『洋菓子店コアンドル』 その配役は逆だろう!

 「今さぁ、あんな子がホントにいたら絶対嫌われるよね。」

 ずいぶん前のことだが、数人の女性がアニメについて話していたときに、『アタックNo.1』が話題に上った。彼女たちは口々に、『アタックNo.1』の主人公・鮎原こずえは嫌な子だと云う。彼女たちによれば、どうやら昔のアニメの主人公は誰も彼も嫌な人間らしく、その代表がバレー部のキャプテン鮎原こずえなのだという。
 一体、鮎原こずえのどこが嫌なのかというと、次の点だそうだ。

 1. 空気を読まない。
 2. 思い込みが激しい。
 3. 自己主張が強い。
 4. 云うことがきつい。

 まぁ、そう云われればそうかもしれない。
 周囲の人間に対して、「あなたはここが悪いのよ」てな言葉をズケズケと浴びせるのだから、身近にいたら嫌かもしれない。
 とはいえ、昔のアニメやテレビドラマの主人公は、多かれ少なかれそんな感じだった。主人公らしさとは、他の人間よりも目立つ言動を取ることだった。

 それがいつしか、厳しいキャプテンよりも、ちょっと落ちこぼれ気味の方が、主人公に相応しいとみなされるようになった、気がする。
 少なくとも、上の4点を備えた、鮎原こずえに匹敵するような人間は、影を潜めたように思う。


 ところが久しぶりに、空気を読まなくて、思い込みが激しくて、自己主張が強くて、云うことがきつい主人公に出会った。『洋菓子店コアンドル』の臼場なつめである。
 演じるのは蒼井優さんだ。とても可愛らしく演じている。
 ところが、可愛い顔して、これがけっこう嫌なヤツなんである。
 周りからケーキ作りは下手だと云われているのに、なぜか絶大なる自信を持ち、勝手なことをしまくり、陰口を本人の目の前で云う(それは陰口じゃない!)。

 そのため、先輩のマリコとぶつかってばかりいる。
 マリコを演じる江口のりこさんは、例によって仏頂面で嫌なヤツっぽさ全開である。ところが二人の言動に注意して見ると、理に適ったことを云っているのはマリコであり、なつめは笑顔が可愛いだけで云ってることは無茶苦茶だ。
 内面と外見が逆なのだ。なつめのきついセリフを口にするのが蒼井優さんで、その相手が仏頂面の江口のりこさんだから、印象が逆転してしまう。
 たとえば、なつめが男に振られたのは誰の目にも明らかなので、マリコは敢えて男の話はしないのだが、それを知ったなつめは、「黙ってた!」と怒り出す。なつめの自己中心ぶりの最たるシーンだが、まるで黙っていたマリコが悪いように見えてしまうから面白い。

 江口洋介さんが演じる伝説のパティシエも、なかなか一筋縄ではいかない人物だ。
 なつめは彼からケーキ作りを学ぶのだから、彼は鮎原こずえを鍛えた鬼監督の猪野熊に相当する。
 ところが彼は、もうケーキ作りができなくなっていて、なつめに理由を問いただされると家に逃げ帰ってメソメソしてしまう。ただの引き篭もりである。一応、外出しているから、引き篭もりとは云わないか。
 でも、自分をもっとも活かせるはずのケーキ作りを避けて、他人のケーキを論評するだけの彼は、ブログに映画の感想を書いてるだけのヤツと変わらない(^^ゞ
 公式サイトによれば、江口洋介さんはオファーを受けたときに「正直自分じゃないのでは?」と思ったそうだ。たしかに江口洋介さんのこれまでの役に比べると、ずいぶんと線が細い。結局彼はなつめに振り回されっぱなしなのだ。

 ただ、それを敢えて江口洋介さんが演じるから様になる。
 彼が再びケーキを作るようになる心理をくどくど説明しなくても、厨房に立つだけで説得力がある。観客は、彼がメソメソして終わるはずがないと信じているからだ。


 空気を読まないなつめは、徐々にケーキ作りの腕を上げ、やがて世界を視野に入れる。『アタックNo.1』のような典型的なスポ根物の展開であり、そのためには主人公が鮎原こずえ並みにアクが強いのももっともである。
 だが、それを蒼井優さんがチャーミングに演じた上に、意地悪そうな江口のりこさんが際立たせ、さらに指導者たるパティシエをメソメソした人物にすることで主人公の押しの強さを正当化する。
 「あんな子がホントにいたら絶対嫌われるよね」と云われてしまうスポ根路線でありながら、配役の妙により口当たりを良くすることで、積極的な女の子を応援する映画になっているのだ。

 さらに、全編を飾るのは、美味しそうなスイーツの数々だ。
 バレンタインデーに相応しい1本だが、素敵な彼氏をゲットするより仕事を大切にするのが現代風である。


洋菓子店コアンドル [Blu-ray]洋菓子店コアンドル』  [や行]
監督・脚本/深川栄洋
脚本/いながききよたか、前田こうこ
出演/江口洋介 蒼井優 戸田恵子 江口のりこ 尾上寛之 粟田麗 ネイサン・バーグ 加賀まりこ 鈴木瑞穂 佐々木すみ江 嶋田久作
日本公開/2011年2月11日
ジャンル/[ドラマ]

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