『春との旅』 手帳の住所は正しいか?

 【ネタバレ注意】

 観客の年齢層は高かった。
 老人が自分の居場所を探す『春との旅』について、読売新聞では「頑固老人と家族の絆」と題して、「現代の姨捨(おばすて)物語、小林政広監督版「楢山節考」」と評している。

 孫娘・春と祖父・忠男の旅を綴ったこのロードムービーは、たしかに幾人もの老人が登場する。観客に高齢者が多いのも、本作が高齢化社会を取り上げた作品だと目されたからかも知れない。

 しかし本作は、老人や家族を話の中心に置きながら、何よりも人生を描いている。


 年老いた祖父が兄弟を訪ねて回る様子は、『東京物語』を彷彿とさせる。

 『東京物語』では、老いた父母が、今は独立している子供たちを訪ねて回る。子供たちは一応父母を受け入れるものの、内心は迷惑している。
 しかし『春との旅』では内心どころか最初から受け付けない。兄弟たちはみな、忠男にとっとと帰ってもらいたいのだ。
 この点で、本作は『東京物語』から更に進んだ状況を描いている。
 血の繋がった家族といえども、大人の甘えは許されない。みんな自己責任でどうにかこうにか暮らしているのであり、忠男が兄弟を頼らざるを得ない境遇に陥ったのも、自己責任であると喝破される。

 兄弟たちが歓迎してくれるとは期待していなかった忠男だが、ここまで邪険にされるとも思わなかったろう。
 そして兄弟に逢うたびに、彼らが精神的・金銭的な余裕を持ち合わせない姿を見て、自分も彼らのことを何も判っていなかったことを知る。

 「過ちって、一生償えないのかな…。」
 春が泣きながら漏らす言葉である。


 忠男が、住所を書いた手帳を頼りに訪ね歩く様は、あたかもジュリアン・デュヴィヴィエ監督の『舞踏会の手帖』である。
 『舞踏会の手帖』では、踊りの相手を20年ぶりに訪ね歩いた女性が、男性たちの意外なその後に打ちのめされる。
 『春との旅』でも、はじめこそ観客の関心は忠男に向けられているものの、やがて兄弟たちの知られざる人生模様に固唾を呑むことになる。

 「ひとんちのことに口を出さないでくれ。」
 自殺した娘を責める兄に対して、忠男は云い返す。
 だが忠男が反論するのと同じ様に、どの家にも当事者にしか判らないことがあるのだ。
 何年も会っておらず、他人も同然に疎遠になっていた者が、それぞれの家の事情を垣間見るのは辛い。

 そして、自分の居場所を探していた忠男は、いつしか遠くを探したって居場所なんか見つからないことを悟る。
 さながら、青い鳥が、本当は近くにいたように。

 だが、方々を探し歩いたからこそ、青い鳥が近くにいることに気づけるのだ。
 人はしばしば、青い鳥を見つけることなく、人生を終えてしまうのかもしれないが。


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監督・原作・脚本・アソシエイトプロデューサー/小林政広  撮影/高間賢治
出演/仲代達矢 徳永えり 大滝秀治 菅井きん 小林薫 田中裕子 淡島千景 柄本明 美保純 戸田菜穂 香川照之
日本公開/2010年5月22日
ジャンル/[ドラマ]
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