『告白』 はじけたのは何か?


 「私には判っている。」

 『告白』の登場人物たちが、何度か口にするセリフだ。
 「私には判っている。」
 そう云いながら、判っているはずの相手とのコミュニケーションは、実のところ断絶している。

 中学を舞台とした本作には、2人の教師が登場する。
 生徒の名前を呼び捨てにして友達のように振る舞おうとする熱血教師・寺田良輝と、生徒を呼び捨てにしないことを心がけている森口悠子。
 いずれも生徒たちとのコミュニケーションは断絶している。
 そもそも、人と人は本当にコミュニケーションなどできるのだろうか。

 原作者の湊かなえ氏は、教師の経験もあるという。
 教壇に立ったとき、目の前に広がるのはどんな情景だったのだろう。

 パチン。

 希望が、期待が、大切なものが、弾けたときに、耳元で音がする。
 パチン。パチン。
 コミュニケーションを取ろうとしても、聞こえてくるのはそんな音だけかも知れない。


 優れたミステリーである本作は、13~14歳の子供たちの惨劇が描かれる。
 中学は、誰もが通ったことのある場所であり、そこで起こることは誰しも多かれ少なかれ身に覚えがあるはずだ。


 私がこの作品を観に行ったとき、遅れて入ってきたカップルが前列に陣取り、マクドナルドの袋を広げた。
 ガサ、ガサガサと紙袋の音が響き、飲み物のキャップにストローを突っ込むキキキという音が加わった。充満するポテトの匂い。
 困ったな、と私は思ったのだが、心配するには及ばなかった。
 上映が始まると、画面から一瞬たりとも目が離せず、セリフは一言たりとも聞き逃せず、場内は静まりかえったままだった。
 前列のカップルは、エンドクレジットが流れるまで、ついに飲み食いできずに終わった。

 場内が明るくなると、隣のカップルは笑いだした。妙にはしゃいだ声で話し始める。
 それはそうだ。
 人ごととは思えないこの映画の重い空気を跳ねのけるには、無理に笑ってみるしかない。
 だが、その笑顔にちからはない。
 できるのは、劇場から逃げ出すことだけだ。


 『告白』は、13~14歳の子供たちをとおして命の重さに焦点を当てた傑作だ。
 ある人にとって重い命も、別の人にとっては軽い。軽いと思った命も、別の人には重い。その連鎖が生む悲劇。
 悪いヤツは懲らしめて良いという考え方、罪を犯した者には罰を与えて良いという考えの恐ろしさ。
 そして、人々を孤立させるコミュニケーションの断絶。

 本作の寒々しい映像が、打ちつける雨が、わずかばかりの赤い炎が、普遍的な問題をえぐり出している。


 ただ、幸いと云うべきか、現実にはティーンエイジャーによる犯罪は減少している。窃盗にしろ殺人(未遂含む)にしろ、団塊の世代がティーンエイジャーの頃に比べればずいぶん少なくなっている。
 しばしば、親が子を、子が親を殺す家庭内殺人が報道されるが、これも昔に比べて増加しているわけではない。

 それよりも増えつつあるのは高齢者の犯罪だ。
 年齢層別検挙者数、すなわち各年齢層の人口に占める検挙者の割合を見ると、60歳以上の検挙者が増えている。

 法務省の「犯罪白書」は、わざわざ「高齢者による犯罪」という章を設けて、65歳以上の犯罪について述べている。
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一般刑法犯検挙人員の人口比は、(略)元年との比較で,20~29歳が約1.3倍,30~49歳が約1.3倍,50~64歳が約2.0倍に上昇しているにすぎないのに対し,高齢者では,約3.7倍にまで上昇しており,高齢犯罪者の人口比の上昇は著しい。このように,最近の高齢犯罪者の増加の勢いは,高齢人口の増加をはるかに上回っている。
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 パチン。

 高齢者の耳元でも、何かが弾ける音がしている。


告白 【Blu-ray完全版】告白』  [か行]
監督・脚本/中島哲也  原作/湊かなえ
出演/松たか子 岡田将生 木村佳乃 37人の生徒たち
日本公開/2010年6月5日
ジャンル/[サスペンス] [ドラマ] [学園]

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