれまた視聴者の涙を搾り取った岡田惠和氏である。「ほっこり」にしろ「和む」にしろ、半端なことはあるまい。そう考えて、映画に臨むことにした。
 結論から云ってしまえば、本作は愉快な恋愛劇『結婚できない男』の三宅喜重監督の作品であり、群像コメディ『ちゅらさん』の岡田惠和氏の作品であった。


 通常、映画の作りとしては、笑いや痛快さは映画の前半に持ってきて、後半には感動ネタを配置し、観客をしみじみさせて劇場から送り出すことが多いだろう。『犬とあなたの物語 いぬのえいが』がまさしくそんな構成だった。
 ところが本作は、前半に早くも涙のシーンが登場する。では後半に感動はないのかというと、もちろん後半にも涙を誘うシーンはあるのだが、それ以上に強調されるのが痛快さである。

 本作には幾人もの悪党が登場する。女性に暴力を振るう男、先輩のフィアンセを寝取る女、級友を仲間外れにするいじめっ子たち、そして人の迷惑を顧みないオバサン軍団。彼らは電車であなたの隣にいるかもしれない、ありふれた悪人たちである。
 本作が面白いのは、確かにほっこりと和ませながらも、市井の人々が立ち上がり、彼ら悪党どもを懲らしめる物語である点だ。

 急先鋒はなんと、たった6歳の芦田愛菜(あしだ まな)ちゃん。まだ幼いのをいいことに、マナーの悪い客に正論を浴びせかける。
 それを支援し、仕上げを務めるのが、宮本信子さん演じる嫌味な婆さんである。彼女は普段から身勝手な嫁にありがた迷惑な品をプレゼントするふてぶてしい婆さんであり、必要とあらば辛辣な言葉もはばからない。
 彼女たちを中心に、人々がやられたらやり返す様はなかなか痛快なのだ。

 復讐のために"討ち入り"するOL・翔子を演じた中谷美紀さんは、こんな風に述べている。
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初めて台本を読んだときは、"なんて非常識な女性なんだろう"とも思いましたが、多くの女性が同じような状況になったら、きっと翔子と同じような行動をとりたいだろうな、と。皆、プライドや人の目があるからできないだけで、私だって…(笑)。この役を通して、皆さんが普段したくてもできないことをスクリーンで表現するのが私の仕事だと確信できた作品です。
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 もちろん、一般市民が暴力沙汰を起こしたり、恨みを買うような真似はできない。
 もっとも少ない代償でやり返す方法は、不愉快な人間とは縁を切ることである。会いたくもない相手にいつまでも係わるのは、神経をすり減らすだけである。そんな相手には、ちょいと嫌味の一つも云って、とっとと関係を終わらせるのが得策だ。


 テレビドラマの庶民は、どこからともなく水戸黄門が来てくれるのを待つだけだが、本作では市井の人が自分からちょっと行動する。その一歩によって、日々感じている「生きにくさ」を解消するのだ。
 本作を観てほっこりと和むも良し、うぶな恋愛に胸ときめかせるも良し、蜂の一刺しに快哉を叫ぶも良し。観客は、この群像劇のどこかにきっと共感を覚えることだろう。


阪急電車 片道15分の奇跡 blu-ray  特別版阪急電車 片道15分の奇跡』  [は行]
監督/三宅喜重  脚本/岡田惠和
出演/中谷美紀 戸田恵梨香 宮本信子 南果歩 谷村美月 有村架純 芦田愛菜 小柳友 勝地涼 玉山鉄二 高橋努
日本公開/2011年4月29日
ジャンル/[ドラマ] [ロマンス]
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【genre : 映画

tag : 三宅喜重 中谷美紀 戸田恵梨香 宮本信子 南果歩 谷村美月 芦田愛菜 小柳友 勝地涼 玉山鉄二

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