劇場版アニメ『忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!の段』 保健委員の誇りを持て!
【ネタバレ注意】
昨年、観客の涙をこれでもかと搾り取った『おまえうまそうだな』の、藤森雅也監督の最新作ということで、劇場版アニメ『忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!の段』に足を運んだ。
尼子騒兵衛(あまこ そうべえ)氏による原作マンガ『落第忍者乱太郎』は25年も連載しており、テレビアニメも18年も放映されているにもかかわらず、私はいずれもまったく目にしたことがなく、こんな状態でこの映画を楽しめるのか、いささか疑問だった。
しかし、「楽しめるのか」なんて杞憂だった。
それどころか、腰が抜けるほど驚いた。
なんちゅう面白さだ!
みんな、18年もこんなに面白いアニメを見ていたのか!25年もこんなに面白いマンガを読んでいたのか!!
今回の劇場版は原作の37巻がベースだそうだが、朝日小学生新聞はこんな骨太の物語を連載しているのか!!!
たぶん、何をどう褒めたって、『忍たま乱太郎』ファンは先刻ご承知なのだろう。
それにしても、忍者らしい諜報活動と、「全員出動」に相応しい大陰謀への流れは、一瞬たりとも退屈させないスピード感があっぱれだ。さらに、迫力の合戦へ向けてぐいぐい盛り上げる手腕は見事で、『七人の侍』を彷彿とさせる。
そもそも、忍者が主体となって合戦を行う作品は珍しいのではないか。忍者といえば、派手な合戦の裏側で諜報活動に励んだり暗闘するのが常だった。もちろん、史実としては伊賀勢が織田軍と戦った天正伊賀の乱もあるが、忍者映画での合戦は私には新鮮だった。
時代考証もしっかりしており、たいへん勉強になる。要所々々で忍術学園の先生たちが生徒に講釈する場面があり、観客も大いに学ぶことができる。原作者尼子騒兵衛氏は史学を学んだ方なので、そのスタンスがアニメにも受け継がれているのだろう。
そんな中でも、とりわけ唸らされたのは、劇中に登場する大人たちが、ちゃんと大人であることだ。どの人物も、大人としての思慮と責任感を自然に体現しているのだ。
そして子供はあくまで子供だ。それは決して甘ちゃんという意味ではない。溌剌とした元気さや、何ごとにも怯まない向こう見ずな言動等、子供の特権を存分に活かした彼らはキラキラと輝いている。
そればかりではない。学園で保健委員を務める乱太郎は、いくさの中で敵兵に叫ぶ。
「ちゃんと治療しますから、安心して投降してください!」
これは現代日本人にとって痛烈な言葉である。すくなくとも、過去百年の日本人はこういう発想ができなかった。第二次世界大戦当時を描いた映画『太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男』では、日本兵が米兵に「『投降』ではなく『抵抗をやめろ』と云ってください」と依頼する場面がある。当時は「投降」なんて考えそのものがないことになっていて、投降を勧告されても対応できなかったのだ。この点については、以前の記事「『SPACE BATTLESHIP ヤマト』を惑わせる3つの「原作」」に述べたところである。
ところが、乱太郎たち保健委員は、敵味方の区別なく治療に当たると共に、戦場の兵たちに投降という選択肢があることを気付かせる。
うん、この映画を観る小学生たちは、きっと20世紀の日本とは違う文化を築いていくことだろう。
それは保健委員の義務と使命を誇らしく思う世の中になるはずだ。
本作は、そんな期待を抱かせてくれる映画だった。
一つ書き添えるならば、本作の「全員出動」にはいささか面食らう。
ふじき78さんは本作の感想で次のように述べている。
---
惜しむらくは私が一見さんだったので
通常のキャラの多さにちょっと付いていけなかったことだ。
---
一見さんだから話が判りにくいということではない。
どのキャラクターもはじめて見るので、久しぶりの再会や、頼もしい人物の再登場などの喜びを、分かち合えないのだ。きっとこの世界に慣れ親しんだ観客にとっては、とてもワクワクする場面ばかりなのだろう。
それを共有できなかったのがちょっと悔しい。
『忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!の段』 [な行]
監督/藤森雅也 脚本/浦沢義雄 原作/尼子騒兵衛
出演/高山みなみ 田中真弓 一龍斎貞友 河本準一 田村亮(ロンドンブーツ1号2号)
日本公開/2011年3月12日
ジャンル/[ファミリー] [アクション] [コメディ] [時代劇]

昨年、観客の涙をこれでもかと搾り取った『おまえうまそうだな』の、藤森雅也監督の最新作ということで、劇場版アニメ『忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!の段』に足を運んだ。
尼子騒兵衛(あまこ そうべえ)氏による原作マンガ『落第忍者乱太郎』は25年も連載しており、テレビアニメも18年も放映されているにもかかわらず、私はいずれもまったく目にしたことがなく、こんな状態でこの映画を楽しめるのか、いささか疑問だった。
しかし、「楽しめるのか」なんて杞憂だった。
それどころか、腰が抜けるほど驚いた。
なんちゅう面白さだ!
みんな、18年もこんなに面白いアニメを見ていたのか!25年もこんなに面白いマンガを読んでいたのか!!
今回の劇場版は原作の37巻がベースだそうだが、朝日小学生新聞はこんな骨太の物語を連載しているのか!!!
たぶん、何をどう褒めたって、『忍たま乱太郎』ファンは先刻ご承知なのだろう。
それにしても、忍者らしい諜報活動と、「全員出動」に相応しい大陰謀への流れは、一瞬たりとも退屈させないスピード感があっぱれだ。さらに、迫力の合戦へ向けてぐいぐい盛り上げる手腕は見事で、『七人の侍』を彷彿とさせる。
そもそも、忍者が主体となって合戦を行う作品は珍しいのではないか。忍者といえば、派手な合戦の裏側で諜報活動に励んだり暗闘するのが常だった。もちろん、史実としては伊賀勢が織田軍と戦った天正伊賀の乱もあるが、忍者映画での合戦は私には新鮮だった。
時代考証もしっかりしており、たいへん勉強になる。要所々々で忍術学園の先生たちが生徒に講釈する場面があり、観客も大いに学ぶことができる。原作者尼子騒兵衛氏は史学を学んだ方なので、そのスタンスがアニメにも受け継がれているのだろう。
そんな中でも、とりわけ唸らされたのは、劇中に登場する大人たちが、ちゃんと大人であることだ。どの人物も、大人としての思慮と責任感を自然に体現しているのだ。
そして子供はあくまで子供だ。それは決して甘ちゃんという意味ではない。溌剌とした元気さや、何ごとにも怯まない向こう見ずな言動等、子供の特権を存分に活かした彼らはキラキラと輝いている。
そればかりではない。学園で保健委員を務める乱太郎は、いくさの中で敵兵に叫ぶ。
「ちゃんと治療しますから、安心して投降してください!」
これは現代日本人にとって痛烈な言葉である。すくなくとも、過去百年の日本人はこういう発想ができなかった。第二次世界大戦当時を描いた映画『太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男』では、日本兵が米兵に「『投降』ではなく『抵抗をやめろ』と云ってください」と依頼する場面がある。当時は「投降」なんて考えそのものがないことになっていて、投降を勧告されても対応できなかったのだ。この点については、以前の記事「『SPACE BATTLESHIP ヤマト』を惑わせる3つの「原作」」に述べたところである。
ところが、乱太郎たち保健委員は、敵味方の区別なく治療に当たると共に、戦場の兵たちに投降という選択肢があることを気付かせる。
うん、この映画を観る小学生たちは、きっと20世紀の日本とは違う文化を築いていくことだろう。
それは保健委員の義務と使命を誇らしく思う世の中になるはずだ。
本作は、そんな期待を抱かせてくれる映画だった。
一つ書き添えるならば、本作の「全員出動」にはいささか面食らう。
ふじき78さんは本作の感想で次のように述べている。
---
惜しむらくは私が一見さんだったので
通常のキャラの多さにちょっと付いていけなかったことだ。
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一見さんだから話が判りにくいということではない。
どのキャラクターもはじめて見るので、久しぶりの再会や、頼もしい人物の再登場などの喜びを、分かち合えないのだ。きっとこの世界に慣れ親しんだ観客にとっては、とてもワクワクする場面ばかりなのだろう。
それを共有できなかったのがちょっと悔しい。
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監督/藤森雅也 脚本/浦沢義雄 原作/尼子騒兵衛
出演/高山みなみ 田中真弓 一龍斎貞友 河本準一 田村亮(ロンドンブーツ1号2号)
日本公開/2011年3月12日
ジャンル/[ファミリー] [アクション] [コメディ] [時代劇]
