『ザ・タウン』 事件のたびに変わるのは?

 【ネタバレ注意】

 『ザ・タウン』を観た翌々日、再び映画館に足を運んで『ザ・タウン』を観た。こんなことは初めてである。
 1度目は大いに楽しんだ。2度目は脚本の妙に感心した。
 本作では、後のシーンで登場するものは何らかの形であらかじめ触れているので、結末まで知った上で最初から観ると、改めて良く練られた脚本であることを実感する。

 たとえば、主人公ダグとヒロインがリビングルームでいちゃつくシーン。
 「早くベッドにいこうぜ。向かいのオヤジに覗かれちまう。」そう云って二人は早々にベッドインする。
 こういうシーンでは、観客はベッドの二人に気を取られてしまい、これが何かの伏線だなんて思いもしない。
 けれどもこの会話があるから、後で向かいのアパートからリビングルームを監視するときになって、各戸の位置関係を自然に受け入れることができるのだ。

 また、多くのセリフが二重の意味を持っているのも面白い。
 たとえば、ヒロインが銀行強盗に酷い目に遭わされたことを打ち明けるシーン。主人公ダグの「sorry」を字幕では「気の毒に」と訳しており、ヒロインも優しいダグの言葉に安心して会話を続ける。しかし、観客はダグこそが強盗だったことを知っている。だから「sorry」は「すまない」でもある。
 こんなセリフのやりとりに、多くの観客がニヤリとしたことだろう。


 このように本作はセリフの一つひとつが考え抜かれているが、決して奇をてらうようなことはせず、基本に忠実だ。山場の作り方もセオリーどおりである。
 映画館で観ただけなので正確な時間配分は計測していないが、岡田斗司夫氏が『東大オタキングゼミ』に示した、ヒット作のタイムテーブルと比べてみよう。

 『ザ・タウン』の大きな山場は三つ。すなわち強盗事件を三回起こすのだが、それぞれ違うタイプの強盗で観客を飽きさせない。
 まず、第一の山場は銀行強盗。映画はいきなりここから始まる。『アンストッパブル』以上に単刀直入な始まり方で、掴みはOKである。
 岡田斗司夫氏は、最初の山場は開巻から10分目にあるとして、『ターミネーター』で未来からやってきたT-800がマッチョな革ジャン男をボコボコにどつき倒す例を挙げるが、本作でこれは銀行強盗事件に当たる。いきなり大事件から始まるのは、007シリーズや寅さんシリーズと同じフォーマットである。

 20分目はクールダウンするところ。『ターミネーター』では主人公サラのつまらない日常と、その日常から抜け出したいという内面的な動機が描かれる。
 『ザ・タウン』でもダグが酒をやめて、仲間たちとは違う生活を送りたがっている内面が描かれている。

 30分目には、主人公のすべての動機が与えられる。『ターミネーター』では、T-800が大暴れしてサラは逃げ出す破目になる。
 『ザ・タウン』では、ダグがヒロインであるクレアと親しくなり、以降においてダグがクレアと幸せになろうとする動機が与えられる。

 45分目では、状況が大きく変わる。『ターミネーター』では、未来から来たカイルが、サラが狙われる理由を説明することで、これからサラとカイルはT-800と戦わなくてはならないことが判る。
 『ザ・タウン』では、強盗稼業に満足している旧友ジェムと、こんな生活は終わらせたいダグとの亀裂が明らかになり、ダグは次の仕事を最後に街を出ると宣言する。

 60分目は観客の興奮がだいぶ低くなるところ。『ターミネーター』では、サラとカイルが荒れ地に潜んで静かに思い出話をする。
 『ザ・タウン』では、ダグが服役中の父を訪ね、静かに親子の会話を交わす。

 75分目は、中盤最大の盛り上がるを見せるところ。『ターミネーター』では、サラとカイルが遂に結ばれる。
 『ザ・タウン』もラヴストーリーの要素が濃厚だから、『ターミネーター』同様にラヴシーンをここに持ってきてもいいのだが、ラヴシーンはクールダウンしている最中に惜しみなく見せてしまって、ここでは第二の強盗事件を起こす。今度は現金輸送車の襲撃である。第一の銀行強盗が、計画の綿密さと手際の良さで圧倒するのに対し、第二の事件はカーアクションで興奮させる。狭い路地でのパトカー軍団との追跡劇はスリル満点だ。

 このあと映画は80分目から90分目にかけて、主人公が悩む。『ザ・タウン』では、ダグがクレアとの関係に苦悩することになる。
 そうしていったん観客の興奮を最低レベルまで盛り下げておいてから、あとはクライマックスに向けて一気に上昇させていく。『ザ・タウン』では第三の強盗事件、スタジアム襲撃を実行する。ここでは激しい銃撃戦が展開され、観客の興奮は最高潮に達する。

 手許にDVDがあったらきちんと検証してみたいが、おおむね標準的なタイムテーブルどおりだろう。『ザ・タウン』は、実に優等生的な映画である。


 とりわけ、同じ強盗事件ながら三つの事件の位置付けを変えて、異なる特徴と見どころを用意しているのはさすがである。
 第一の事件はダグたちの紹介編だ。ここでダグたちの計画の周到さと完璧な腕前を見せつける。かつて銀行破りをクライマックスに持ってきた映画が多かったが、本作はそのネタを冒頭の掴みの部分に使ってしまう。
 第二の事件は手に汗握るカーアクションだ。クライムストーリーの楽しさの一つは追跡劇、その魅力をここで観客に提示する。
 第三の事件は銃撃戦。犯罪者集団と警察とが文字どおり火花を散らす。

 これら三つの事件を通して、ダグたちは次第に追い詰められていくのだが、それをコスチュームで表現するのが面白い。
 第一の事件では、ダグたちはドクロの覆面を被っている。観客に恐怖と不気味さを覚えさせ、犯行の完璧さと併せて、ダグたちが恐るべき集団であることを印象付ける。
 第二の事件では、シスターの覆面を被っている。『マチェーテ』でも自動小銃をぶっ放すシスターが登場したように、ここでは楽しさや爽快感が得られる。それと同時に、ドクロのような恐怖感は伝わらず、計画の不安定さや失敗の可能性を感じさせる。
 第三の事件で、ダグたちは素顔をさらす。もう生身の人間でしかないことが強調され、観客は彼らに危機が迫っていることを知る。

 警察のかかわり方もそれぞれの事件で異なる。
 第一の事件では、もう強盗が終わったあとに駆けつける。警察は無力だ。
 第二の事件では、網を張って強盗を引っ掛けることに成功する。第一の事件よりは進歩している。
 第三の事件で、警察は遂にダグたちを包囲する。そして銃撃戦になだれ込む。
 徐々に盛り上げる必要があるのだから、当然と云えばとうぜんの描き方だが、これが案外難しい。

 ダグたちがへまをして警察に包囲されるのなら、ダグの腕前に対する観客の信用は失墜し、攻防戦は白けてしまう。逆に警察が巧い手を編み出したなら、初めからそれをやれよと突っ込まれてしまう。だから、ダグたちが徐々に追い詰められる過程を描こうにも、ダグたちにヘマはさせられないし、警察が急に優秀になるわけにもいかない。
 それなのに、多くの映画では犯罪者にヘマをさせたり、警察側に優秀な人物やモノを登場させて、しばしば観客を白けさせる。
 ところが本作は、それをコスチュームで表現する。ダグたちは最初は怪物集団だったのに、事件のたびに人間らしい格好になり、最後はただの人間として警官隊と対峙する。そのコスチュームを見るだけで、観客は銃撃戦の結末を自然に受け入れるのだ。

 一応、ヘマはある。
 銀行強盗の際に、顔を覆面で隠していながら、刺青を見られてしまうという失策を犯す。観客は、てっきりこの刺青が命取りになると思うだろう。
 ところがこれはフェイクなんである。
 後になって刺青の件はちゃんと出てくるものの、そんなもので破滅するダグたちではないのだ。
 ダグたちを破滅させる遠因になるのは、事件にはまったく関係なさそうなプレゼントである。その計算された因果関係とさりげない使い方には舌を巻くしかない。

 そしてまた、ダグたちを凄腕に見せるには、警察の間抜けさに依存してはいけない。警察はちゃんとやっているけれどもダグたちがそれを上回るんだとアピールしなければ、面白い犯罪映画にはならない。
 そこで本作では、『CSI:科学捜査班』やそのスピンオフシリーズ等のファンでも納得するように証拠を隠滅する。CSIファンにはお馴染みの漂白剤をまき散らして皮膚片のDNAを破壊し、監視カメラのハードディスクにはマイクロ波を照射してぶっ壊す。
 『CSI:科学捜査班』が放映されるようになってから、事件現場に残される証拠が減った事実を踏まえているのだ。


 このように三つの事件には異なる特徴と見どころが用意されるのだが、その合間のシークエンスも飽きさせない。
 前半でダグがクレアを監視するシーンでは、監視するダグが主体だとばかり思っていたら、クレアが場を主導するのでビックリする。クレアに話しかけられてダグはビックリしただろうが、観客だってビックリだ。
 ダグがクレアに想いを抱くところも、クレアをいじめるチンピラをこてんぱんにするというアクションで表現する。しかもそこで、ダグと旧友ジェムとの暴力に対するスタンスの違いを示し、後の亀裂の伏線とする。
 もうほとんどすべてのシークエンスが、伏線と、伏線の回収からなっているのだ。お見事だ。

 こうして本作は、クライムアクションとして楽しませてくれながら、さらに緻密な構成の中にうっ屈した地方都市の情景を織り込んで、故郷のしがらみから抜け出せない男の苦悩や、泣かせるラヴストーリーまで展開する。
 あれもこれも見応え充分で、まるでお得な幕の内弁当である。
 その上、犯罪映画でありながら、意外に後味も良い。何しろデザートはフロリダ産のオレンジなんだから。


ザ・タウン (ベン・アフレック 監督・主演) [DVD]ザ・タウン』  [さ行]
監督・脚本・主演/ベン・アフレック  原作/チャック・ホーガン
脚本/ピーター・クレイグ、アーロン・ストッカード
出演/ジョン・ハム レベッカ・ホール ブレイク・ライヴリー ジェレミー・レナー タイタス・ウェリヴァー ピート・ポスルスウェイト クリス・クーパー スレイン オーウェン・バーク
日本公開/2011年2月5日
ジャンル/[犯罪] [ドラマ] [アクション]

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