『パッチギ!』の意味は?

 【ネタバレ注意】

 この感動をどうしたらいいのだろう。
 こんなにも高揚し、こみ上げるものを感じたのは久しぶりだ。まさに"グッと来る"映画だった。

 『パッチギ!』とは「頭突き」のことだ。劇中では、ケンカっ早い高校生が頭突きを食らわすシーンが何度もある。
 高校生たちはケンカに明け暮れているが、大学生は鉄棒を持って機動隊と衝突している。教師は熱心に毛沢東語録を教えている。
 映画『パッチギ!』は、そんな時代の物語である。


 過去のある時代を取り上げた作品で、私が重視するのは歴史を見る目だ。
 描かれた時代の渦中の人は、冷静に自分の時代を検証することなんてできない。彼らは、行動の結果が吉と出るか凶と出るかも判らずに、闇雲に生きている。
 だが、時代を下った私たちは、その行動の結果を知っている。当事者には知り得なかった史料を紐解くこともできる。それらを踏まえて過去を検証することが、作品を思い出話や郷愁に終わらせないためには大事だろう。

 その意味で、本作は見事に1968年を描いている。
 当時の文化、風俗、流行を再現するのみならず、絶妙なオチをつけていく。
 赤ヘル被って機動隊とぶつかる学生は、普段から思慮が足らず、ニュース映像に感化される高校生のなれの果てだ。毛語録を引用して理想を語った高校教師は、ストリップ小屋の呼び込みになってしまう。呼び込みという職業が賤しいわけではない。教師の教え子が機動隊とぶつかるようになったこととのギャップが絶妙なのだ。

 『パッチギ!』の原作は、松山猛氏の少年時代を織り交ぜた『少年Mのイムジン河』だが、この映画は単に過去を再現するだけではない。節々に皮肉と諧謔を効かせて、懐かしさに呑み込まれないようにしている。どんな時代であっても、ただ懐かしむだけで済ませられるはずはないのだ。一皮むけば、そこには過去から続く歴史の裏表と、現在に及ぶ因縁とがあるはずだからだ。

 そして本作が素晴らしいのは、過去を見つめる冷静な視点を持ちながらも、心は熱く、理想は高く、情熱的であることだろう。
 『パッチギ!』には「突き破る」「乗り越える」という意味もあるという。
 悲しみも喜びも、怒りも楽しさもないまぜになったクライマックスにいたっては、涙を拭うこともできない。


 この作品に出演した役者たちは、本当に誇らしい仕事をしたと思う。どの出演者にとっても、『パッチギ!』は代表作であろう。いつまでも語り継がれるだろう。

 そして『イムジン河』や『悲しくてやりきれない』『あの素晴らしい愛をもう一度』等の時代を彩る歌の数々が、まったく古びることなく私たちの胸に沁み込んでくる。
 そのメロディーを耳にするとき、私たちの脳裏には『パッチギ!』のギターを抱えて懸命に歌う少年の姿が浮かぶことだろう。


パッチギ! (特別価格版) [DVD]パッチギ!』  [は行]
監督・脚本/井筒和幸  脚本/羽原大介  音楽/加藤和彦
出演/塩谷瞬 高岡蒼佑 沢尻エリカ 楊原京子 尾上寛之 真木よう子 小出恵介 波岡一喜 オダギリジョー 光石研 加瀬亮 余貴美子 大友康平 前田吟 ケンドーコバヤシ 江口のりこ 徳井優 
日本公開/2005年1月22日
ジャンル/[ドラマ] [青春]
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