『ソーシャル・ネットワーク』 友達いる?

 『ソーシャル・ネットワーク』というタイトルは、とうぜんFacebookそのものが代表するSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のことだと思った。
 しかし、それでは映画の題材にならないだろう。デヴィッド・フィンチャー監督が描いたのはもう一つの意味、社会的な繋がりということだった。

 この映画は、Facebookを創設したマーク・ザッカーバーグと親友エドゥアルド・サベリンの、学生時代からの短期間を取り上げている。もっとも、その短期間でマークは冴えない一学生から裕福な経営者になるのだから、タイムスパンとしては充分だ。

 物語は、すでにマークとエドゥアルドが友達であるところから始まる。テンポを重視した本作は、二人が仲良くなるキッカケを描かないが、単にルームメイトだから仲良くなりました…では済まないほど対照的な人物に設定されている。
 なぜなら二人は、異なる時代の代表者だからだ。
 エドゥアルドは、保守的とも云われるハーバードと、古い時代を体現している。いつでもビジネスマン風のいでたちで、大学の伝統あるクラブへも入会を許可される人物だ。友達も多い。
 対するマークは、いつもカジュアルな格好で、クラブに入りたいと思っても実現しない変人だ。友達はたったの3人。

 Facebookを立ち上げた後のビジネスの進め方もまったく異なる。経済学専攻のエドゥアルドは、早く利益を出すことを考え、スポンサーを求めて足を棒にする。
 コンピュータ科学専攻のマークは、収益なんか後回しで良いと考えている。まずはこのクールなサイトを成長させて、利用者を拡大したいのだ。

 観客は、いまやマーク・ザッカーバーグが40億ドルの資産を持ち、フォーブス誌が発表した「世界で最も若い10人の億万長者」の第1位に最年少で選ばれたことを知っている。
 だからこそ、この映画は良識あるカッコいいエドゥアルドと変人マークを対比させて、マーク・ザッカーバーグの成功の秘密に観客の関心を惹きつける。


 ここで私は、1983年の映画『ライトスタッフ』を思い出していた。
 世界初の有人宇宙飛行を目指す男たちを描いたこの作品では、冒頭で空軍のテストパイロット、チャック・イェーガーの雄姿を描く。
 ところがイェーガーの活躍とは別に、パイロットの中に宇宙飛行士を目指す者が現れる。飛行機のパイロットであることを誇りにしているイェーガーにとっては、猿でもできる宇宙飛行を目指すヤツなんてパイロットの風上にも置けない。イェーガーの活躍を見ていた観客は、みんな彼に同感だ。
 だが、時代は宇宙開発競争に注目していた。今だって宇宙飛行士の名前は国中が知っているけれど、飛行機のパイロットで宇宙飛行士に匹敵するほど名を知られる人はいないだろう。
 『ライトスタッフ』では、空軍パイロットの雄姿に目を配りつつも、「宇宙飛行」という新分野を切り開いた男たちが栄光に包まれる。

 『ソーシャル・ネットワーク』でも同様である。
 たしかに、エドゥアルドはいいヤツだ。ハーバードの伝統的な校風にも合うだろう。マークなんて、現実に高飛車で尊大な人物という定評を確立している
 しかし、新しい分野で成功していくのが、いいヤツとは限らない。マークはもとより、マークに輪をかけて無茶苦茶なショーン・パーカーらの進め方が、現実のビジネスでは有効だったのだ。
 本作の基になったノンフィクション『facebook』では、シリコンバレーの起業家ショーン・パーカーの想いが紹介されている。
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シリコンバレーではビジネスではなく、戦争が起きている。そこで生き残るには、大学の教室でビジネスについて教えてくれるようなことをやっていてはダメだ。
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 数多くの企業を調査した三品和広氏も、事業の寿命を乗り切って永続する企業への道を開くのは、「異端児」と言うべき人物だと主張する。
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生徒会長や運動部の主将に選ばれる人は、正論を貫く優等生的な人物が多い。そうした典型的なリーダーは、どうしても常識にとらわれがちだ。世の中を斜めに見て、人とは異なる物の見方をするのは難しい。
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 ハーバードの秀才であるエドゥアルドが、ソーシャル・ネットワーキング・サービスのようなネットワーク外部性の高いビジネスにおいて重要なのは、ちまちま利益を出そうとすることではなく、赤字でも利用者数を増大させることだと気づかないはずはない。2004年当時なら、赤字の克服よりも事業拡大を優先したAmazon等の事例を良く知っていたはずだ。
 しかし、オフィシャルサイトによれば、脚本家アーロン・ソーキンは、本作を「アンチヒーローであるマークが、途中で代償を払うことによって、最後に悲劇的なヒーローになる」物語だと考えていたという。
 この映画でのエドゥアルドは、マークとは違うもの、あるいは失うものの象徴なのだ。

 そんなエドゥアルドが、そもそもなぜマークと友人になったのか。単なるルームメイトを越えて、事業の共同設立者になったのはなぜか。
 映画はそこに深入りしない。本当にエドゥアルドとマークにルームメイトであることの他に共通点がなければ、親友になりはしまい。冒頭に二人が親交を結ぶシーンでもあれば、私たちは「最後に悲劇的なヒーローに」なったマークに、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』のような感慨を覚えたことだろう。
 代わりにこの映画の作り手が冒頭に用意したのは、マークの変人ぶりを印象付ける会話劇である。以降、映画はマークの行動の理由や背景の説明を省略してしまうが(何しろマーク本人には取材できていない)、マークを変人だと思っている観客は取り立てて疑問に感じない。効果的なオープニングである。

 そして映画は、変人に栄誉を与えない。「悲劇的なヒーロー」に見えるように演出している。
 なぜなら、私たち観客の多くは、残念ながら新しいビジネスを切り開けるほど変人ではないからだ。変人が富も名声も手にして幸せになりました、では、共感できないのである。
 それが現実なのだとしても。


 もっともマーク・ザッカーバーグ本人は、現在の恋人とはFacebook開設以前から交際していると述べ、人付き合いもできることを示そうとしているが。


ソーシャル・ネットワーク (デビッド・フィンチャー 監督) [DVD]ソーシャル・ネットワーク』  [さ行]
監督/デヴィッド・フィンチャー
出演/ジェシー・アイゼンバーグ アンドリュー・ガーフィールド ジャスティン・ティンバーレイク アーミー・ハマー マックス・ミンゲラ ブレンダ・ソング ルーニー・マーラ
日本公開/2011年1月15日
ジャンル/[ドラマ] [青春] [伝記]
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