『東京島』 なぜ24歳ではないのか?

 一見して判るように、東京島とは現代日本の縮図である。
 だったら日本島という呼び名でも良さそうだが、日本はもともと島国であるし、すでに日本列島という名詞が存在するので、インパクトのある題にするには『東京島』で正解だろう。

 その東京島の住人は、見事なまでに現代日本人のステレオタイプだ。
 本作の作り手は、登場人物を次のように分類している。

・日本人の中高年男性
 波に乗っているころは世界一周旅行に出るなど羽振りが良かったが、バブルが弾けると落ち込んでしまって這い上がれない。昔を懐かしむだけで、まったく戦力にならない。

・日本人の若い男性
 それなりの人数がいるのに、自分勝手に過ごすだけで、ちっとも建設的にならない。一人ひとりを見れば、粗暴だったり、思慮深かったりと個性もあるのだが、みんな誰かが何とかしてくれるのを待っている。
 たまにリーダーシップを取る者も現れるが、実は口先ばかりの腰砕けである。
 内輪で小さくまとまって、外に出て行こうとしないのを特徴とする。

・中国人男性
 面倒な作業や、すぐには報われない仕事でも、やり遂げるバイタリティーを持っている。農漁業や工業を発展させ、経済成長が著しい。海外進出にも積極的である。


 現代の日本人像は、ひとむかし前のそれとは違う。
 外国人から見た日本人像について、藤野英人氏は語っている。
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 日本人は自分たちを、とても勤勉な国民だと思っているし、人に優しい国民だと思っている。でも、本当にそうなのでしょうか? 世界中を回っているインド人のテーラーと付き合いがあるのですが、彼はいつも「日本人は自分たちのことを勤勉で、親思いで、農耕民族だって言うけれど、全部ウソだよ」と。

 「勤勉だっていうけど、夕方になんであんなに電車が混んでいるの? 昔の日本は違ったよね、働かなくなったよね。親思いだっていうけど、みんな親にちゃんと電話したりしているの? 海外では離れて暮らしていても、週に1~2回は近況を伝えるものだよ。農耕民族だっていうけど、親戚とか近くに農業をやっている人はいるの?」

 そんな彼の分析する日本人像っていうのは、コミュニケーション嫌いでコミュニケーション下手。しかも最近は、そんなコミュニケーション嫌いの人にメールなど便利なツールを与えてしまったことで、会話不足が最大の問題になっていると。彼の目から見ると、日本人はすごく自己本位で、会話もしないから家族が崩壊していて、でもメールのやりとりだけは頻繁にするいびつな集団に見えるらしいです。
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 本作は、こんな日本人たちを、小さな島で外国人と対峙させることで、様々なシミュレーションを行う。

 ときには一人の権力者が大多数を力で支配する社会になり、ときには話し合いとクジ引きで公平を期す社会になり、ときには理念の下に全員参加を促す社会になり、ときには停滞して何も起こらない社会になる。
 それは過去の歴史に登場した封建社会であり、デモクラシーであり、共産主義等のアイロニーである。
 挙句の果てには、希望が見えなくなると、突然キレて、暴力沙汰を起こす。それは全体主義と粛清である。


 こんな島でただ一人の女性が、『東京島』の主人公清子(きよこ)である。
 清子は狡く、ふてぶてしく、男を次々に乗り換えて生き延びていく。

 このような女性像は、これまでもたびたび描かれてきた。
 たとえば、今村昌平監督の『にっぽん昆虫記』(1963年)や若松孝二監督の『情事の履歴書』(1965年)などが思い出されよう。

 しかし、これら過去の作品と違うのは、本作の日本人男性が中高年や若者に分類されるように、日本人女性も特定の世代を代表していることである。
 公式サイトによれば、清子の年齢は43歳。いわゆるアラフォーだ。
 これが現実とは決定的に違う。

 『東京島』のモデルとなった「アナタハンの女王事件」は、たった一人の日本人女性と、32人の日本人男性が、1945年から1950年まで外界から隔絶された太平洋の孤島アナタハンで暮らす中、次々と死んでいった事件である。
 10人以上が死亡したこの事件は、『東京島』よりもよほど凄惨である。
 渦中の比嘉和子は当時24歳。
 清子より20歳近くも若い。

 なぜ主人公は24歳ではないのだろう?
 現代が舞台の『東京島』では、なぜ主人公をアラフォーにしたのだろう?

 それは清子が現代日本人女性のステレオタイプではないからだ。
 日本人女性全般ではなく、アラフォー女性を代表しているのだ。

 では、アラフォー女性とは何か?
 白河桃子氏は次のように語る。
---
アラフォーを特色づけているのは「バブル経験者である」ということ。
(略)
これだけ不景気な世の中になっても、アラフォーたちの購買意欲はますます「頼みの綱」とされている。
(略)
アラフォー世代の「あきらめない」「降りない」「全部を手にしたい」「贅沢癖が抜けない」ところが、他の世代、特に就職氷河期を経験した世代からは突っ込まれるところだ。
(略)
経済的にも日本で一番消費欲が旺盛なのは、アラフォー。アラフォーは貯金せずに、買い物や旅行、自己投資という名目で、自分が稼いだお金を、または亭主が稼いだお金をせっせと社会に流してきた。
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 まさに、『東京島』の清子そのものである。
 それに対して、今の20代女性は「そこそこで満足」な幸せを目指し、手堅いのだという。

 女の半生を綴る『にっぽん昆虫記』や『情事の履歴書』の主人公は、女性全般の代表だった。
 しかし、そのバイタリティーに満ちた女性像は、いまやアラフォーまでしか受け継がれていないのかも知れない。

 白河桃子氏はこうも語る。
---
クラシック音楽、バレエ、歌舞伎、能楽、などなど古典の文化を愛し、チケットを買い、下支えするファンたちは今高齢化が進んでいる。かろうじてアラフォーが、若い世代の方だ。
(略)
その下の世代は「サブカルチャーの申し子」で、老舗の呉服屋の高い「お誂え」よりも個性的な古着に価値を見出し、古典のチケットもミーハー的な好奇心から手を出すには高すぎる、と感じる。情操教育のため、子供を連れてクリスマスのバレエ「くるみ割り人形」に必ず行くのも、アラフォー世代あたりですたれそうな芸風である。
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 清子が文明社会に戻ったなら、これらをきっとやりそうである。

 劇中、清子が男に荷物を運ばせる場面がある。
 「これを私に運べっていうの?」
 60年前は24歳の女性がアナタハンの女王と呼ばれたが、いまの日本に君臨するのはアラフォー女性なのである。


東京島 [DVD]東京島』  [た行]
監督/篠崎誠
出演/木村多江 窪塚洋介 福士誠治 柄本佑
日本公開/2010年8月28日
ジャンル/[ドラマ] [サスペンス]
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tag : 篠崎誠 木村多江 窪塚洋介 福士誠治 柄本佑

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