『我が道を往く』(Going My Way)の意味するものは?

 もうずいぶん昔のこと、誰かが「君は『我が道を往く』だな」と云われているのを聞いたことがある。
 当時、ビング・クロスビー主演の映画『我が道を往く』のことは知らなかったが、その会話から「我が道を往く(Going My Way)」という言葉だけは、なぜか記憶に残った。
 この言葉からイメージしたのは、他人の声に惑わされることなく、己が信じる道を真っ直ぐに進む孤高な人物像であった。

 しかし、DVDで観たこの作品は、私の考えるところとは違っていた。

 『我が道を往く』でビング・クロスビーが演じるオマリー神父は、とても謙虚なのである。
 先輩神父の顔を立て、お膳立てはしっかりやっても自分は一歩引いている。
 教区の住人たちが望むことは、何なりと受け入れる。これといって望みがない子供たちには、打ち込めるものを一緒に作り上げていく。
 オマリー神父が行っているのは、居場所がない人や居心地の悪い思いをしている人に、居場所を作ってあげることなのだ。
 そして、それこそを自分の喜びとする。

 そんな道を歩むことが、「我が道を往く」ことだったのだ。


 本作について、ウィキペディアではこう解説している。
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戦時中にもかかわらず一切そのことには触れず、何のアクションも派手な見せ場もない若い神父と老神父のやりとりを中心に、物静かな語り口のうまさによって、オスカーを大量に受賞したのであった。
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 たしかに、本作はが公開されたのは1944年、第二次世界大戦の真っ只中である。
 キャプテン・アメリカが、星条旗をあしらったコスチュームに身を包み、戦意高揚に励んでいたころだ。
 下町の神父の物語は、いかにも地味な題材だ。
 にもかかわらず、第17回アカデミー賞において作品賞をはじめ7部門を獲得するほど支持されたのはなぜか。

 それは、米国が独立以来はじめて外敵に襲われた時期であることと無縁ではあるまい。
 米国はそれまでに、内戦である南北戦争や、メキシコ領だったテキサスの領有を巡る米墨戦争などを経験していたが、他国に自領を攻撃されたのは日本による真珠湾攻撃がはじめてである。
 これが契機となり、米国は孤立主義を捨てて、対外戦争を辞さない国になっていくのだが、外敵と戦うことは国民感情にも大きく影響しただろう。

 そんな中、『我が道を往く』で人を助ける神父の姿が描かれた。
 映画では、オマリー神父の影響を受けて、人々が助け合うようになっていく。


 このような人間の行動について、友野典男氏は述べている。
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脳科学の研究で、人が多少自分にとって損なことでも誰かを助けるのは、「助ける行為そのものを喜んでいるからだ」ということがわかりました。

これまでの経済学では、見返りを求めるといった表面的な事実でその行為の因果関係を類推していました。対して、行為自体に喜びを感じている事実は、人間の幸せの要素である「人間関係」を考える上で示唆に富んでいます。
(略)
ヒトの進化の過程では、同種同族間で常に食物と繁殖相手をめぐる争いはつきまといました。その一方、外敵というストレスから身を守る上ではグループ内で結束することも重要でした。うまく協力行動をとったグループが伸長したでしょうから、「協力するとなぜか気分がいい」という感情はいまの人間にも伝わっていると思います。
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 まさに、国全体が外敵(日本)というストレスにさらされていたからこそ、国内では手を取り合い、助け合う物語が「気分がいい」という感情を喚起したのではないか。
 アカデミー賞7部門獲得という事実は、多くの人が本作に共感し、癒された証左だろう。


 「我が道を往く(Going My Way)」という言葉は、劇中で歌う曲のフレーズでもある。
 さすがビング・クロスビー、神父とは思えない美声が胸に沁みる。

 もしも私がもっと昔にこの作品を観て、「我が道を往く(Going My Way)」とは、他人の声に惑わされないことではなく、他人の声に大いに耳を傾けることだと知っていれば、少し違う道を歩んだだろうか。


我が道を往く』  [わ行]
監督・制作・原作/レオ・マッケリー
出演/ビング・クロスビー バリー・フィッツジェラルド リーゼ・スティーヴンス ジーン・ロックハート
日本公開/1946年10月
ジャンル/[ドラマ]

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tag : レオ・マッケリー ビング・クロスビー

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