『グリーン・ゾーン』は諸刃の剣

 【ネタバレ注意】

 『グリーン・ゾーン』は、イラク戦争の背景に焦点を当てて映画化した作品である。
 本作はワシントン・ポストのバグダード支局長を務めたラジブ・チャンドラセカランのノンフィクションを原案としている。ラジブ・チャンドラセカランは、この本により2007年のサミュエル・ジョンソン賞を受賞したそうだ。

 本作を理解するためには、イラク戦争が起こった理由を知ることが大事だろう。

 『戦争詐欺師』の著者・菅原出氏によれば、イラク戦争を引き起こしたブッシュ政権には、2つのグループによる内部抗争があったという。

 もともと米国政府には、ネオコン・グループとCIAとの30年戦争とでも云うべき対立があり、ブッシュ政権においても、前者が国防総省とディック・チェイニー副大統領を中心とするグループ、後者が国務省とCIAを中心とするグループとして対立を激化させていたそうだ。

 一方、米国には、フセイン政権の支配体制を支えていたスンニ派やバース党からいじめ抜かれていたシーア派イラク人の亡命者たちがおり、「反フセイン運動」を推進していた。これが1990年代の後半にネオコン・グループと合体することで、「ネオコン 対 CIA」という対立が「反フセイン運動 対 穏健派」という抗争になってしまったという。
 そして「反フセイン運動」の中心にいるアフマド・チャラビという人物が、自身の利権を強化するために「イラクは大量破壊兵器を開発している」という情報をメディアやブッシュ政権に流しまくった。

 菅原出氏曰く、「本当であろうとウソだろうと別に構わない。米国を戦争に駆り立てるのが彼の仕事だったからです。」
 そして米国の力でサッダーム・フセインを追い落とすことに成功したチャラビは、イラクで相応のポジションを手に入れる。

 映画には、アフマド・チャラビに相当する人物が登場する。
 さらに、国防総省側をグレッグ・キニア演じるクラーク・パウンドストーンが代表し、対するCIA側はブレンダン・グリーソン演じるマーティン・ブラウンが代表して、米国内の対立の構図を映画に持ち込む。
 その上で、マット・デイモン演じる主人公が、嘘のベールを剥ぎとっていく様を描いている。


 監督がポール・グリングラス、主役がマット・デイモンというボーン・シリーズのコンビであることから、本作はアクション映画であることが期待されるだろうし、配給会社もアクション映画として売り込んでいる。
 そしてポール・グリーングラス監督とマット・デイモンは、その期待に応えている。

 しかしそれは諸刃の剣だ。
 "社会派"映画よりもアクション映画の方が、イラク戦争を巡る問題について関心の薄い人からも注意を引きやすい。
 しかし、たった114分のアクション映画に収めるには、物事を単純化せざるを得ず、映画の他にこれといった情報源を持たない人が早飲み込みするおそれもある。
 たとえば本作を見ていると、CIAが正義の味方のように思えなくもない。
 だが、誰から見ても正義の味方なんて組織があるわけがない。

 一例を挙げれば、パキスタンにおけるCIAの無人機によるミサイル攻撃では、多くの民間人に犠牲が出ている。
 菅原出氏は、「軍事作戦を仕切る“素人”CIA」と題した記事で次のように述べている。
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無人機によるミサイル攻撃が現地に及ぼす被害は甚大である。ニューアメリカン財団の調査では、2004年から今日までに830名から1210名の「個人」が殺害されており、そのうち550名から850名程度が「民兵」だと表現されている。これらの数に差があるのは、武装勢力に親近感を持っているメディアは「民間人」の被害を多く報じ、米国寄りのメディアは民間人の被害を低く見積もって報じる傾向があるからだ。あるパキスタンのメディアは「2009年一年間だけで700名の民間人が殺害された」と伝える一方、米国の保守系メディアは、「民間人の被害者は20名程度」とする米情報機関の主張をそのまま報じている。同財団は「信頼性の高い」メディアの報道を分析した結果、民間人の被害は全体の32%程度はあるのではないか、と結論づけている。
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 無人機によるミサイル攻撃も、近年では映画に描かれることがある。
 アクション映画だからと楽しんではいられない。

 『グリーン・ゾーン』はアクション映画らしく、主人公が隠された陰謀を暴く作りになっているが、菅原出氏は、ブッシュ政権が偽情報に喰いついた過程を指して、こう述べている。
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「陰謀」というよりも、ヒューマンエラーと言った方が正確です。誰かがとてつもない陰謀を仕組んだのではなくて、本当に関係した個人個人のエゴだとか、猜疑心であるとか、競争心だとか、そういった要素が大きかったのです。
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グリーン・ゾーン 【ブルーレイ&DVDセット・2枚組】 [Blu-ray]グリーン・ゾーン』  [か行]
監督・制作/ポール・グリーングラス
出演/マット・デイモン グレッグ・キニア ブレンダン・グリーソン エイミー・ライアン ハリド・アブダラ ジェイソン・アイザックス
日本公開/2010年5月14日
ジャンル/[アクション] [サスペンス] [戦争]

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tag : ポール・グリーングラス マット・デイモン

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