『エンジェル ウォーズ』 それは金田伊功からはじまった

 【ネタバレ注意】

 『エンジェル ウォーズ』なんて可愛げな邦題が付いているが、原題は「Sucker Punch」。「不意打ちの一発」といった意味だろうか。
 ザック・スナイダー監督は、この題名には二つの意味があると述べている。

 一つは、映画の構造に関して。まぁ、観客は意表を衝かれるというよりも、スナイダー監督の云う「マシンガンを持った『不思議の国のアリス』」の現実離れした展開に唖然とするかもしれない。
 とはいえ、たしかに冒頭のモノローグを誰がどのような意図で語っているのか、その時点では判らないから、複雑な構造であるとは云えよう。

 もう一つは、まだ幼げなベイビードールが、可愛い顔立ちに似合わず派手なアクションをすることだ。
 これは欧米の観客には新鮮さがあるかもしれない。カートゥーンのキャラクターはともかくとして、一般的に戦うヒロインは『エイリアン』シリーズのシガーニー・ウィーヴァーや、『ソルト』のアンジェリーナ・ジョリーのように、男勝りのごつい姐御だ。
 しかし、少なくとも日本の観客にとって、ベイビードールのようなキャラクターはさして珍しくもない。「kawaii」という語の発祥の地である日本では、まだあどけない少女が活躍するアクション物はいくらでもある。
 『エンジェル ウォーズ』には、日本の観客には見なれた要素が詰まっているのだ。


 日本でそのパターンが確立されたのは、『うる星やつら』あたりからだろうか。
 男性主人公の添え物ではなく、さりとて魔女っ子でもない少女たちが、スーパーパワーを発揮して物語の中核になっていった。電撃娘のラムちゃんや、怪力女のしのぶが人気を博し、『プロジェクトA子』(1986年)等を経て、この路線はすっかり定着した。今にして思えば、これが萌えキャラの黎明期だったのだろう。

 一方、米国ではフェミニズムの影響もあって、女性が戦う映画が登場していた。『グロリア』(1980年)の頃はまだ珍しかったように思うが、ダイバーシティーに積極的に取り組むジェームズ・キャメロン監督が『エイリアン2』(1986年)や『ターミネーター2』(1991年)等を大ヒットさせて、戦う女性をエンターテインメントの本流に持っていった。

 こうして日米で戦うヒロインが大量生産されたわけだが、米国のヒロインには「萌え」の要素がなかった。タフな成人女性が男に伍して戦うことが多かった。
 逆にこども店長のような幼いキャラクターが受けてしまう日本の現状を指して、日本人の幼稚化と見る人もいる。

 しかし、日本のカワイイものは世界を席巻し、とうとう萌えキャラがハリウッド映画のヒロインになった。
 『エンジェル ウォーズ』はセーラー服にミニスカートの少女が戦う物語であり、その仲間たちの武器にはハートマークやウサギのプリントが施してある。
 『キック・アス』において幼いヒット・ガールが悪党を倒すことには、まだ風刺的な意味もあったが、本作は風刺するつもりなんてさらさらない。
 『プロジェクトA子』の公開当時、宮崎駿氏は「セーラー服が機関銃撃って走り回っているアニメーションを作っていちゃダメなんです。」と発言したそうだが、今ではそんな映画をハリウッドが8,200万ドルかけて作るようになった。ことの良し悪しはさておき、日本の子供っぽさ、幼児性が世界に広まりつつあるのだ。


 もっとも、公式サイトによれば、ザック・スナイダー監督のインスピレーションの元は幻想美術や「HEAVY METAL」誌だそうで、日本のマンガやアニメは挙げられていない。
 それでも同じことである。村上隆氏のアニメ的な作品がベルサイユ宮殿に展示され、米国のマンガが日本のマンガ・アニメの影響を濃厚に受けている現代では、直接日本の作品に触れなくたって、その影響からは逃れられない。
 本作の衣装を担当したマイケル・ウィルキンソンは、様々な資料を参考にしたそうだが、そこにも日本のマンガやアニメの影響はあったことだろう。


 特に私が注目するのは、萌え的な要素ではなくアクションだ。
 『マトリックス』の成功以来、アクションシーンは変わった。現実にはあり得ない静止状態からの急な動作や、実写では撮影できない角度からのポーズ等が、CGIの力を借りて多用された。
 昨年公開された『バイオハザードIV アフターライフ』もそんな一作だ。『マトリックス』と同じようなアクションを3Dで見せた点において、『バイオハザードIV アフターライフ』は興味深かった。しかし、いくら『マトリックス』のアクションに近づけたところで、はじめて『マトリックス』を観たときの面白さや興奮にはかなわない。『マトリックス』を目標に置く限り、『マトリックス』を超えられるはずがない。

 では、その『マトリックス』は何を目標に作られたのか。
 他国の映画ファンならいざ知らず、日本の観客は『マトリックス』を観て、こう叫んだはずだ。
 「金田アクションが実写になった!」
 『マトリックス』の凄いところは、不世出のアニメーター金田伊功(かなだ よしのり)氏のアクションを忠実に実写化したことだろう。現実にはあり得ない静止状態からの急な動作や、パースのついた独特のポーズ等、金田伊功氏の描くアニメは時代を画すものだった。
 その素晴らしさは、私がここで繰り返すまでもなかろう。金田氏は数多の追随者を生みだし、多くの作品に足跡を残した。

 『マトリックス』と『バイオハザードIV アフターライフ』の違いは、『マトリックス』のウォシャウスキー兄弟が間違いなく金田アクションを目指して映像を作ったのに対し、『バイオハザードIV アフターライフ』のポール・W・S・アンダーソン監督の念頭には『マトリックス』を超える映像がなかったということだ。

 そして、制約なきアクションを目指したザック・スナイダー監督は、『マトリックス』以上に金田アクションに迫った。
 『マトリックス』にはなかった萌え的な要素も取り入れ、これまで以上に日本のアニメに迫るのがザック・スナイダー監督の魂胆だろう。
 アニメーションならではの動きを実写で再現するには、観客に向けた何らかの云いわけが必要になる。そうしなければ、実写としては不自然に感じられるからだ。それが、『マトリックス』では仮想世界を舞台にすることだった。『エンジェル ウォーズ』は、空想の世界を舞台にしている。
 これにより、少しぐらい物理法則を無視したり、時間の流れを歪めても、文句を付けられることはなくなった。思う存分、タメからの急な動作や、パースのついた独特のポーズを描けるのだ。
 ザック・スナイダー監督は楽しくて仕方ないだろう。ドラゴンの鼻先で少女がゆっくり宙を舞ったり、日本刀のアップを舐めるように映してから全景に転じたり、日本のアニメ独特の誇張された動きを、見事に再現している。

 金田伊功氏は惜しくも2009年に亡くなられたが、氏の編み出した流儀は世界に広まり、今も多くのクリエイターを刺激しているのだ。


エンジェル・ウォーズ (原題: SUCKER PUNCH) [DVD]エンジェル ウォーズ』  [あ行]
監督・原案・制作・脚本/ザック・スナイダー  脚本/スティーヴ・シブヤ
出演/エミリー・ブラウニング アビー・コーニッシュ ジェナ・マローン ヴァネッサ・ハジェンズ ジェイミー・チャン オスカー・アイザック カーラ・グギーノ ジョン・ハム スコット・グレン
日本公開/2011年4月15日
ジャンル/[アクション] [ファンタジー]
ブログパーツ このエントリーをはてなブックマークに追加

【theme : 特撮・SF・ファンタジー映画
【genre : 映画

tag : ザック・スナイダー エミリー・ブラウニング アビー・コーニッシュ ジェナ・マローン ヴァネッサ・ハジェンズ ジェイミー・チャン オスカー・アイザック カーラ・グギーノ ジョン・ハム スコット・グレン

最新の記事
記事への登場ランキング
クリックすると本ブログ内の関連記事に飛びます
カテゴリ: 「全記事一覧」以外はノイズが交じりますm(_ _)m
月別に表示
リンク
スポンサード リンク
キーワードで検索 (表示されない場合はもう一度試してください)
プロフィール

Author:ナドレック

よく読まれる記事
スポンサード リンク
コメントありがとう
トラックバックありがとう
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

これまでの訪問者数
携帯からアクセス (QRコード)
QRコード
RSSリンクの表示