『英国王のスピーチ』 歯を食いしばっているすべての人へ
人は誰しも苦手なことがある。
職業に就くのも、必ずしも好きだから、得意だからやるわけではない。
たとえ好きなこと、得意なことを職業にしている人だって、その職業で直面するすべてのことを難なくこなせるわけではないだろう。
『英国王のスピーチ』は、誰しも抱えるそんな悩みを描いている。
主人公は後に英国王ジョージ6世となるヨーク公アルバート王子。彼の職業に対する苦手意識とあまりの嫌がりように、観客は憐れみを感じることだろう。
王族として厳しく躾けられるばかりで、褒められたことのない彼は、過度のストレスから吃音症(どもり)になっていた。
にもかかわらず、王族には式典でのスピーチがつきものである。人前で話すのが苦手な彼に、スピーチは苦痛以外の何ものでもなかった。
大勢の聴衆を前に口ごもってしまう彼の姿には、誰しも同情と共感を覚えるだろう。
劇中、吃音症の患者がヨーク公とは知らない言語聴覚士のライオネル・ローグが、「スピーチが苦手なら転職しては?」と問うシーンがある。
もちろん、王族に生まれ、王族であることが仕事になっている身には、「転職」なんて論外だ。
しかし、実際には王族とて転職可能だ。現にエドワード8世はみずからの意思で退位している。
けれども、苦手なことがあるからといって転職すればいいわけではない。アルバート王子ばかりでなく、多くの人が、苦手なことや気が進まないことを、何とか乗り切ろうともがいている。
本作は、人前で話せないヨーク公アルバート王子と、彼を治療するライオネル・ローグが、吃音症を克服するために努力を重ねる物語だ。
皮肉なことに、アルバート王子がやりたくもないスピーチのために聴衆の前に立たねばならないのとは裏腹に、ライオネルは舞台に立って観客の前で芝居したいと願いながら一向に夢を果たせない。
この二人が、身分や立場の違いを超えて苦手なことに取り組み、一緒になってスピーチを成功させんとする姿に、観客は感動せずにいられない。
そして重要なのが、二人を支えるそれぞれの家族である。
山田洋次監督は、若いころに先輩から次のように云われたそうだ。
「いいか、映画を撮るとき、どんな世代でもいい。必ず家族の関係を仕掛けとして入れておけ。映画全体が落ち着くから」
本作にも、家族の関係がたくさんある。
アルバート王子には、厳しい父王から受け継ぐものがある。そして、夫のために言語障害の医者を探してくれる王妃と、嫌なことがあったときも笑顔で迎えてくれる子供たちがいる。
ライオネルも、彼の話に耳を傾けてくれる妻や、趣味の芝居に付き合ってくれる子供たちに囲まれている。
二人が困難に取り組めるのも、家族の支えがあればこそだ。
本作により、第83回アカデミー賞脚本賞や英国アカデミー賞オリジナル脚本賞など多くの賞に輝いたデヴィッド・サイドラーは、みずからも吃音で、無口な人間として過ごしてきたという。
そんな彼だからこそ、吃音症でありながら公務に努めなければならなかった王子の物語を世に訴えたかったのだろう。
『英国王のスピーチ』は、苦手なことがあるけれど、嫌で嫌でしようがないことがあるけれど、それでも歯を食いしばって努力しているすべて人へ、慰めと勇気を与えてくれる。
嫌々即位してジョージ6世となったアルバートが、その誠実な性格から「善良王」と呼ばれて国民に親しまれるようになるのは、本作より後の話である。
『英国王のスピーチ』 [あ行]
監督/トム・フーパー 脚本/デヴィッド・サイドラー
出演/コリン・ファース ジェフリー・ラッシュ ヘレナ・ボナム=カーター ガイ・ピアース ティモシー・スポール デレク・ジャコビ ジェニファー・イーリー マイケル・ガンボン
日本公開/2011年2月26日
ジャンル/[ドラマ] [伝記]
http://bookmarks.yahoo.co.jp/bookmarklet/showpopup?t='+encodeURIComponent(document.title)+'&u='+encodeURIComponent(location.href)+'&ei=UTF-8','_blank','width=550,height=480,left=100,top=50,scrollbars=1,resizable=1',0);">
職業に就くのも、必ずしも好きだから、得意だからやるわけではない。
たとえ好きなこと、得意なことを職業にしている人だって、その職業で直面するすべてのことを難なくこなせるわけではないだろう。
『英国王のスピーチ』は、誰しも抱えるそんな悩みを描いている。
主人公は後に英国王ジョージ6世となるヨーク公アルバート王子。彼の職業に対する苦手意識とあまりの嫌がりように、観客は憐れみを感じることだろう。
王族として厳しく躾けられるばかりで、褒められたことのない彼は、過度のストレスから吃音症(どもり)になっていた。
にもかかわらず、王族には式典でのスピーチがつきものである。人前で話すのが苦手な彼に、スピーチは苦痛以外の何ものでもなかった。
大勢の聴衆を前に口ごもってしまう彼の姿には、誰しも同情と共感を覚えるだろう。
劇中、吃音症の患者がヨーク公とは知らない言語聴覚士のライオネル・ローグが、「スピーチが苦手なら転職しては?」と問うシーンがある。
もちろん、王族に生まれ、王族であることが仕事になっている身には、「転職」なんて論外だ。
しかし、実際には王族とて転職可能だ。現にエドワード8世はみずからの意思で退位している。
けれども、苦手なことがあるからといって転職すればいいわけではない。アルバート王子ばかりでなく、多くの人が、苦手なことや気が進まないことを、何とか乗り切ろうともがいている。
本作は、人前で話せないヨーク公アルバート王子と、彼を治療するライオネル・ローグが、吃音症を克服するために努力を重ねる物語だ。
皮肉なことに、アルバート王子がやりたくもないスピーチのために聴衆の前に立たねばならないのとは裏腹に、ライオネルは舞台に立って観客の前で芝居したいと願いながら一向に夢を果たせない。
この二人が、身分や立場の違いを超えて苦手なことに取り組み、一緒になってスピーチを成功させんとする姿に、観客は感動せずにいられない。
そして重要なのが、二人を支えるそれぞれの家族である。
山田洋次監督は、若いころに先輩から次のように云われたそうだ。
「いいか、映画を撮るとき、どんな世代でもいい。必ず家族の関係を仕掛けとして入れておけ。映画全体が落ち着くから」
本作にも、家族の関係がたくさんある。
アルバート王子には、厳しい父王から受け継ぐものがある。そして、夫のために言語障害の医者を探してくれる王妃と、嫌なことがあったときも笑顔で迎えてくれる子供たちがいる。
ライオネルも、彼の話に耳を傾けてくれる妻や、趣味の芝居に付き合ってくれる子供たちに囲まれている。
二人が困難に取り組めるのも、家族の支えがあればこそだ。
本作により、第83回アカデミー賞脚本賞や英国アカデミー賞オリジナル脚本賞など多くの賞に輝いたデヴィッド・サイドラーは、みずからも吃音で、無口な人間として過ごしてきたという。
そんな彼だからこそ、吃音症でありながら公務に努めなければならなかった王子の物語を世に訴えたかったのだろう。
『英国王のスピーチ』は、苦手なことがあるけれど、嫌で嫌でしようがないことがあるけれど、それでも歯を食いしばって努力しているすべて人へ、慰めと勇気を与えてくれる。
嫌々即位してジョージ6世となったアルバートが、その誠実な性格から「善良王」と呼ばれて国民に親しまれるようになるのは、本作より後の話である。
![英国王のスピーチ コレクターズ・エディション [Blu-ray]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/511HV6RTcqL._SL160_.jpg)
監督/トム・フーパー 脚本/デヴィッド・サイドラー
出演/コリン・ファース ジェフリー・ラッシュ ヘレナ・ボナム=カーター ガイ・ピアース ティモシー・スポール デレク・ジャコビ ジェニファー・イーリー マイケル・ガンボン
日本公開/2011年2月26日
ジャンル/[ドラマ] [伝記]


【theme : ヨーロッパ映画】
【genre : 映画】
tag : トム・フーパー コリン・ファース ジェフリー・ラッシュ ヘレナ・ボナム=カーター ガイ・ピアース ティモシー・スポール デレク・ジャコビ ジェニファー・イーリー マイケル・ガンボン