『17歳の肖像』 もしや日本にないタイプ?

 前回は、アメリカの貧しい少女が直面した選択肢と、その決断について触れた(「『プレシャス』 貧乏人と金持ちを分けるもの」参照)。

 さて、今回は米国でも日本でも、『プレシャス』とほぼ同時期に公開された作品の話である。


 舞台は60年代のイギリス。
 主人公はブレザーの似合う16歳の女子高校生。
 美しい彼女は、歳が倍ほども上の中年男と恋仲になって、なんと結婚しようとする。
 周囲の反対には目もくれず突っ走る彼女だったが、それで幸せになるのだろうか…。

 スーザン・ジョージ主演の『おませなツインキー』(1969年制作)は、こんな物語だ。


 あ、いや、今回はキャリー・マリガン主演の『17歳の肖像』(2009年制作)について書くんだった。
 でも、上に述べたあらすじはおんなじである。
 こちらはジャーナリストであるリン・バーバーの実体験だが。

 もちろんツインキーとの違いはあって、たとえばツインキーはミニスカートで自転車を乗り回す快活な女の子だが、キャリー・マリガン演じるジェニーはチェロを習う優等生である。
 そしてまた、ツインキーは中年男との生活がうまくいかないことに気づき、元の高校生活に戻っていくが、ジェニーは元に戻って終わりではない。

 ジェニーとツインキーの大きな違いは、勉学への取り組みだ。
 ジェニーは親に云われるまま名門オックスフォード大学の英文科を目指していたが、中年男との出会いによって、それがいかに退屈なことかに気づいてしまう。勉強すること、進学することに、何の価値があるのか疑問に思う。
 この後のジェニーと校長先生やスタッブス先生とのやりとりが、本作一番の見どころであろう。

 本作において、ジェニーは中年男やその仲間と過ごすことで、学校では知りえなかった人生の様々なことを学ぶ。たしかにそれらは貴重な経験だ。
 しかし最後には、進学しないこと、勉学をおろそかにすることが、自分の可能性を閉ざしてしまうことを悟るのだ。

 それは『プレシャス』にも通じるものである。
 読み書きもできないプレシャスと、優等生のジェニーとでは、環境も生い立ちもまったく違う。
 けれど2人とも、勉学に励むことこそ将来のために重要だという結論にたどり着く点では同じだ。
 そして、みずから努力しなければならないことを理解する。


 英米でこれらの作品が誕生する一方、日本の作品はどうだろうか?

 小田嶋隆氏がこんなことを書いている。
---
 「池袋ウエストゲートパーク」「ごくせん」「マイボス マイヒーロー」「セーラー服と機関銃」「タイガー&ドラゴン」「クローズZERO」、そして「ルーキーズ」と、この数年、ティーンエイジャー向けにテレビ局が提供してくるドラマは、「ヤンキーもの」だらけになりつつある。「恋空」みたいな、ドラマの背景にヤンキー風俗があるものを含めるなら、さらにその比率は高まる。
(略)
ヤンキードラマは、全体として、「悪いのはキミたちじゃない。世間の方だ」という主張を繰り返している。でなくても、プロットの中でヤンキーを称揚し、慰安し、英雄化している。
(略)
 一方、「優等生」の描かれ方は、ほとんど「差別的」ですらある。

 冷酷で計算高くて型にハマっていて小心者でマザコンで、利己主義でケチくさくて成績にしか興味がない。そのうえ、人間が薄っぺらで、他人を数字でしか評価しない了見の狭さゆえに友だちが少なくて、孤独で、そのくせ傲慢で……と。

 この種のヤンキー賛美&ガリ勉嘲笑哲学は、長らく少年漫画誌の一角で生きながらえるのみで、メジャーなメディアの中で中心ストーリーとして扱われることはなかった。

 それが、いつの間にやら、ヤンキーはテレビの黄金郷になっている。
---

 私は、小田嶋隆氏が例示した作品では『クローズZERO』しか見ていないし、『クローズZERO』には優等生が登場しないので、優等生の描き方がどれほど差別的で、ガリ勉を嘲笑しているのか判らない。
 しかし小田嶋隆氏は次のように続ける。

---
 もしかしてテレビ局は、弱い者の味方をしているつもりなのだろうか? エリートだったり高学歴だったりする人たちではなくて、格差社会の底辺に生きている人々にエールを送ろうとして、この種のドラマを配信しているのであろうか。
 
 違う。

 単に視聴者に媚びているだけだと思う。要するに、顧客がヤンキー化しつつある、と、そういうことだ。
(略)
 私が言おうとしているのは、テレビの提供する娯楽が、今後、数ある娯楽のうちの、最底辺に位置することになるだろうということだ。娯楽の底辺を為す、質の低い、影響力の小さい娯楽、つまり、テレビの奈落ということです。

 ともあれ、テレビは、いずれの方向に向いているのであれ「偏見を助長するタイプの安易な娯楽」(田舎者蔑視、非モテ系揶揄、暴力肯定、マッチョ思想伝播、拝金主義、セレブ賛美、役人呪詛、ガリ勉いじめなどなど)を志向しはじめている。
---

 なるほど、小田嶋隆氏が云うように、テレビは数ある娯楽のうちの、最底辺に位置するのかも知れない。
 しかし、底辺だから影響力が小さいとは限らない。
 底辺があるからには、その上には何らかの形があるはずだが、それはどんなものなのか。
 切り餅のような直方体か、ピラミッドのような四角錐か、その形状により、底辺の占める割合も変わってくる。

 小田嶋隆氏があげた作品には、劇場公開された映画も含まれている。
 なかでも『ROOKIES -卒業-』は85.5億円を稼いで、2009年度の興行収入第1位である。『ごくせん THE MOVIE』は34.8億円で邦画の7位、『クローズZERO II』は30.2億円で邦画の10位だ。
 これだけの成績を収めていることからすると、小田嶋隆氏が云うところの「底辺娯楽」は、直方体の底辺でも、ピラミッドの底辺でもなく、文鎮の底辺ではないかという気がしてくる。
 すなわち、思いのほか多くの人が底辺に含まれているのではないかと。


 先に述べた、勉学に励むのが将来のために重要だなんてことは、すでに言い古された、当たり前といえば当たり前の結論である。
 1986年の『スタンド・バイ・ミー』だって、そんな話だった。
 そして今も、イギリスの映画もアメリカの映画も、優等生もそうでない者も、その当たり前のことを実践すべしと訴えている。

 なのに、日本で同様のことを訴える作品はあるのだろうか。
 私にはとんと思い浮かばない。


17歳の肖像 [Blu-ray]17歳の肖像』  [さ行]
監督/ロネ・シェルフィグ  脚本/ニック・ホーンビィ  原作/リン・バーバー
出演/キャリー・マリガン ピーター・サースガード ドミニク・クーパー ロザムンド・パイク アルフレッド・モリナ エマ・トンプソン オリヴィア・ウィリアムズ
日本公開/2010年4月17日
ジャンル/[ドラマ] [ロマンス] [青春]
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