『シーサイドモーテル』 必ず画面に映っているのは?

 手ブレのある映像が大はやりである。
 戦場などで撮影された報道映像は、手持ちカメラを抱えて被写体を追うために、どうしても手ブレが避けられない。だから最近は、ドキュメンタリーのような迫真性、臨場感を演出するために、劇映画の映像もゆらゆら揺れている。
 『グリーン・ゾーン』をはじめとした多くの映画がそうだし、『ギャラクティカ』等のテレビドラマでも手ブレを強調している。

 『クローバーフィールド/HAKAISHA』のようなモキュメンタリーであれば、手ブレどころではない。映像がグルグル回る Shaky camera に、気分が悪くなった人もいるだろう。


 ただ、臨場感は増すものの、手ブレを許している以上、画面に映るものと映らないものの選別や、映りこむものの配置までを、100%コントロールすることはできない。
 戦場でアングルや被写体の動きに自由がきかないのと同様に、劇映画とはいえ小物の位置や向きまで計算しつくすのは難しい。

 だから、小津安二郎監督のように、赤いヤカンの位置や、役者が首を傾ける角度まで完璧にコントロールする人は、たとえ現役時代に手持ちカメラがあっても使わなかっただろう。

 北野武監督も、「究極の映画」について次のように語っている。
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回ってるフィルムをピタッと止めたときに、2時間の映画の中の何十万というコマの中の任意の1コマが美しいのが理想だと思う。
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 北野武監督も手ブレを許すことはほとんどない。
 映画のフレームの中に何を映して何を映さないか、完全に計算した上で最良の位置にカメラを固定する。
 だから北野映画は美しい。「絵」になっている。

 デヴィッド・リンチ監督の『砂の惑星』に対して、原作者フランク・ハードートが語っているのも同じことだ。
 「画面を切り取って、額に入れて飾っておきたい。」


 『シーサイドモーテル』も、映像へのこだわりが詰まった逸品である。
 カメラはきちんと固定されて微動だにしない。
 ややざらついた映像は、豊かな色調で、強烈な印象を残す。

 小津安二郎監督が赤いものにこだわって、画面の中に配したように、『シーサイドモーテル』の守屋健太郎監督は青いものにこだわりを見せる。
 晴れ渡った空のような鮮やかな青ではなく、やや緑がかった、ターコイズブルーのような色である。

 それは、103号室のベッドカバーや、レストランのテーブルクロスや、棚に置かれた花瓶や、洗面台のコップの色であり、古田新太さんのアイシャドーも、池田鉄洋さんが掛けられるバスタオルも、玉山鉄二さんの服の柄も、青いのである。
 真夏のある日、山の中のオンボロモーテルという暑苦しい設定の映画で、監督は落ち着いた「青」を必ず置く。
 そして発色を強調した映像は、動きの少ないこの映画をして、見事な絵画に仕立て上げる。
 北野監督が云うところの「任意の1コマが美しい」映画なのである。


 本作の公式サイトによれば、この映像を作るには高性能カメラが役立っているという。
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撮影には画素数がハイビジョンの4倍という高性能のデジタル・ムービーカメラ"レッドワン"を使用。エッジのきいたスタイリッシュな映像にフィルムのような深い質感が乗り、ドラマの奥行きと緊張感を引き立たせる。
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 公式サイトで、敢えてカメラの機種を紹介するのは珍しい。
 送り手たちも、この映像に自信があってのことだろう。

 本作は、個性的な役者たちの素晴らしい演技と、毒にも薬にもならないくだらない話にニヤニヤしながら、美しくて猥雑な映像を堪能できる。
 至福の103分間である。


シーサイドモーテル [DVD]シーサイドモーテル』  [さ行]
監督・脚本/守屋健太郎  脚本/柿本流
撮影/鯵坂輝国  照明/平野勝利  美術/磯見俊裕
出演/生田斗真 麻生久美子 山田孝之 玉山鉄二 成海璃子 古田新太 温水洋一 小島聖 池田鉄洋 柄本時生 山崎真実 赤堀雅秋 ノゾエ征爾
日本公開/2010年6月5日
ジャンル/[ドラマ] [コメディ]
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