『さらば愛しの大統領』 そのビジョンは転倒している

 遂に日本にも登場した!
 徹頭徹尾アホなだけの映画!!
 『オースティン・パワーズ』や『食神』にも負けない、強力コメディの誕生である。

 これまでも舞台劇ではお笑い主体の作品はあったし、舞台劇の映画化作品にはかなり笑わせてもらった。
 だが、オリジナルの映画として企画された作品でアホな笑いを追及したものは、存外少ないのではないか。

 やっぱり映画を作る人はインテリなのだろう。
 舞台のように衆人環視の中では、とにかく目の前の観客にその場でウケてもらわなければならないが、映画のように作り手だけで時間をかけて完成させていくものは、インテリっぽさが残ってしまうのかもしれない。

 しかし、『さらば愛しの大統領』では、まず冒頭のテロップでガツンとやられる。
 「アホになってください。インテリなんてカッコ悪いですから」と云い切られてしまうのだ。
 そして始まる映画は、テロップをみずから実践するアホさ加減である。

 プロデューサーの一瀬隆重氏は、公式サイトで次のよう語っている。
---
ホラーとコメディって似てるんですよ。「間合い」と「ネタ」勝負という点で。あと自分がコメディをやるなら、西の映画にしたかったんです。今、日本でコメディ映画をヒットさせられる作家って三谷幸喜さんや宮藤官九郎さんくらいしかいない。でもお二人は東の笑いなので、関西出身者としては寂しいという気持ちがあったんです。
---

 おっしゃるとおり、本作のキモは「間合い」だ。
 観客の生理を知り尽くした柴田大輔監督と世界のナベアツ監督は、実に心地よく笑える87分を提供している。少しでもリズムが狂えば単にくだらない映画に堕してしまうところを、絶妙の間合いがコメディたらしめているのだ。
 長年にわたり一瀬隆重プロデューサーのホラー映画で編集を務めてきた深沢佳文氏が、ここでも腕を振るっている。ホラーの「間合い」を知る人なら、コメディの「間合い」もこなせると考えての起用だろう。

 「アホになってください」とは、すなわち「このリズムを感じてください」ということだ。理性を残したままストーリーを追ったりしたら、リズムに乗ることはできない。
 それこそが、映画で最も大事なものだろう。

               

 それにしても、大阪が独立して大阪合衆国とは、まことに時節を得た題材である。

 合衆国という言葉の適否はともかく、行政単位としての大阪を見直そうという意見は、現職の大阪府知事、大阪市長からも飛び出している
 そもそも大阪は、かつては難波宮(なにわのみや)が置かれ、やがて難波京(なにわきょう)とも称された地で、平城京(奈良)や平安京(今では単に京又は京都と呼ぶ)よりも古い都であった。
 千数百年の歴史を誇る大阪(難波京)、奈良(平城京)、京都(平安京)に比べれば、東京は「東の京」なんて変な呼び方でも判るように、現在日本に二つある京のうちの一つでしかなく、しかも京としては1世紀半の歴史しかない。
 東京が行政の中心地になったのも江戸幕府の成立以降だから、たかだか4世紀前のことである。

 そして、日本各地で交渉ごとを行った人なら、古来から日本の中心であった大阪、奈良、京都の人々がタフな交渉相手であることをご存知だろう。
 しばしば日本の外交は弱腰であると突き上げられるが、これらの地域の人々が外交の中心だったなら、展開はずいぶんと異なるかもしれない。
 国家の重大な役割は、外交と安全保障である。
 『さらば愛しの大統領』でも、独立国を標榜するだけあって、実に大阪らしい外交と安全保障が示される。


 また大阪は、作業の生産性が高い地域でもある。
 国内約300カ所の物流センターを調査した大矢昌浩氏は、次のように述べている。
---
調査結果を基に作業生産性を地域別に比較してみたところ、「中部・北陸」の生産性はほかの地域と比べて著しく低かった。逆に生産性の高いエリアは「近畿」で、「関東・甲信越」はその中間だった。「近畿」は「中部・北陸」と比べて5割以上も生産性が高かった。
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 実際、大阪と名古屋の物流センターを比較すると、規模や業務内容、設備、運用形態がほとんど変わらないのに、名古屋の生産性は大阪の半分程度しかないそうである。
 なぜこんなに差がつくのかといえば、歩く速度の違いが影響するのだ。
 関西のセンターでは、たいていパート社員は走っている。関東のパート社員は処理動作は機敏だが、走ったりはしない。名古屋はどこもマイペースに歩いている。
 このような地域ごとの気質の差が、生産性の数字に現れるのだ。


 その他にも、映画では大阪の優れたところが笑いとともに紹介される。
 そうして大阪の独立が描かれるのだが、私に云わせれば逆である。
 大阪が優れていればこそ、日本から独立するのではなく、日本の中心となって日本を引っ張っていくべきであろう。
 その点では、現職の大阪府知事、大阪市長の意見もまだまだスケールが小さい。

 ここ150年ほど東京に天皇がいるのは、関東諸国に王化が行き届いていなかったためである。平将門が新皇を名乗ったり、武家が政権を打ち立てたりと、古くから関東は朝廷の支配が充分ではない地域であった。そこで関東に京を置き、天皇が間近で治めることにしたのである。
 したがって、現在の日本は関東の独立性を封じることを目的に形作られているわけで、大阪が独立する『さらば愛しの大統領』は逆なのだ。
 しかし、この映画が作られるほどに、東京が国家の中枢として定着したのであれば、そろそろ天皇は長年留守にしていた京都御所に戻り、京阪神一帯を日本の中心に戻しても良いのではないか。

 口が達者で、作業の生産性も高い。
 千有余年の歴史は伊達ではない。


さらば愛しの大統領 [DVD]さらば愛しの大統領』  [さ行]
監督/柴田大輔、世界のナベアツ  脚本/山田慶太  脚本協力/遠藤敬
出演/宮川大輔 ケンドーコバヤシ 世界のナベアツ 吹石一恵 大杉漣 志賀廣太郎 前田吟 宮迫博之 仲村トオル 釈由美子 神谷明
日本公開/2010年11月6日
ジャンル/[コメディ]
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【genre : 映画

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