『プレシャス』 貧乏人と金持ちを分けるもの

 まさに奇遇というべきか、同時期に2人の16歳の少女が話題になった。
 1人は、ロンドン郊外の中流家庭の娘ジェニー・ミラー。オックスフォード大学を目指す美貌の秀才である。
 もう1人は、ニューヨークのハーレムに住むアフリカ系アメリカ人で、極度の肥満児クレアリース・プレシャス・ジョーンズ。学校には通っているものの、ろくに字も読めない。家庭は生活保護を受けている。

 前者はイギリス映画『17歳の肖像』の主人公、後者はアメリカ映画『プレシャス』の主人公だ。
 ジェニーを演じたキャリー・マリガンは1985年5月生まれ、プレシャスを演じたガボレイ・シディベは1983年5月生まれと、役者の年齢もほとんど変わらず、いずれも第82回アカデミー賞で主演女優賞にノミネートされた。


 ジェニーとプレシャスの環境は正反対だが、面白いことに作品が訴えるものは共通している。

 とりわけプレシャスとその母メアリーの生活は、ひとつの典型例を示しており、作り手の考えがとても判りやすい。
 プレシャスの母メアリーは、生活保護を受けているのをいいことに働きもせず、一日中リビングに座って、タバコを吸いながらテレビを見ている。
 プレシャスの肥満に負けず、メアリーもかなり太っている。
 外出せずに、食べてはテレビを見るだけだから当然だ。

 プレシャスの望みは、自分の部屋にテレビを置くこと。
 そうすれば母親に邪魔されずに、テレビを見られるからだ。

 さて、以前「『マディソン郡の橋』からの緊急警告!」という記事で、『お金持ちになるヒント!』を紹介したことがある。ここで再び喜多川泰氏が挙げるヒントを引用しよう。
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「家に帰ってテレビを見ながら食事をしたり、ビールを飲んだりする生活をやめてください。食事はパートナーと一緒につくったり食べたりしながら雰囲気や会話を楽しみ、テレビを見るかわりに落ち着いた部屋で本を読む習慣を身につけてください。」

「アメリカ映画を思い出してください。お金持ちの家には何がありますか?必ず書斎と大きなキッチンがあります。書斎にはたくさん本が並び、食事はつくるところから雰囲気を楽しみながら友人などを招いて会話を楽しむというのが普通です。テレビを見ながらビールというシーンは出てきません。むしろそういうシーンは、どういう所得層を描写するために使われているでしょうか?決してあなたがなりたくない所得層を描写するために使われているでしょう?」
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 また、同じ記事で、池田信夫氏の文章も紹介した。
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 海外で友人の家に行くと、リビングに大きなテレビが置いてあることはまずなく、奥の部屋に14インチぐらいのテレビがひっそり置いてあったりする。彼らにとっては家族や友人との会話や、読書や音楽が最上の娯楽であり、テレビはほかに娯楽のない貧しい人々のものなのだ。
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 プレシャスと母メアリーの暮らしは、上の文に出てくる貧困層の典型である。

 他方、プレシャスが出会うフリースクール(授業料無償の学校)の教師レインは正反対だ。
 知的でスタイルが良く、得意なのは歌を唄うこと。仕事がないときは親しい人との会話やゲームを楽しんだり、仲間とともに唄ったりしている。
 映画の中ではレイン先生を金持ちとして描いているわけではないが、喜多川泰氏がかくあるべしと云う生活そのままである。

 つまり、メアリーとレインは、それぞれ貧困層と富裕層の代表なのである。
 改めてその特徴を整理しよう。

 【貧困層】
 ・いつもタバコを吹かしている。
 ・娯楽はテレビ。
 ・太っている。

 【富裕層】
 ・基本的にタバコは吸わない。
 ・娯楽は親しい人との会話や読書、音楽。時間が惜しいからテレビは見ない。
 ・均整のとれた体型。

 もちろん、富裕層の特徴を満たしたからといって金持ちになれるわけではないが、少なくとも貧困層の特徴を満たすようではダメだということだろう。

 プレシャスは、2人のアフリカ系アメリカ人、メアリーとレインに接することで、みずからの進路を見つめ直す。
 それは生活保護にすがる生き方との決別だ。
 そのために、大学へ行く。
 そのために、勉学に励む。
 学力を伸ばすことで、自分の可能性を広げるのだ。


 『プレシャス』が米国で公開された2009年、米国史上初のアフリカ系大統領が誕生した。
 第44代大統領に就任したバラク・オバマは、その就任演説でこう述べている。
 「我々に今求められているのは、新しい責任の時代である――あらゆるアメリカ人が認識することである」

 思えば、バラク・オバマと同じ民主党の大統領ジョン・F・ケネディは、就任演説で次のように語りかけた。
 「祖国があなたに何をしてくれるかを尋ねてはなりません、あなたが祖国のために何をできるか考えて欲しい」

 本作の制作時期は、大統領予備選でバラク・オバマが「CHANGE」を訴えて盛り上がったころだ。
 本作の作り手たちは、アフリカ系アメリカ人が、そしてすべての人々が、変化しなくちゃならないことを、1人の少女を通して訴えた。


 なお、IMDbによれば、アフリカ系アメリカ人監督による作品で、アカデミー賞の作品賞にノミネートされたのは本作が初めてである。
 また、アフリカ系アメリカ人がアカデミー賞で脚色賞を受賞するのは本作が初めてである。

(「『17歳の肖像』 もしや日本にないタイプ?」につづく)


プレシャス [DVD]『プレシャス』  [は行]
監督・制作/リー・ダニエルズ  脚本/ジェフリー・フレッチャー  原作/サファイア
出演/ガボレイ・シディベ モニーク ポーラ・パットン マライア・キャリー シェリー・シェパード レニー・クラヴィッツ
日本公開/2010年4月24日
ジャンル/[ドラマ]
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【genre : 映画

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