『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』 注目を集めるのは誰か?

 ペルシャとは、現在のイランである。
 いや、国境などというものは時代と共に変遷するから、現在のイランはかつてのペルシャの中央部分にすぎない。
 『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』の時代設定について確たる説明はないので、この作品の舞台は現代の中東全体と考えた方が良いだろう。

 かつて日本映画がスケールの大きい作品を生み出そうとして、中東に乗り込んだ頃があった。
 三船敏郎主演の奇想天外な『奇巌城の冒険』(1966年)は、大々的にイランでのロケを行い、雄大な風景を見せつけた。
 『ゴルゴ13』(1973年)は、映画化に当たって原作者が出した2つの条件「高倉健を主役にすること」「オール海外ロケで撮影すること」を満たすために、イランでのロケを敢行した。

 日本映画に中東が登場しなくなったのは、イラン革命からだろう。
 1979年のイラン革命と1980年に始まったイラン・イラク戦争、そして暗礁に乗り上げたイラン・ジャパン石油化学の建設。このときを境に、多くの日本人にとって中東は危険で近づいてはいけないところになった。

 それは米国とて同じだろう。
 いや、米国は日本以上に危険視したはずだ。
 イラン革命ではアメリカ大使館の職員たちが人質になり、イラン・イラク戦争には軍事的に介入することになったりと、日本よりもよほど険悪な関係に陥っている。
 その後も中東の国々とは敵対的な関係が続き、2003年にイラク戦争が勃発するのである。
 いまだに米国は、イラクとアフガニスタンに兵力を差し向けたままだ。
 戦争は終わっていない。


 なのに、このところ立て続けに中東を舞台にした米国映画が公開されている。

 イラク戦争の非情な現場を描いた『ハート・ロッカー』だけではない。
 『グリーン・ゾーン』では、サスペンス・アクション映画らしくアレンジはしているものの、イラク戦争で悪いのは米国だったと吐露している。
 さらに現代劇だけではなく、中東の過去にも目を向けて、『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』を老若男女に向けて送り出した。
 『セックス・アンド・ザ・シティ2』も、主たる舞台は中東である。正確にはイランでもイラクでもなく、ペルシャ湾の対岸にあるアラブ首長国連邦のアブダビ首長国だが、この作品を観る米国人のうちどれだけの人がその違いを判るだろうか。

 『ハート・ロッカー』と『グリーン・ゾーン』、そして『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』、さらに『セックス・アンド・ザ・シティ2』は、それぞれターゲットとする客層が異なる。
 イラク戦争の当事者たる米国で『ハート・ロッカー』や『グリーン・ゾーン』が作られるのは判る。かつてベトナム戦争を題材に、『ディア・ハンター』等が作られたのと同じだ。
 だが米国にとってベトナムはあくまで戦場だった。中世のベトナムを舞台にした明朗冒険活劇や、ベトナムでファッションを楽しむ映画なんてない。
 しかし中東についてはそうではない。冒険も中東、ファッションも中東。米国民は、誰もかれも中東に注目しているのだ。少なくとも映画の作り手は、観客が注目すると考えている。

 では、そう考え始めたのはいつか?
 『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』の原作となったアクションゲームのシリーズは1989年から存在しているが、映画に客が入ると判断されたのは近年のことだろう。


 日米関係に詳しいエドワード・リンカーン氏は、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件を境に、米国の関心は中東にシフトしたと語る。
 リンカーン氏はブルッキングス研究所で日本研究の部長だったが、2002年に、もう日本の専門家は要らないと云われて職場を去る破目になった。次の国際問題評議会(CFR)でも同じ目に遭い、現在はニューヨーク大学で日本経営経済研究所長を務めている。
 そのリンカーン氏は、インタビューで次のように語る。
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 振り返ってみれば、「9.11テロ」「イラク侵攻」「アフガニスタン侵攻」がワシントンにおける日本の存在感を一気に希薄にしてしまったのだと思います。日本はプレーヤーではなかったからです。中国は(略)ロシアは(略)英国は(略)北大西洋条約機構(NATO)は(略)
 日本は? 何もありません。このことはワシントンで日本の影が薄くなっていくことに、いっそう拍車をかけました。日本は“ゲーム”から勝手に降りてしまったのです。
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 「9.11テロ」から数年の間は、米国の中東に対する関心は敵対的なものだったろうが、最近の米国映画を観れば、いまや関心は中東との関係の再構築に向いていることが判る。

 『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』において主人公たちは、他国が兵器を製造しているという情報に基づいて攻撃を開始する。戦争をした後に、その情報が本当なのか追求していく展開は、『グリーン・ゾーン』でも描かれたイラク戦争の実態である。
 そして本作にこのエピソードを織り込むことには、『グリーン・ゾーン』以上に意味がある。
 『グリーン・ゾーン』はR指定なので大人の観客が中心だし、イラク戦争当時もすでに大人だった人が多いだろう。
 しかし本作は、PG-13だからティーンエイジャーやファミリー層も観るし、何といってもディズニー・ブランドだから、将来も子供や若者たちにアピールしていくことだろう。すなわち、イラク戦争当時はまだ幼かったり、生まれてもおらず、とうぜん大量破壊兵器の問題も知らない層が、この作品から学んでいくのだ。

 本作を、単なる楽しく痛快な冒険活劇で終わらせないところに、この問題に対する米国の思いと決意が読み取れる。


 ちなみに、近年の日本映画に、中東がまったく登場しないわけではない。
 たとえば2009年の『沈まぬ太陽』では、イランの首都テヘランのシーンがある。このシーンは実際にイランにて、イランのクルーと協力して撮影したものだ。
 しかしその描き方は好意的でもなければ重要でもない。
 主人公が左遷で行かされた嫌な土地として、ほんの少し触れるだけだ。
 かつて三船敏郎や高倉健が、乗り出していった世界なのだが。

 リンカーン氏は、インタビューでこう続ける。
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だから何なのか。だから、どうしたいのか。具体的な未来の話が聞こえてこないのです。

 昨年12月にデンマークのコペンハーゲンで開催されたCOP15(第15回気候変動枠組条約締約国会議)でも、日本はほとんど存在感がありませんでした。米国、欧州、中国、アフリカは、時には国益を剥き出しにして激しく議論をしました。日本はどこにいましたか? 後ろのほうに静かに座っていて、何らかの合意が見えそうになった段階で、ようやく声を上げ、「途上国を援助するための基金に1兆円出しましょう」と言った。(略)日本とはそういう国なのだと見られても仕方がないと思います。
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プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂 ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』  [は行]
監督/マイク・ニューウェル  制作/ジェリー・ブラッカイマー
出演/ジェイク・ギレンホール ジェマ・アータートン ベン・キングズレー アルフレッド・モリナ
日本公開/2010年5月28日
ジャンル/[アクション] [アドベンチャー] [ファンタジー]

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