『鋼鉄番長』 これを見せてもいいのか!?
「東京はバカに飢えている。」
劇団☆新感線を主宰するいのうえひでのり氏が、東京進出第二弾の『宇宙防衛軍ヒデマロ3 KILLFER RISING』公演後に語った言葉である[*]。
なるほど、当時の東京の小劇場でも笑いを重視した作品は多かったが、大阪から殴りこんできた彼らのバカさはハンパではなかった。
1988年の秋、たった5日間の東京公演につめかけた観客は、座布団を敷いた狭い客席で、膝を抱えてすし詰めになりながら、バカな芝居に死ぬほど笑った。
火事場で下着泥棒をするヒデマロ(いのうえひでのり)の姿に笑うたび、隣や後ろの人にぶつかりまくった。
そして東京の観客たちは、大阪のバカ集団の再来を熱望した。
それから長いこと、劇団☆新感線の芝居を楽しませてもらってきた。ときどき見逃してしまったこともあるけれど、時間の許す限り観るようにしてきた。
他の劇団が解散したり、方向性が変わっても、劇団☆新感線はバカ集団であり続けた。
やがて私は、あまり足繁く芝居にいけなくなったこともあり、いつしか劇団☆新感線の芝居しか見なくなっていた。
しかし正直に告白すると、ここ数年はあまり楽しめなかった。
これは、慣れによるところが大きいと思う。
たとえば「笑い」について、ウィキペディアでは「笑いは構図のずれである」との分析を記載している。受け手が抱いている構図(既成概念といっても良かろう)からずれたことが起こると、受け手は笑う。受け手が、起こった出来事を「意外ではない」「目新しくない」と感じる場合は、構図のずれが発生しないために笑いは起きない。
20年以上も、同じようなテンポ、同じようなツッコミ、同じようなオチを見続けてきたのだから、笑えなくなるのも致し方ない。
それは笑いに限らない。
笑いよりもストーリー性の豊かさを前面に打ち出した『仮名絵本西遊記』(1989年)を観たときは衝撃だったが、それも『アテルイ』(2002年)で極めた感がある。
作り手が毎回工夫を凝らしているのは承知している。作者が交代したり、新たな客演を招いたり、今までにない劇場に挑戦したりと趣向を変えているのだが、それもなんだか想定の範囲内であった。
ところが、久しぶりに別の劇団の芝居を観に行って、考えを改めた。
その劇団もこれまで何度か観ているのだが、笑いの要素がなく、私には格調高すぎるので、足が遠のいていた。
だが、久しぶりに観た芝居で、改めて歌と踊りの巧さに舌を巻いた。ロングランを重ねるのも、もっともである。
しかし、私には物足りなかった。
主人公のセリフに対して、ツッコミがない。
退場する者が捨てゼリフを吐かない。
群舞は見事なのに、殺陣がない。
いやいや、ツッコミとか捨てゼリフとか殺陣とかを期待する劇団ではない。それは判っているのに、「ここで一言ツッコミが欲しい」なんて思ってしまい、堪能できなかった。
そして私は悟った。
長年にわたり劇団☆新感線の芝居を見続けたために、新感線のノリでないと満足できなくなっているのだと。
同じようなテンポ、同じようなツッコミ、同じようなオチがないと、なんだか味気ないのだと。
それを自覚した私は、同じようなツッコミ、同じようなオチを思う存分楽しもうと、池袋のサンシャイン劇場へ向かった。
2010年劇団☆新感線30周年興行《秋》豊年漫作チャンピオンまつり『鋼鉄番長』を観るためである。
本作は、過去の轟天シリーズと何が違うのかを問われても困るような作品だ。
いつものノリのオンパレードである。
衣裳デザインは、ここしばらく優美な衣裳を見せてくれた小峰リリー氏に代わり、久しぶりに竹田団吾氏が担当。衣裳デザイン協力に出渕裕氏を迎え、ギミックいっぱいのガッツのある衣裳を見せてくれた。
一つ残念だったのは、洗智樹氏が絵を描いたポスターには、「いいんじゃない!」の決まり文句が踊っていたのに、主人公・兜鋼鉄(かぶと ごうてつ)の口からこの言葉を聞けなかったこと。
これが剣轟天(つるぎ ごうてん)との違いだろうか。
しかし、私が気になったのは、小学生くらいの子供を連れていたお母さんだ。
2010年10月9日土曜日のマチネに、子連れで来ていたお母さん!
子供にアンケート用紙を渡して「また観たいです」と書かせていたが、それでいいのか?
坂井真紀さんが、兜鋼鉄の股間の風車に息を吹きかけるところなど、子供が真似したらどうするんだ。
もしや英才教育か、劇団員の座を狙う?!
[*]当ブログでは、読者が情報の確かさを検証できるように、出典を明記(もしくはリンク)することを心掛けているが、残念ながらこの発言の出典についてはあまりにも昔のことで記憶が定かでない。
ご存知の方がいらしたら、ご一報いただけるとありがたい。
『鋼鉄番長』 [演劇]
作・演出/いのうえひでのり 衣装/竹田団吾
出演/橋本じゅん 坂井真紀 池田成志 高田聖子 粟根まこと 右近健一 田辺誠一 古田新太
公演初日/2010年10月4日
劇場/サンシャイン劇場
ジャンル/[コメディ] [アクション]
映画ブログ
劇団☆新感線を主宰するいのうえひでのり氏が、東京進出第二弾の『宇宙防衛軍ヒデマロ3 KILLFER RISING』公演後に語った言葉である[*]。
なるほど、当時の東京の小劇場でも笑いを重視した作品は多かったが、大阪から殴りこんできた彼らのバカさはハンパではなかった。
1988年の秋、たった5日間の東京公演につめかけた観客は、座布団を敷いた狭い客席で、膝を抱えてすし詰めになりながら、バカな芝居に死ぬほど笑った。
火事場で下着泥棒をするヒデマロ(いのうえひでのり)の姿に笑うたび、隣や後ろの人にぶつかりまくった。
そして東京の観客たちは、大阪のバカ集団の再来を熱望した。
それから長いこと、劇団☆新感線の芝居を楽しませてもらってきた。ときどき見逃してしまったこともあるけれど、時間の許す限り観るようにしてきた。
他の劇団が解散したり、方向性が変わっても、劇団☆新感線はバカ集団であり続けた。
やがて私は、あまり足繁く芝居にいけなくなったこともあり、いつしか劇団☆新感線の芝居しか見なくなっていた。
しかし正直に告白すると、ここ数年はあまり楽しめなかった。
これは、慣れによるところが大きいと思う。
たとえば「笑い」について、ウィキペディアでは「笑いは構図のずれである」との分析を記載している。受け手が抱いている構図(既成概念といっても良かろう)からずれたことが起こると、受け手は笑う。受け手が、起こった出来事を「意外ではない」「目新しくない」と感じる場合は、構図のずれが発生しないために笑いは起きない。
20年以上も、同じようなテンポ、同じようなツッコミ、同じようなオチを見続けてきたのだから、笑えなくなるのも致し方ない。
それは笑いに限らない。
笑いよりもストーリー性の豊かさを前面に打ち出した『仮名絵本西遊記』(1989年)を観たときは衝撃だったが、それも『アテルイ』(2002年)で極めた感がある。
作り手が毎回工夫を凝らしているのは承知している。作者が交代したり、新たな客演を招いたり、今までにない劇場に挑戦したりと趣向を変えているのだが、それもなんだか想定の範囲内であった。
ところが、久しぶりに別の劇団の芝居を観に行って、考えを改めた。
その劇団もこれまで何度か観ているのだが、笑いの要素がなく、私には格調高すぎるので、足が遠のいていた。
だが、久しぶりに観た芝居で、改めて歌と踊りの巧さに舌を巻いた。ロングランを重ねるのも、もっともである。
しかし、私には物足りなかった。
主人公のセリフに対して、ツッコミがない。
退場する者が捨てゼリフを吐かない。
群舞は見事なのに、殺陣がない。
いやいや、ツッコミとか捨てゼリフとか殺陣とかを期待する劇団ではない。それは判っているのに、「ここで一言ツッコミが欲しい」なんて思ってしまい、堪能できなかった。
そして私は悟った。
長年にわたり劇団☆新感線の芝居を見続けたために、新感線のノリでないと満足できなくなっているのだと。
同じようなテンポ、同じようなツッコミ、同じようなオチがないと、なんだか味気ないのだと。
それを自覚した私は、同じようなツッコミ、同じようなオチを思う存分楽しもうと、池袋のサンシャイン劇場へ向かった。
2010年劇団☆新感線30周年興行《秋》豊年漫作チャンピオンまつり『鋼鉄番長』を観るためである。
本作は、過去の轟天シリーズと何が違うのかを問われても困るような作品だ。
いつものノリのオンパレードである。
衣裳デザインは、ここしばらく優美な衣裳を見せてくれた小峰リリー氏に代わり、久しぶりに竹田団吾氏が担当。衣裳デザイン協力に出渕裕氏を迎え、ギミックいっぱいのガッツのある衣裳を見せてくれた。
一つ残念だったのは、洗智樹氏が絵を描いたポスターには、「いいんじゃない!」の決まり文句が踊っていたのに、主人公・兜鋼鉄(かぶと ごうてつ)の口からこの言葉を聞けなかったこと。
これが剣轟天(つるぎ ごうてん)との違いだろうか。
しかし、私が気になったのは、小学生くらいの子供を連れていたお母さんだ。
2010年10月9日土曜日のマチネに、子連れで来ていたお母さん!
子供にアンケート用紙を渡して「また観たいです」と書かせていたが、それでいいのか?
坂井真紀さんが、兜鋼鉄の股間の風車に息を吹きかけるところなど、子供が真似したらどうするんだ。
もしや英才教育か、劇団員の座を狙う?!
[*]当ブログでは、読者が情報の確かさを検証できるように、出典を明記(もしくはリンク)することを心掛けているが、残念ながらこの発言の出典についてはあまりにも昔のことで記憶が定かでない。
ご存知の方がいらしたら、ご一報いただけるとありがたい。
『鋼鉄番長』 [演劇]
作・演出/いのうえひでのり 衣装/竹田団吾
出演/橋本じゅん 坂井真紀 池田成志 高田聖子 粟根まこと 右近健一 田辺誠一 古田新太
公演初日/2010年10月4日
劇場/サンシャイン劇場
ジャンル/[コメディ] [アクション]
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