『孤高のメス』 腹の中まで見てください

 医療を扱った映画で、手術シーンは珍しくない。
 『白い巨塔』の冒頭でも手術シーンがあり、スクリーンに臓器が映し出された。

 私は小心物なので、傷口や血を見ると、震え上がってしまう。
 『孤高のメス』は地方の病院に務める外科医を主人公にしており、冒頭から手術シーンが続き、画面を見るのが辛かった。
 何しろ痛そうだし、うごめく臓器は見ていて気持の良いものではない。


 『孤高のメス』が他の映画と異なるのは、手術シーンの多さだ。
 カメラは切り開いた腹の中まで克明に捉え、クーパー(ハサミ)の先にある臓器を大写しにする。頻繁に登場する手術シーンは、臓器のアップと医師の扱う手術器具のアップの連続だ。
 いくら医療を扱った映画とはいえ、これほど手術シーンが多く、臓器のカットが多い映画は珍しいだろう。
 本来、ストーリーの進行を追うだけなら、臓器を大写しにしなくても済むはずだからだ。

 しかしこの映画は違う。
 この映画では、医師や看護師の苦悩と決断を観客に判らせる必要がある。
 観客が、劇中の医師や看護師と、共に悩み、共に苦しみ、同じ気持ちを体験してこそ、その決断に至る心情を共有することができる。
 そのために、成島出監督は、医師や看護師が目にしているすべてのものを、観客にも見せることにしたのだ。観客に手術を追体験させることにしたのだ。
 手術を克明に描くからこそ、主人公・当麻鉄彦のやったこと、やろうとしていることに観客も納得する。

 不思議なことに、当初は見たくなかった臓器のアップも、医師と同じ目線を共有するうちに、真剣に見つめるようになる。
 そして、病んで黒ずんだ臓器には痛ましさを感じ、まだピンク色で健康な臓器には美しさを感じようになる。
 小心者の私ですら、精緻な臓器に魅せられるようになっていく。


 本作は『孤高のメス』と題しているが、孤高とは決して孤独のことではない。
 本作で描かれるのは、患者のため、命のため、それを第一に考える当麻医師の気高さと、その気高さが人々に伝播する様子だ。そして伝播した人々によって、今度は孤高のメスが支えられていくのだ。


 とはいえ、こんなスーパードクターはフィクションの中だけだと思っていたが、公式サイトにある原作者・大鐘稔彦氏のプロフィールを読んで驚いた。
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早くより癌の告知問題に取り組み「癌患者のゆりかごから墓場まで」をモットーに、ホスピスを備えた病院を創設、患者の家族に対して手術内容を公開するなど、先駆的医療を心がけている。「エホバの証人」の無輸血手術をはじめ、手がけた手術は約6000件という膨大な手術経験を持つ。現在は淡路島の診療所で僻地医療に従事している。
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 いやはや頭が下がります。

 腹を裂いて中の臓器をいじくり回す。
 初めは目を背けたい光景だったが、それを実践する人がいて、私たちは命を救われているのだ。
 いま改めてそれを思う。


孤高のメス [DVD]孤高のメス』  [か行]
監督/成島出  原作/大鐘稔彦
出演/堤真一 夏川結衣 吉沢悠 中越典子 松重豊 成宮寛貴 余貴美子 生瀬勝久 柄本明
日本公開/2010年6月5日
ジャンル/[ドラマ]
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tag : 成島出 堤真一 夏川結衣 吉沢悠 中越典子 成宮寛貴 生瀬勝久 柄本明

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