『アリス・イン・ワンダーランド』が挑戦したものは?

 意外や、面白い映画だった。
 なんて云うと、お叱りを受けそうだが、ティム・バートンやテリー・ギリアムの作品は下手に期待するとはぐらかされそうなので、『アリス・イン・ワンダーランド』も期待しすぎないようにしていたのだ。

 本作は、まごうかたなきファンタジーである。
 原作となった『不思議の国のアリス』とその続編『鏡の国のアリス』は、児童文学の代表作にしてファンタジー作品の走りだから、映画もファンタジーになるのは当然だが、原作が書かれた19世紀中葉に比べると、ファンタジーという分野は発展・細分化している。
 映画『アリス・イン・ワンダーランド』は、原作のファンタジー世界を再現するだけではなく、ファンタジーという分野の中でのポジショニングをやり直そうとしている。


 ティム・バートンのことだから、毒の効いたダーク・ファンタジーを期待された向きもあるかも知れないが、さすがに『パンズ・ラビリンス』と被るようなことはしなかった。
 ファンタジーの分類においては、ハイ・ファンタジーとロー・ファンタジーに分ける考え方がある。
 大雑把に云えば、ハイ・ファンタジーは『ロード・オブ・ザ・リング』のように異世界を舞台にした作品、ロー・ファンタジーは『借りぐらしのアリエッティ』のように現実世界を舞台としながら妖精や魔法が登場する作品である。
 『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001年)とともに、典型的なハイ・ファンタジーである『ロード・オブ・ザ・リング』(2001年)が大ヒットしてから、大量のファンタジー映画が作られている。
 その中で、今回の「アリス」は、なんとヒロイック・ファンタジーである。

 ヒロイック・ファンタジーは、「剣と魔法の物語」とも云われるとおり、英雄たる主人公が襲い来る怪物や魔法使いと切り結んで戦う話だ。
 ハイ・ファンタジーのサブカテゴリーの1つに位置付けられよう。
 ゲーム、とくにロールプレイングゲームで遊ぶ人にはお馴染の世界だ。映画なら『ドラゴンスレイヤー』(1981年)や『コナン・ザ・グレート』(1982年)が、ヒロイック・ファンタジーである。
 『アリス・イン・ワンダーランド』も、預言の書に導かれたアリスが、伝説の剣を手にして凶悪な怪物と戦っており、立派なヒロイック・ファンタジーだ。


 実は、ファンタジーを大量生産しているディズニーにとって、ヒロイック・ファンタジーだけは鬼門だった。

 80年代前半に『コナン・ザ・グレート』等のヒロイック・ファンタジー映画が作られたころ、ディズニーも大金を投じて『コルドロン』(1984年)を世に放った。
 1977年にチャンバラSFの『スター・ウォーズ』がヒットし、1978年にはハイ・ファンタジーの『指輪物語』(『ロード・オブ・ザ・リング』のアニメ版)が作られているので、両者の流れが融合し、80年代前半にヒロイック・ファンタジー映画が誕生するのは自然な成り行きだった。

 この時期のディズニーは、制作本数も減少し、衰退しつつあるように見えた。
 そこで、時流を捉えたヒロイック・ファンタジーで勝負に出たのだが、内容も成績も残念な結果で終わっている。
 『コルドロン』については、映画そのものよりも、東京ディズニーランドにあったシンデレラ城ミステリーツアーというアトラクションとして覚えている人の方が多いのではないか。

 そのヒロイック・ファンタジーが、『スター・ウォーズ』エピソードI~IIIのヒットと、『ロード・オブ・ザ・リング』(2001年)のヒットを経ることで、再び登場するとは面白い。

 『アリス・イン・ワンダーランド』は、ディズニーの名作『ふしぎの国のアリス』を実写でリメイクするプロジェクトであると同時に、四半世紀を経てヒロイック・ファンタジーに再挑戦するプロジェクトでもあるのだ。
 そのため、念には念を入れた布陣で取り組んでいる。
 監督はティム・バートン。世間一般のイメージはともかく、彼は『バットマン』というヒーロー物を大ヒットさせた実績があり、また『PLANET OF THE APES 猿の惑星』というアクション大作を物にしている(『猿の惑星』をアクション大作にしてしまった、という見方もできるが)。
 出演するジョニー・デップやアン・ハサウェイらも、集客力に不足はない。

 原作やアニメの『不思議の国のアリス』ファンに、その奇妙な世界を楽しんでもらいつつ、なおかつヒロイック・ファンタジーとしても満足のいくものにするという、難しいプロジェクトにうってつけの陣容である。


 さて、原作の『不思議の国のアリス』では、穴に落ちたアリスはトランプたちの世界に迷い込み、ハートの王様やハートの女王様と対峙した。
 続く『鏡の国のアリス』では、鏡を通り抜けたアリスがチェスの世界に迷い込む。そして赤の女王と白の女王が激突する戦いの、駒となって活躍する。

 『アリス・イン・ワンダーランド』は、この2つの作品を混ぜ合わせた世界を舞台にしている。
 基本は『鏡の国のアリス』における赤の女王と白の女王による戦争だが、この映画では赤の女王の城にハートの意匠をあしらい、兵士たちもトランプのような薄っぺらな形にすることで、赤の女王とハートの女王を重ね合わせている。
 そして、赤白両軍の激突がクライマックスとなる。

 ここに至って、ナンセンスで不条理な原作の世界は、完全にヒロイック・ファンタジーに変貌を遂げた。
 「アリス」の世界とヒロイック・ファンタジーの融合を、見事に成し遂げたのである。
 四半世紀ぶりの挑戦は、大成功といえよう。


アリス・イン・ワンダーランド』  [あ行]
監督/ティム・バートン  脚本/リンダ・ウールヴァートン
出演/ミア・ワシコウスカ ジョニー・デップ ヘレナ・ボナム=カーター アン・ハサウェイ アラン・リックマン クリストファー・リー
日本公開/2010年4月17日
ジャンル/[ファンタジー] [アドベンチャー]

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