『ロビン・フッド』 歴史が生み出すヒーロー像の違いとは?

 ユーラシア大陸の西端と東端に、それぞれちっぽけな島国がある。
 12世紀末、東端の島では源頼朝が征夷大将軍になり、武家政権を確立していた。
 同じころ、西端の島では十字軍と称して大陸へ侵攻していた。
 どちらも大陸の高度な文明から離れた野蛮な地であった。しかし、それぞれの島と大陸との距離には違いがあり、それが両者の歴史を大きく分けた。
 西端の島は大陸と34kmしか離れておらず、容易に海を渡れたので、土地の支配を巡って大陸の人々と頻繁に戦争した。誰がどこまで支配するかは、時代によってかなり大きく変化した。
 東端の島は大陸から200kmほど離れていたため、海を渡るのは冒険だった。海をまたいだ戦争など、何世紀も行っていなかった。これには、ユーラシア大陸の東の超大国である中国が周辺に睨みを利かせていたことも、影響していただろう。

 西端の島が戦乱に明け暮れていたのに比べると、東端の島はあまりにも平和だった。
 13世紀に大陸から攻め込まれたり、16世紀に大陸へ攻め込んだりということが大事件として残るほど、19世紀までは対外的な軍事行動がなかった。そのため、その島の問題といえば、もっぱら内政面だった。だから、お上の定めたとおりにすればそこそこ上手くいったし、困ったときにはお上に裁定を頼めばよかった。

 西端の島には緊張があった。対外戦争は、一歩間違えば国が滅びる。王の隣国へのかかわり方は、諸侯にとって自分たちの領地や命に直結する関心事だった。
 だからジョン王がフランスとの戦いに負け続け、多くの領土を失ったとき、諸侯は存亡の危機に瀕していると感じた。そこで、マグナ・カルタ(大憲章)を起草し、ジョン王に突きつけた。これ以上愚かなことをされては国が滅びかねないので、王の権限を制限しようとしたのだ。

 奇しくも同じころ、東端の島では御成敗式目を制定していた。
 これは幕府が武家に対して示したものだ。いさかいが起こらないように、トップダウンで定めたのである。

 二つの島国は大陸からの距離に違いがあったため、法の制定がトップダウンとボトムアップに分かれたように、異なる体質になったのである。


 映画『ロビン・フッド』には、ロビンの次のようなセリフがある。
 「俺は十字軍として遠征し、多くの国を見てきた。専制政治が続くことはない!」
 そう叫んでジョン王にマグナ・カルタの承認を迫る。

 しかしロビンの云うことが本当かどうかは、実はまだ判らない。
 英国においても、ジョン王の時代にマグナ・カルタを認めさせはするものの、王が変われば忘れ去られた。こんにち、私たちがマグナ・カルタを知っているのは、17世紀に改めて注目されたからである。

 それでも本作は、ロビン・フッドという伝説のヒーローに託して、人々の自由と権利を語らせる。あたかも、これが史実であるかのように緻密に描く。
 そのメッセージを強調するために、ロビン・フッドの設定も大きく変わった。
 ロビン・フッドの存在は伝承に過ぎないから、どのように設定しようと作り手の自由ではある。しかしこれまでのロビン・フッドは、下級貴族もしくはヨーマン(独立自営農民)の出身として描かれることが多かった。だが、本作では、土地を持たない傭兵とされた。こうすることで、自由と権利の主張を発したのが一般大衆であることを強調した。
 『タイタンの戦い』(2010年)で、主人公ペルセウスが神の子でありながら自分は一介の人間だと主張したのと同じように、主人公の地位を下げて一般大衆の代表とする最近の傾向が、本作からもうかがえる。


 日本にはロビン・フッドに相当するヒーローがいない。
 ロビン・フッドは悪代官(体制側)と戦うアウトロー(反体制側)のヒーロー、いわゆる義賊として何世紀も語り継がれているが、日本でこんなに愛される義賊はいないだろう。
 金太郎(坂田金時)も水戸黄門も体制側だし、清水の次郎長はアウトローかもしれないが体制側と戦ったりはしない。間違っても、水戸黄門が町人の身分になって正義を主張することはない。[*]
 珍しく石川五右衛門や鼠小僧次郎吉は義賊とされるが、彼らは大名から金品をちょろまかす盗賊であり、体制と戦ったとまではいえない。
 お上の定めたとおりにしていればそこそこ上手くいってた日本では、ヒーローは為政者と戦ったりせず、せいぜいひと泡吹かせてくれれば充分なのだ。

 日英の体質の違いは、ヒーロー像にも及んでいるのである。


 やがて20世紀になって、戦争馴れしていない東端の島は、歴戦の西端の島と関係を深めることになる。ユーラシア大陸を横断する巨大国家ロシアを東西から牽制するために、日英同盟を結ぶのである。
 東端の島は、19世紀の開国とともに、世界が戦争に満ちていることに気付いた。
 そのため急いでキャッチアップを始めるのだが、戦争馴れしていないので、暴走したり引きこもったり、手綱さばきが巧くない。

 どうも、諸外国が絡んでいると、お上の定めたとおりにしても上手くいかないようである。
 やがて日本にも、体制に挑む義賊が誕生するのだろうか。


[*]『水戸黄門』を翻案したアニメ『最強ロボ ダイオージャ』では、最終話において主人公ミト王子が身分制度の撤廃を決意する。諸国を旅して、身分制度こそ改められるべきであると喝破するのだ。
 元祖たる水戸光圀公は、諸国漫遊から何を学んでいるのだろうか。


ロビン・フッド (リドリー・スコット 監督、ラッセル・クロウ 主演) [DVD]ロビン・フッド』  [ら行]
監督・制作/リドリー・スコット  脚本/ブライアン・ヘルゲランド
制作/ブライアン・グレイザー、ラッセル・クロウ
出演/ラッセル・クロウ ケイト・ブランシェット マーク・ストロング ウィリアム・ハート オスカー・アイザック マックス・フォン・シドー
日本公開/2010年12月10日
ジャンル/[アクション] [アドベンチャー]
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