『REDLINE』 アニメーションのシズル感とは?
あなたには、お気に入りの画家やイラストレーターがいるだろうか。
いるならば、その作品の中でも飛びっ切りな絵を思い浮かべてみて欲しい。
もしもその絵に命が宿り、息づいて、動き始めたなら、なんと楽しく、愉快だろう。
animationという言葉は、生気を与えることを意味する。動くはずのない絵が、生きもののように動き出すのがアニメーションである。
いま改めてその意味を実感する。
映画『REDLINE』は、絵が動いているのだ、凄まじい勢いで。誇張に誇張を重ねて、リアリズムを無視した絵画ならではのタッチで。
日本のアニメ界が、遂にこれほどの作品を放ったことは驚きだ。
これを作れるクリエイターが存在することにとどまらず、このようにアクの強い作品に膨大な資金と時間を投じ、102分もの劇場用作品として完成させ、数十館のスクリーンを押さえて全国公開にこぎつける。そんなことのできる日が来るとは思わなかった。
なにしろ日本では、カナダの傑作アニメ『ロックン・ルール』[*]や、未曾有のスケールを誇るSFアニメ『トランスフォーマー ザ・ムービー』(オーソン・ウェルズの遺作!)ですら劇場公開はできなかったのだ。
そんな日本で、きちんと個性を確立した作品が生まれたことは感慨深い。
『REDLINE』は純和風の絵柄なのに、「日本人がイメージするアメコミ」のタッチを重ね、さらに「外国人がイメージするカワイイ」要素を加えることで、ワールドワイドな雰囲気を漂わせている。良い意味で、見事なフェイクである。
その題材は、カーレースだ。
タイトルとなったREDLINEとは、スピードを最高速度まで出すことを意味している。
たとえば、40年にわたって続くアニメ『ルパン三世』も、その第1シリーズの第1話がカーレースで始まったように、レースの疾走感や躍動感はアニメ向け、映像向けである。
唸るマシンと、戦うレーサーたちを描くだけで、男の子の魂が震えてくる。『REDLINE』の中に、『ルパン三世』をもじったカットが挿入されるのも洒落が効いてる。
そして小池健監督にとっては、またもや走り続ける男の物語でもある。
同監督の『アニマトリックス』の第6話『ワールド・レコード』も、ドーピング疑惑にさらされながら、体が壊れるまで走り続ける短距離ランナーの話であった。
今回の『REDLINE』は、八百長問題で逮捕されても、レースをあきらめないカーレーサーの物語だ。
その舞台は『TRAVA FIST PLANET』(2002年)の15~16年前に当たると石井克人氏はいう。
公式サイトによれば、小池健監督はアニメーションでシズル感を表現することに努めたという。シズル感とは、食べ物の映像が映れば食べたくなり、飲み物が映れば飲みたくなるような感覚のことである。
本作では、それをスピード感を出すときの煙の描写やメカの光沢で表現したという。
本作で描いた絵は10万枚に及ぶそうだが、この作品にかかわったアニメーター諸氏は大満足だろう。
やっぱり描いていて面白い絵と退屈な絵がある。
アニメーターを志す人なら、驀進するメカや、目ヂカラをこめた表情や、華麗なアクションを描きたいことだろう。
本作は、全編がそんなアニメーターが喜びそうな絵ばかりなのだ。喜んで気合を入れて描いた絵は、観る者にも迫力が伝わってくる。
だからこそ、「絵が動いてる!」と実感する。
テーマを語ったり、ストーリーを展開させたりではなく、アニメーションとはまず絵を動かしてみせる芸術なのだと、改めて感じるのだ。
ちょっと真面目な振りしてテーマを語ってみるならば、それは「何のために走ってるの?」という問いかけに尽きるだろう。
主人公の名はJP、すなわち日本。
武装を辞さない熾烈な軍拡レースの中で、唯一武器を放棄して走る男だ。
彼は「スゴク優しい武器なし王子」と呼ばれるが、同時に腰抜けとみなされている。
果たして、武装するのが当たり前と考えて競争している世界各国の連中と、非武装ながら最高の技術を投入したマシンを駆るJPの、しのぎを削る先に見えるのは愛か平和か。
…なんてことを気にしてもしょうがない。
『REDLINE』は、映画館の大スクリーンで、瞬きもできないほど目まぐるしい映像を目撃し、低音がビリビリ響く大音量に身をゆだねれば、もうそれだけで充分なのだ。
[*]『ROCK&RULE/ロックン・ルール』は、制作から27年を経て、2010年12月3日にシアターN渋谷開館5周年記念作品としてモーニング&レイトショー公開された。喜ばしいことである。
『REDLINE』 [ら行]
監督/小池健 原作・脚本・音響監督/石井克人
脚本/榎戸洋司、櫻井圭記 音響監督/清水洋史
出演/木村拓哉 蒼井優 浅野忠信 我修院達也 津田寛治 AKEMI 岡田義徳 森下能幸 青野武
日本公開/2010年10月9日
ジャンル/[アクション] [SF]
http://bookmarks.yahoo.co.jp/bookmarklet/showpopup?t='+encodeURIComponent(document.title)+'&u='+encodeURIComponent(location.href)+'&ei=UTF-8','_blank','width=550,height=480,left=100,top=50,scrollbars=1,resizable=1',0);">
いるならば、その作品の中でも飛びっ切りな絵を思い浮かべてみて欲しい。
もしもその絵に命が宿り、息づいて、動き始めたなら、なんと楽しく、愉快だろう。
animationという言葉は、生気を与えることを意味する。動くはずのない絵が、生きもののように動き出すのがアニメーションである。
いま改めてその意味を実感する。
映画『REDLINE』は、絵が動いているのだ、凄まじい勢いで。誇張に誇張を重ねて、リアリズムを無視した絵画ならではのタッチで。
日本のアニメ界が、遂にこれほどの作品を放ったことは驚きだ。
これを作れるクリエイターが存在することにとどまらず、このようにアクの強い作品に膨大な資金と時間を投じ、102分もの劇場用作品として完成させ、数十館のスクリーンを押さえて全国公開にこぎつける。そんなことのできる日が来るとは思わなかった。
なにしろ日本では、カナダの傑作アニメ『ロックン・ルール』[*]や、未曾有のスケールを誇るSFアニメ『トランスフォーマー ザ・ムービー』(オーソン・ウェルズの遺作!)ですら劇場公開はできなかったのだ。
そんな日本で、きちんと個性を確立した作品が生まれたことは感慨深い。
『REDLINE』は純和風の絵柄なのに、「日本人がイメージするアメコミ」のタッチを重ね、さらに「外国人がイメージするカワイイ」要素を加えることで、ワールドワイドな雰囲気を漂わせている。良い意味で、見事なフェイクである。
その題材は、カーレースだ。
タイトルとなったREDLINEとは、スピードを最高速度まで出すことを意味している。
たとえば、40年にわたって続くアニメ『ルパン三世』も、その第1シリーズの第1話がカーレースで始まったように、レースの疾走感や躍動感はアニメ向け、映像向けである。
唸るマシンと、戦うレーサーたちを描くだけで、男の子の魂が震えてくる。『REDLINE』の中に、『ルパン三世』をもじったカットが挿入されるのも洒落が効いてる。
そして小池健監督にとっては、またもや走り続ける男の物語でもある。
同監督の『アニマトリックス』の第6話『ワールド・レコード』も、ドーピング疑惑にさらされながら、体が壊れるまで走り続ける短距離ランナーの話であった。
今回の『REDLINE』は、八百長問題で逮捕されても、レースをあきらめないカーレーサーの物語だ。
その舞台は『TRAVA FIST PLANET』(2002年)の15~16年前に当たると石井克人氏はいう。
公式サイトによれば、小池健監督はアニメーションでシズル感を表現することに努めたという。シズル感とは、食べ物の映像が映れば食べたくなり、飲み物が映れば飲みたくなるような感覚のことである。
本作では、それをスピード感を出すときの煙の描写やメカの光沢で表現したという。
本作で描いた絵は10万枚に及ぶそうだが、この作品にかかわったアニメーター諸氏は大満足だろう。
やっぱり描いていて面白い絵と退屈な絵がある。
アニメーターを志す人なら、驀進するメカや、目ヂカラをこめた表情や、華麗なアクションを描きたいことだろう。
本作は、全編がそんなアニメーターが喜びそうな絵ばかりなのだ。喜んで気合を入れて描いた絵は、観る者にも迫力が伝わってくる。
だからこそ、「絵が動いてる!」と実感する。
テーマを語ったり、ストーリーを展開させたりではなく、アニメーションとはまず絵を動かしてみせる芸術なのだと、改めて感じるのだ。
ちょっと真面目な振りしてテーマを語ってみるならば、それは「何のために走ってるの?」という問いかけに尽きるだろう。
主人公の名はJP、すなわち日本。
武装を辞さない熾烈な軍拡レースの中で、唯一武器を放棄して走る男だ。
彼は「スゴク優しい武器なし王子」と呼ばれるが、同時に腰抜けとみなされている。
果たして、武装するのが当たり前と考えて競争している世界各国の連中と、非武装ながら最高の技術を投入したマシンを駆るJPの、しのぎを削る先に見えるのは愛か平和か。
…なんてことを気にしてもしょうがない。
『REDLINE』は、映画館の大スクリーンで、瞬きもできないほど目まぐるしい映像を目撃し、低音がビリビリ響く大音量に身をゆだねれば、もうそれだけで充分なのだ。
[*]『ROCK&RULE/ロックン・ルール』は、制作から27年を経て、2010年12月3日にシアターN渋谷開館5周年記念作品としてモーニング&レイトショー公開された。喜ばしいことである。
『REDLINE』 [ら行]
監督/小池健 原作・脚本・音響監督/石井克人
脚本/榎戸洋司、櫻井圭記 音響監督/清水洋史
出演/木村拓哉 蒼井優 浅野忠信 我修院達也 津田寛治 AKEMI 岡田義徳 森下能幸 青野武
日本公開/2010年10月9日
ジャンル/[アクション] [SF]