『あしたのジョー』 なぜジョーは立ち上がるのか?

 ある疑問を抱えて、私は映画『あしたのジョー』を観に行ったのだが、まずは本作の作り手にお詫びしなければならない。
 私は2011年公開のこの映画を観て、「見事なCGIだなぁ」と思っていた。減量に減量を重ねた力石徹の体、鍛え抜いた矢吹丈の体、そして顔面に炸裂する激しいパンチ。どれもCGIの効果があっての映像だと思っていた。

 お見それしました。
 あの痩せ過ぎた力石の体や、パンチに歪んだ矢吹丈の顔が、本物だとは驚いた。
 素晴らしい役者たちである。撮影、照明をはじめとしたスタッフの方々も素晴らしい仕事ぶりである。

 マンガ・アニメで誰もが知る『あしたのジョー』を、ここまで見事に再現するとは、本当に驚きだ。
 一体全体、アイパッチを付けてチョビ髭を生やしたハゲで出っ歯で猫背の親父が、「立て!立つんだ、ジョー!!」と叫ぶのを見て、ギャグじゃなくてホントに盛り上がるなんて、想像だにしなかった。
 131分の尺に収めるために、多少の改変はあるものの、考えられる限り完璧に『あしたのジョー』を再現したといえるだろう。スクリーンの中には、マンガ『あしたのジョー』が連載され、アニメが放映されていた昭和40年代の世界が、そのまま映し出されていた。

 公式サイトによれば、脚本を改稿する過程では、舞台を新宿のションベン横丁にして、ジョーをバーテンダーに設定したバージョンもあったという。
 もちろん、これほど有名な作品を下手にいじったら大失敗する。バーテンダーのジョーが登場しただけで、観客がブーイングするのは間違いない。
 だから原作に忠実に映画化したのは正解だ。

 しかし、私の疑問は膨れるばかりだった。
 それは、なぜ今『あしたのジョー』を映画化したのか、ということだ。
 もちろん、知名度は抜群だし、面白い作品なので、映画化の候補としては申し分ないだろう。
 しかし、40年以上の時を経た作品を世に問うからには、いかに現代性を持たせるかがポイントだ。
 だから原作を尊重しつつも、21世紀らしい作品としてどのように化粧直しをするのか、どんな切り口を見せてくれるのか、そこに興味があった。

 ところが、映画を観て驚いた。マンガやアニメで国民に知られたものを、そっくりそのまま再現している!
 これに何の意味があるのだろう。『あしたのジョー』の物語を楽しみたければ、原作マンガを読めば良い。映像作品としても、出崎統という天才監督がアニメ化しており、その完成度の高さを知らぬものはいない。映像を楽しみたければ、アニメを見ればいい。
 『あしたのジョー』を、敢えていま実写映画にする目的は何だろう。

 私の疑問に答えるように、曽利文彦監督は次のように語っている。
---
何度倒れても、必ず起き上がってくるジョーの姿に自分自身、魅了されます。どんなにダメージを受けても必ず這い上がってくる、その力強さは世代や性別を越えて人々に勇気を与えてくれると思います。
---

 なるほど、それは確かに現代にも通じることかもしれない。
 しかし、都市開発から取り残されたドヤ街やあばら屋のような丹下拳闘クラブは、多くの現代人の生活感覚からかけ離れているのではないか、私はそう感じた。
 時代性という点では、地球を襲う大妖怪と戦う希望をホームレスとニートに見る『堀川中立売』や、幼少時に異常犯罪の犠牲となった少年少女をポップに描く『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』等の方がしっくり来ていたからかもしれない。
 釈然としないまま、私は『あしたのジョー』の上映館を後にした。


 しかし、3月11日に東日本を襲った東北地方太平洋沖地震の衝撃が私の思いを覆した。
 テレビに映し出される津波の脅威、そして無残な瓦礫と化した町。
 多くの人が指摘するように、私たちは戦後最大の危機の渦中にいる。

 そんな今、私の脳裏にはボロボロになっても立ち上がるジョーの姿が浮かんでいる。
 かつてこの国は、戦後の焼け野原から復興し、高度経済成長を成し遂げた。
 その高度経済成長期に発表された『あしたのジョー』は、どんなにダメージを受けても必ず這い上がる物語だ。
 
 今こそ、ギャグじゃなくてホントに盛り上がるセリフが必要とされているのだ。
 「立て!立つんだ、ジョー!!」


あしたのジョー <Blu-ray>プレミアム・エディション(特典DVD付2枚組)あしたのジョー』  [あ行]
監督/曽利文彦
出演/山下智久 伊勢谷友介 香里奈 香川照之 勝矢 モロ師岡 西田尚美 杉本哲太 倍賞美津子 津川雅彦
日本公開/2011年2月11日
ジャンル/[ドラマ] [青春] [スポーツ]
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【genre : 映画

tag : 曽利文彦 山下智久 伊勢谷友介 香里奈 香川照之 勝矢 モロ師岡 西田尚美 杉本哲太 倍賞美津子

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