『エアベンダー』 シャマランの高度な挑戦

 M・ナイト・シャマラン監督は、極めて難度の高いプロジェクトに挑んだ。

 『エアベンダー』は、シャマラン監督にとって初の原作付きの映画である。
 多くの場合、映画の原作になるのは小説やマンガだろう。ゲームのこともある。
 すなわち、映像作品ではないものが多い。
 だから、原作のファンが映像化された作品を見て、喜んでもガッカリしても、それはあくまでファンが抱いていたイメージに比べてのものである。
 小説やマンガをアニメや実写映画にしたら、違いがあるのは当たり前のことだ。

 しかし原作が映像作品の場合は、ちょっと違う。より比較しやすいので、ファンから不評を被りやすい。
 それでも映画化される作品はある。
 たとえば、テレビアニメ『弱虫クルッパー』(1969年~)を実写映画にした『スクービー・ドゥー』(2002年)や、『原始家族フリントストーン』(1960年~)を実写映画にした『フリントストーン/モダン石器時代』(1994年)だ。
 しかしこれらのテレビアニメは初出から数十年を経て、受け手がすっかり世代交代している。
 また、もともとストーリーテリングで引っ張る作品ではないから、実写映画も単に一つのエピソードが加わるだけにすぎない。
 ファンの反発も和らげやすいだろう。

 映画化されたテレビドラマ『チャーリーズ・エンジェル』(1976年~)や『特攻野郎Aチーム』(1983年~)も、基本は1話完結だから、映画ではちょっと豪華な1エピソードを作れば良い。

 日本のテレビアニメ『タイムボカンシリーズ ヤッターマン』(1977年~)を実写映画にした『ヤッターマン』(2009年)が、まさしくテレビシリーズの1エピソードのような作りなのも、料理の仕方を心得ているからだろう。

 その点、テレビアニメ『戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー』(1984年~)を実写映画にした『トランスフォーマー』(2007年)は、前述した作品に比べれば物語性がある。
 しかし幸いなことに、トランスフォーマーシリーズは20年以上続くあいだに何度も設定がリセットされ、原作そのものに一貫したストーリーがなくなっている。
 だから実写映画で何を描こうが、並行して存在するトランスフォーマー物の一つとして受け入れられる。


 ところがM・ナイト・シャマラン監督は、4つの世界を巻き込んだ壮大な戦いの物語に挑戦した。
 原作となるテレビアニメ『アバター 伝説の少年アン』は、完結までに61話を要した大長編である。
 しかもエミー賞アニー賞受賞しまくり、2008年に完結したばかりの、云ってみれば、ファンの熱気が冷めやらぬ作品に挑んだのである。

 このプロジェクトは、第3シーズンまで作られた原作を1シーズンごとに1本の映画にして、全三部作とする構想だが、一作目に相当する第1シーズンだけでも20話ある(他にパイロット版1話がある。)。

 どう頑張っても、原作ファンからは原作と違うと反発され、原作を知らない人からは駆け足だとか掘り下げ不足だとか非難されるのが目に見えている。

 定評のある小説やマンガを映画化するなら企画としては安全なのに、M・ナイト・シャマランはずっとオリジナルで勝負し続け、はじめて原作を付けたと思えばこんな難しいプロジェクトだ。
 なんとも挑戦的な男である。


 案の定、M・ナイト・シャマラン監督が送り出した『エアベンダー』の「第一の書:水」は、米国での評価が滅法悪い。
 IMDbでは10点満点中4.3点、Rotten Tomatoesに至っては好意的な評が8%しかない(2010年7月19日現在)。

 私は原作アニメを見ていないので、原作ファンの気持ちを代弁することはできない。
 だが、本作はそんなにガッカリする出来だろうか。

 そもそもM・ナイト・シャマラン監督の魅力とは何だろう。
 『シックス・センス』が大ヒットしたので、そのストーリーテリングに魅了された人も多いだろうが、ストーリーに注目していると、その後のシャマラン作品に失望続きとなりかねない。
 それはIMDbの得票が如実に物語っている(いずれも2010年7月19日現在)。

  『シックス・センス』 (1999) …8.2
  『アンブレイカブル』 (2000) …7.3
  『サイン』 (2002) …6.9
  『ヴィレッジ』 (2004) …6.6
  『レディ・イン・ザ・ウォーター』 (2006) …5.8
  『ハプニング』 (2008) …5.2
  『エアベンダー』 (2010) …4.3

 まったくのところ右肩下がりである。

 しかしM・ナイト・シャマラン監督の魅力は、ストーリーテリングもさることながら、その演出力だろうと私は思う。
 何もないはずなのに何かありそうに思わせる演出、静かなのに何か聞こえてきそうな演出、そういったものがシャマラン監督の魅力であり、やりたいことなのではないだろうか。
 だから前作『ハプニング』なんて、物語の起伏そっちのけで何かが迫ってくる雰囲気作りに徹しており、IMDbの評価の低さにかかわらず、私は気に入っている。


 『エアベンダー』では、その卓越した演出力で、4つの世界の華麗な「絵」を見せてくれる。
 氷を割って突き進む鉄の船、切り立った山に築かれた寺院、氷で作られた城塞都市、それら見たこともない世界が、スクリーンに鮮やかに映し出される。

 通常、異世界を舞台にした作品でも、1本の映画に出せる世界や国は多くない。2時間の映画で世界観をきちんと提示しようと思えば、せいぜい『スター・ウォーズ』の3惑星だろう。
 ところが『エアベンダー』では大盤振る舞いで多くの国が登場する。
 惹句には「4つの王国。1つの運命。」なんて書かれているが、実は4つの王国ではない。
 4つのエレメント、すなわち気・水・土・火のそれぞれに国があるだけでなく、さらに北と南に分かれていたりする。

 劇中で詳しい説明はないのだが、この世界では「火の国」が赤道付近に一つある。そして北半球に「北の気の国」、南半球に「南の気の国」があり、北極圏に「北の水の国」、南極圏に「南の水の国」があるのだ。
 詳しくは地図をご覧いただくとして、これら多くの国からなる広大な世界を、縦横に駆け巡り、それぞれを「絵」で見せてくれるのが、この映画の最大の魅力である。


 そしてキャラクターの造形は、いかにもM・ナイト・シャマランらしい。
 原作のアンは、子供向け作品の主人公らしく元気一杯の男の子のようだが、映画のアンはやや内向的で、大きな使命の重圧に耐えようとしている。

 思えば、シャマランの映画の登場人物はいつでも深刻そうで、人好きのするタイプではない。
 たとえば、『イエスマン “YES”は人生のパスワード』や『(500)日のサマー』でゾーイ・デシャネルのファンになる人はいても、『ハプニング』で彼女のファンになる人はいないのではないか。
 それが良くも悪くもシャマラン監督の持ち味で、本作のようなキャラクター物では不利に作用しているかも知れないが、しかしそれも含めてシャマラン監督が重視している"自分らしさ"なのだろう。


 修行僧たる少年が、特殊能力を持つ仲間とともに旅する姿は、『西遊記』の三蔵法師一行を思わせなくもないが、その仲間たちが伝統的な武術を駆使するのも面白い。
 『アバター 伝説の少年アン』の解説によれば、水を操るウォーターベンダーは太極拳、土を操るアースベンダーは洪家拳、火を操るファイアーベンダーは少林拳、そして気を操るエアベンダーは八卦掌のファイティングスタイルを採用しているという。
 すべてのエレメントを操るアバターになるには、太極拳、洪家拳、少林拳、八卦掌を習得する必要があるわけで、これはたいへんなことである。

 幾つもの異世界と、何種類もの武術とが入り乱れ、正義と悪の戦いを描いた痛快活劇の中に、東洋的な修行を織り交ぜる、それが『エアベンダー』の世界なのだ。


 そもそもM・ナイト・シャマランが『アバター 伝説の少年アン』を知ったのは、彼の娘がハロウィンのときにカタラ(ウォーターベンダーの少女)の扮装をしたがったからだという。
 これは、スティーヴン・スピルバーグが子供とトランスフォーマーのオモチャで遊んでいて、その映画化を思い立ったことを髣髴とさせる。

 ぜひM・ナイト・シャマランには、Rotten Tomatoesの評価なんか気にせず、自身の子供のためにも三部作を完成させて欲しい。
 久しぶりに1億ドル以上を稼いだんだし。

エアベンダー ブルーレイ&DVDセット(2枚組) [Blu-ray]エアベンダー』  [あ行]
監督・脚本/M・ナイト・シャマラン
出演/ノア・リンガー デヴ・パテル ニコラ・ペルツ ジャクソン・ラスボーン クリフ・カーティス セイチェル・ガブリエル
日本公開/2010年7月17日
ジャンル/[アドベンチャー] [ファンタジー] [アクション]

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