『息もできない』 ただ吐き出したかった

 これが長編映画の監督デビュー作だというのだから恐れ入る。
 『息もできない』の素晴らしさは、制作・監督・脚本・編集・主演のヤン・イクチュンに尽きる。
 彼はインタビューでこう語っている。
 「自分は家族との間に問題を抱えていて、自分の中のもどかしさを、ただ吐き出したかったんです。」

 32歳だったヤン・イクチュンが己の内に溜めていたもの、どろどろした熱いものが、この映画に噴き出している。それは火山から流れる溶岩のように、切り刻んだ体から流れる血のように。


 何といっても脚本が良く練れている。
 伏線の張り方、その焦らし方、そして全体の構成に、無理がなく無駄がない。
 そして役者たちの演技は生々しく、怒り、哀しみが観る者に容赦なく迫ってくる。
 全編を通して描かれる家族への暴力、他人への暴力、暴力に対する暴力は、残念ながらいつの時代、どこの国でも普遍的な問題だろう。


 ただ、映画を覆う暴力は圧倒的だ。
 とりわけ興味深いのは、ヤン・イクチュン監督の次の言葉だ。
 「(主人公サンフンが)ことあるごとにヨンジェを殴っていたのはまた別の意味があって、あのように暴力的に接することで、彼はもうひとりの自分、よく似たもう一匹の狼に対して、悪の道に入らないよう諭していたんだと思います」

 たしかに、ヤン・イクチュン演じるサンフンは、手際良く仕事することを教えようとしているのかもしれない。目的を達するために過不足の無い暴力を、知らしめようとしているのかもしれない。いかに暴力を振るうサンフンといえども、人殺しまでは考えていないので、自分と同じようにすれば過剰な暴力に走ることを防げるという意図があったのかもしれない。

 しかし、結局は暴力を振るっているだけだ。
 観客には、サンフンの行為が諭しているようには見えない。
 少なくとも、殴られるヨンジェはそうは受け取らない。
 所詮そこにあるのは、暴力を振るう者と暴力を振るわれた者の関係だけなのだ。


 『息もできない』は、暴力からは暴力しか生まれないということを徹底して描いている。
 それを描くために全編を覆う執拗な暴力シーンは、何を生み出すのだろうか。


息もできない [DVD]息もできない』  [あ行]
制作・監督・脚本・編集/ヤン・イクチュン
出演/ヤン・イクチュン キム・コッピ イ・ファン チョン・マンシク
日本公開/2010年3月20日
ジャンル/[ドラマ] [ロマンス]

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tag : ヤン・イクチュン

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