『NINE』とは、8.5+0.5?

 1960年代、チネチッタ、モノクロ、映画監督を取り巻く美女たちとくれば、大傑作『8 1/2(はっか にぶんのいち)』だ。
 『8 1/2』の題名は、フェデリコ・フェリーニが監督してきた作品の「8 1/2」本目という意味だと解釈されているそうだ。それに対して『8 1/2』をミュージカル化した『NINE(ナイン)』とは、『8 1/2』に半歩(音楽とダンス)を加えた内容と、重要な役割を担う9歳の少年を意味しているという

 はたして半歩加えられたのかどうかはともかく、『8 1/2』をミュージカルにするとは大胆不敵だ。しかもブロードウェイ・ミュージカルならともかく、映画化して銀幕に映し出すとは、実質的に『8 1/2』のリメイクも同然のプロジェクトであり、普通の監督なら腰が引けるだろう。

 それを成し遂げたロブ・マーシャル監督は、もちろん勝算があってのことだ。
 この勝負に勝つ方法は、自分の土俵に上げることだ。
 ロブ・マーシャル監督は、『8 1/2』にはなかった華麗なダンスシーンをふんだんに盛り込み、『8 1/2』とはまったく違う映画を作り上げた。


 『8 1/2』でマルチェロ・マストロヤンニが演じたグイド・アンセルミは何を考えているのか判らない男だったが、ダニエル・デイ=ルイス演じるグイド・コンティーニは何も考えていない男だ。
 プレッシャーに弱く、衣装デザイナーの裁縫台に横たわってしまうほど精神的に追い詰められた男。

 『8 1/2』には海に打ち上げられた怪物や、宇宙船のような巨大セットが登場し、観客はマルチェロ・マストロヤンニとともに幻想世界に迷い込む。
 対する『NINE』では、歌やダンスが登場人物の妄想として登場する。歌が終われば妄想も終わる。
 ロブ・マーシャル監督は、フェリーニのような世界に踏み込むことなく、ダメ監督の物語に得意なダンスシーンを挿入して観客を魅了する。


 ミュージカル映画で難しいのは、群舞の扱い方だろう。
 舞台ならとうぜん欠かせない見せ場なのだが、いまどきの映画では、見ず知らずの人たちが走り寄って踊りだすのはギャグになってしまいかねない。
 『(500)日のサマー』のように笑いもかねて織り交ぜるなら効果的だが、うまくいかない例もある。
 その点、ダンスシーンを妄想と割り切った本作は、いくらでも群舞できるし、観客も割り切って楽しむことができる。

 また、贅沢の極みと思えるのが、ダンスシーンのカット割りだ。
 ロブ・マーシャル監督は、さすが振り付け師としてのキャリアが長いだけあって、素晴らしいダンスを見せてくれる。振り付けもイカしているので、カメラを固定させて、ダンスをじっくり堪能したいところだ。
 ところが、カットが短い上に、踊っていないダニエル・デイ=ルイスのアップが交ざったりするので、ダンスに専念できない。
 もちろん、振り付け師たるロブ・マーシャルは、観客にダンスをきちんと見てほしいだろう。にもかかわらず、映像的な刺激を優先して、みずからダンスシーンを短くカットしてしまう。
 ここにロブ・マーシャルの自信のほどが窺える。

 そしてミュージカル映画の楽しみのひとつが、意外な人物の歌声が聴けること。
 たとえば『鴛鴦(おしどり)歌合戦』で志村喬までもが歌いだしたとき、思わず快哉を叫びそうになった人も多いだろう。
 本作では、75歳のジュディ・デンチが歌って踊る姿を披露してくれる。『007/慰めの報酬』のMはいささかお疲れ気味だっだが、『NINE』では他の役者のはじけっぷりに負けていない。


 本作で興味深いのは、クラウディアの位置づけだ。

 『8 1/2』でグイドが夢見るクラウディアは、映画の妖精のようだった。当時25歳のクラウディア・カルディナーレの美しさは光り輝き、グイドの憧れの結晶として登場した。
 ところが『NINE』のクラウディアを演じるのは当年とって42歳のニコール・キッドマン。もちろん美しいのだが、クラウディア役にはちょっと年上すぎる。
 案の定、ニコール・キッドマンのクラウディアは、妖精ではなく成熟した女神として登場する。
 しかも彼女は、すぐに女神の座を降りてしまうのだ。
 そのため『NINE』には、グイドが追い求める映画の妖精も女神もいなくなってしまう。

 そして『NINE』は、映画的な広がりを見せるのではなく、夫婦の物語へと収斂していく。

 すなわち9という数字は、『8 1/2』に半歩(音楽とダンス)加えたというよりも、単に『8 1/2』じゃないという意味でしかないのだ。

 あぁ、久しぶりに『8 1/2』を観たいものだ!


NINE [Blu-ray]NINE(ナイン)』  [な行]
監督・制作・振付/ロブ・マーシャル  振付/ジョン・デルーカ
脚本/アンソニー・ミンゲラ、マイケル・トルキン  原作/アーサー・コピット
出演/ダニエル・デイ=ルイス マリオン・コティヤール ペネロペ・クルス ジュディ・デンチ ケイト・ハドソン ニコール・キッドマン ソフィア・ローレン ファーギー
日本公開/2010年3月19日
ジャンル/[ミュージカル]

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