『ヒックとドラゴン2』 今度は戦争だ

ヒックとドラゴン2 3枚組3D・2Dブルーレイ&DVD(初回生産限定) [Blu-ray] 堂々たるサーガである。

 『ヒックとドラゴン』の監督ディーン・デュボアは、続編のオファーを受けるに当たって三部作にすることを条件にした。しかも『ヒックとドラゴン2』を第一作の五年後と設定し、少年ヒックの冒険を描いた前作とは打って変わって、二十歳の青年ヒックの葛藤の物語にした。
 ここで描かれるのは、青年ヒックと仲間たちが大人になるための厳しい通過儀礼なのだとデュボア監督は説明する。五年後にしたことで、「しばしば続編が直面する"前作で悩みは解決したじゃないか"という問題を回避できる」と監督はいう。
 
 観客は成長したヒックに再会するとともに、成長したがゆえの新たな試練に苦悩する姿を目撃する。
 第一作の頃は、みんなのお荷物で仲間外れになっていたヒックだが、本作では自分に族長が務まるのか、そんな重責に耐えられるのか悩んでいる。

 ヒックの成長に合わせて、物語のスケールもぐんと広がる。
 ドラゴンと共存するバーク島のバイキングの前に、ドラゴンを捕獲して戦力にするドラゴン軍団と、ドラゴンを解放するドラゴン・ライダーが出現し、三つ巴の戦いが繰り広げられる。

 映画とテレビを通じて、このシリーズはサーガと呼ぶに相応しいスケールを備えるようになった。
 これまでに作られた作品と、これから作られる作品を劇中の時系列にしたがって並べてみよう。

ヒックとドラゴン』 劇場用映画 2010年
バーク島の厄介者ヒックがドラゴンのトゥースレス(日本版ではトゥース)と出会い、人間とドラゴンは仲良くできることを村人に示す。

ボーン・クラッシャーの伝説』 短編(16分) 2010年
伝説のドラゴン、ボーン・クラッシャーを探して、ヒックたちが旅をする。
テレビ放映後、『ヒックとドラゴン』のDVDに収録。

『Book of Dragons(ドラゴンの書)』 短編(18分) 2011年
ドラゴンの分類と訓練について。
『Gift of the Night Fury』と一緒にOVAとして発売。

Gift of the Night Fury(ナイト・フューリーの贈り物)』 短編(22分) 2011年
ドラゴンの産卵で村じゅう大騒ぎ。一方、ヒックはトゥースレスが独りで飛べるように新しい器具を作ってあげるが、トゥースレスはその器具よりもヒックと飛ぶことを希望する。
『Book of Dragons』と一緒にOVAとして発売。

ヒックとドラゴン~バーク島の冒険~』 テレビ第一シーズン 全20話 2012年
いたずらが過ぎるドラゴンとバイキングの共存を目指して、ヒックはドラゴン訓練アカデミーを開設するが、ヒックの前には反逆者アルビンや狂人ダガーが立ちはだかる。

ヒックとドラゴン~バーク島を守れ!~』 テレビ第二シーズン 全20話 2013年
反逆者アルビンがバーク島に復讐戦を挑む……。

『ドラゴン・レースの幕開け』 短編(25分) 2014年
バーク島の人気競技ドラゴン・レースがはじまったきっかけを、ヒックたちが回想する。
『ヒックとドラゴン2』のDVDに収録。

Race to the Edge(果てへのレース)』 テレビ第三シーズン 全26話 2015年
テレビ第二シーズンの三年半後、『ヒックとドラゴン2』の一年半前。狂人ダガーが刑務所を脱走した。

ヒックとドラゴン2』(本作) 劇場用映画 2014年
ドラゴンを巻き込んだ大戦争。『ヒックとドラゴン』の五年後、バーク島のバイキングは誰もがドラゴンを愛しみながら暮らしていたが、ドラゴンを捕えて服従させたドラゴが、ドラゴン軍団を率いてバーク島に迫る。

ヒックとドラゴン3』 劇場用映画 2018年
ドラゴンたちの末路が描かれる。

 以上のとおり、『ヒックとドラゴン2』は単なる「『ヒックとドラゴン』の続き」ではなく、長大なサーガの終りから二番目の物語だ。

ヒックとドラゴン 1&2ブルーレイBOX(初回生産限定) [Blu-ray] 本作は第一作から四年を経てつくられただけあって、技術の向上が目覚ましい。
 第一作でもドラゴンの飛翔シーンの爽快さやクライマックスの迫力には圧倒されたが、本作はそれをはるかに上回る。遠くに望む島々、凍てついた氷の世界、海を覆い尽くす大船団、表情豊かなキャラクターたち。どのシーンにも目をみはる。
 とりわけ冒頭のスピード感溢れるドラゴン・レースや、中盤のドラゴンの楽園の平和な光景は、第一作との違いを見せつけてくれる。

 全世界興行収入4.9億ドルものヒットを記録した第一作を抜いて、6.2億ドルを稼ぎ出したのも納得のクオリティだ。6.2億ドルといえば、ディズニーアニメの『塔の上のラプンツェル』(5.9億ドル)や『シュガー・ラッシュ』(4.7億ドル)を上回る成績である。

 映像については第一作を凌駕して驚かせるものの、テーマがぶれることはない。
 第一作と本作を貫くのは、「他者との共存」というテーマである。第一作ではドラゴンとバイキングの対立や、バイキングたちから仲間外れにされたヒックがテーマを表現していた。
 本作では、ドラゴンと共存するようになったバーク島のバイキングを嘲笑うかのように、ドラゴンを服従させて支配関係を持ち込むドラゴや、ドラゴンの解放を唱えながらドラゴンだけで隠れ住む(=誰とも共存しない)ドラゴン・ライダーが登場して、改めて「他者との共存」とは何かを考えさせる。

 特に、話し合いでは戦争を避けられないという過酷な展開は、イラク戦争の幕引きに失敗し、クリミアへのロシアの軍事介入を止められなかった米国の苦渋を表すかのようだ。

 それでも米国民は夢を見ようとしている。戦乱が起きるのは間違った指導者のせいあり、相手国の民衆は米国が普遍的と考える価値観――自由や人権や民主主義――に共感するはずだから連帯できると考えている。
 本作では、軍団を率いる悪役ドラゴに悪いことすべてが集約される。

 たしかに第二次世界大戦の戦後処理までは、そういう考え方で上手くいったかもしれない。
 だが、冷戦後のユーゴスラビア紛争や、現在の中東の混乱を見れば、指導者だけの問題ではない(それどころか強圧的な独裁者がいなくなると、かえって騒乱が発生する場合がある)と思われる。
 しかし、戦乱を指導者だけの責任に帰さなければ、相手国の民衆全員を憎むことになってしまう。国民全部と対立するなら、最後の一人が死に絶えるまで戦争は終わらない。
 戦争になろうとも、指導者さえ退陣させれば民衆とは手を取り合える。そう考えることは――願望かもしれないが――戦いを終わらせ、他者と共存するための知恵なのかもしれない。

 第一作同様、ごく自然に身体障碍者が描かれるのもこのシリーズらしい。
 トゥースレスは翼が欠けて一人では飛べないし、ヒックの義足も板についてきた。ヒックの師匠ゲップが片手、片足なのはもとより、本作で初登場のドラゴも片腕がない。
 それらの障碍を特別視しないところにも、「他者との共存」というテーマがうかがえる。

 面白いのは、ドラゴンたちの描写の変化だ。
 ドラゴンとただ仲良くなることを主眼にした劇場用映画第一作とは違って、ドラゴン訓練アカデミーを描いたテレビシリーズを経た本作のヒックは、トゥースレスの訓練に余念がない。
 第一作のドラゴンは、瞳孔が開いたり閉じたり、ある種の草に恍惚としたりと猫を思わせる描写が多く、真っ黒いトゥースレスは黒猫のようだった。
 訓練に勤しむ本作のトゥースレスは、まるで犬を思わせる。犬は主人に命令されるのが大好きだ。命令を実行して褒められれば嬉しいし、命令されたり褒められることで主人との関係の強さを実感するという。ヒックが訓練ばかりしているのは、トゥースレスにとってこの上ない喜びに違いない。
 そして、これも共存というテーマに沿っている。凶暴な猛犬は檻に閉じ込めざるを得ない。共存するにはお互いにルールを身に付ける必要があるのだ。


 第一作のヒットを受けて三部作に拡張されたシリーズでは、ときに二作目が中継ぎの位置に甘んじてしまうことがある。
 単品としての完成度は第一作に及ばず、シリーズの掉尾を飾る盛り上がりは第三作を待たねばならないことから、第二作はキャラクターの人物像を掘り下げたり、作品世界に深みを持たせたりばかりで、単体としては成立しにくい内容になることがある。第三作まで完成した後にDVD等で全作を一気に観るならともかく、次作の公開まで何年も待たねばならない状況で、そのような作品を観るのは辛い。
 その点、本作はエイリアンシリーズにおける『エイリアン2』のような、ターミネーターシリーズにおける『ターミネーター2』のような、つまりはこの後も続けようなんて気はさらさらない、これで完結させるつもりなのかと思うほどの盛り上がりを見せてくれる。これ見よがしに回収しない伏線を残すこともない、完成された作品だ。

 だからこそ、シリーズ完結となる第三作で何を仕掛けてくるのか楽しみでならない。
 『ヒックとドラゴン3』が日本で観られることを切に願う。


ヒックとドラゴン2 2枚組ブルーレイ&DVD(初回生産限定) [Blu-ray]ヒックとドラゴン2』  [は行]
監督・制作総指揮・脚本/ディーン・デュボア
出演/ジェイ・バルシェル ケイト・ブランシェット ジェラルド・バトラー アメリカ・フェレーラ クレイグ・ファーガソン クリストファー・ミンツ=プラッセ ジョナ・ヒル ジャイモン・フンスー クリステン・ウィグ T・J・ミラー
日本での一般公開はなし DVD発売日/2015年7月3日
ジャンル/[ファミリー] [ファンタジー] [アドベンチャー]
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『ヒックとドラゴン』 トゥースが守る7番目の戒律とは?

 ドラゴン・ライダー、すなわちドラゴンに乗ることを描いた作品は多い。
 子供向けの作品なら『エルマーのぼうけん』シリーズが有名どころだ。
 大人向けなら『パーンの竜騎士』シリーズが代表例か。

 『ヒックとドラゴン』もその一つ。
 ヒック(しゃっくりの音)というヘンテコな名の少年が、トゥースレス(Toothless:歯無し)と名付けたドラゴンと仲良くなり、一緒に大空を飛ぶ躍動感あふれる物語である。
 日本公開にあたっては、トゥースレスの名をトゥース(歯)と略してしまい、意味がすっかり逆転しているが、いずれにしろ歯がドラゴンの特徴であり、本作を象徴しているのは間違いない。


 日本名トゥースは、機嫌が良いときは歯を見せないけれど、怯えたときや戦うときは鋭い歯を剥き出しにする。
 口から吐き出す炎(というより衝撃波)の破壊力は凄まじく、空飛ぶ速さはドラゴンの中でも随一だ。
 バイキングたちは、ドラゴンに村を襲われるたびに苦戦しているが、とりわけトゥースは手強い相手なのだ。

 そんなトゥースが、弱っちいヒックと出会って心を許すようになる過程が、本作の前半の見どころである。
 ここで重要なのは、トゥースはヒックよりもはるかに強い力を持っていることだ。ヒックなんてひと捻りなのだ。
 そのトゥースがヒックの接近を許し、背に跨がせるのだから、とうぜん力は抑えている。鋭い歯も隠して、ヒックには見せない。


 私たちの身近にいる動物たちも同様である。
 猫の鋭い爪、犬の凶暴な牙。彼らは凶器を身に着けている。
 しかし私たちと接するときには、爪を隠し、牙も剥かずに、黙って触らせてくれる。

 ここで思い出すのは、『犬の十戒』という作者不詳の詩だ。
 世界中で知られるこの詩は、たびたび本や映画のモチーフになるのでご存知の方も多いだろう。
 そこには、犬から人間への10個の願いが綴られており、とくに7番目にはこんなことが書かれている。

  私を叩く前に思い出して下さい。
  私には、あなたの手の骨など簡単に噛み砕ける歯があるけれど、
  決してあなたを噛まないようにしているということを。

 
 彼らは私たちより強いのだ。
 もしも傷つけようと思えば、爪で切り裂き、牙で食いちぎることができるのだ。
 なのに、そんなことはしない。
 あなたに心を許しているから。

 トゥースも同じだ。
 その強い力と、素早い飛行能力は、ただただヒックを守るために使われる。
 本作の冒頭で、トゥースの強さ、凶暴さがしっかり描かれているだけに、ヒックの前では自制するトゥースの姿がいじらしい。

 そうだ、彼がヒックに向かって歯を剥くことは決してない。
 だから彼は、歯無し(トゥースレス)なのである。


 『ヒックとドラゴン』の原作は、クレシッダ・コーウェルによる児童文学だそうだ。
 私は未読だが、映画と原作ではずいぶん設定が違うらしい。映画が描くのは、原作の前日譚とも云えるだろうか。
 しかし、大きく改変されたにもかかわらず、原作者がこの映画を歓迎しているのは、それだけ素晴らしい作品に仕上がっているからだ。

 本作は、ヒックとトゥースの交流がとても愉快で、空を飛ぶシーンはとても爽快で、二人で乗り越える冒険はとても痛快な、愛すべき傑作である。


ヒックとドラゴン ブルーレイ&DVDセット [Blu-ray]ヒックとドラゴン』  [は行]
監督・脚本/クリス・サンダース、ディーン・デュボア  脚本/ウィル・デイヴィス
出演/ジェイ・バルシェル ジェラルド・バトラー アメリカ・フェレーラ クレイグ・ファーガソン
日本公開/2010年8月7日
ジャンル/[ファミリー] [ファンタジー] [アドベンチャー]
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