『インクレディブル・ファミリー』 世界は女で回ってる

【チラシ付き、映画パンフレット】 インクレディブル ファミリー 【ネタバレ注意】

 2004年公開の『Mr.インクレディブル』は、スパイアクションの傑作だった。ジョン・バリーが音楽を手がけた頃の007シリーズ、その音楽にそっくりな曲に乗せて、アクションと秘密兵器をてんこ盛りにした映画だった。
 ちょうど本家007シリーズの空白期間に公開されたこともあり(『007/ダイ・アナザー・デイ』を最後にピアース・ブロスナンがジェームズ・ボンド役のシリーズが終わり、ダニエル・クレイグが『007/カジノ・ロワイヤル』でジェームズ・ボンド役に就く前の時期だった)、痛快スパイアクションを渇望する観客を楽しませてくれた。
 ブラッド・バード監督が大作スパイアクション映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』の監督に招かれたのも、もっともな面白さだ。

 その上『Mr.インクレディブル』は、超人的な能力を持つスーパーヒーローチームの物語でもあり、親子、夫婦の不和を乗り越える家族の物語でもあった。


■インクレディブル・ファミリーの原型

ファンタスティック・フォー[超能力ユニット] [Blu-ray] インクレディブル一家が、アメコミ史上初のスーパーヒーローチームである『ファンタスティック・フォー』(テレビアニメの邦題は『宇宙忍者ゴームズ』)を模しているのも楽しい。

 Mr.インクレディブルのネーミングは、もちろんファンタスティック・フォーのリーダー、Mr.ファンタスティックが元ネタであろう。けれども体が頑丈で怪力を持つところは、ファンタスティック・フォーのメンバー、ザ・シングからのものだ。

 Mr.ファンタスティックのゴムのように伸び縮みする能力は、こちらではMr.インクレディブルの妻イラスティガール(弾力女子)のものになっている。

 ファンタスティック・フォーの紅一点、インヴィジブル・ガールの透明化能力とエネルギーシールドを作る能力は、Mr.インクレディブルとイラスティガールの娘ヴァイオレットに受け継がれている(ヴァイオレットの名は、Mr.ファンタスティックとインヴィジブル・ガールの娘ヴァレリアのもじりだろうか)。

 Mr.インクレディブルとイラスティガールの長男ダッシュの「若い男の子がスーパーヒーロー」というコンセプトは、ファンタスティック・フォーの最年少メンバー、ヒューマン・トーチに通じる。ただし、ヒューマン・トーチの能力、すなわち全身から火を放ち、空中浮揚するところは、ダッシュの弟ジャック・ジャックが再現していた(ダッシュの超高速で動ける能力は、DCのフラッシュ又はマーベルのクイックシルバーから)。
 ジャック・ジャックが多様な能力を秘めているところは、Mr.ファンタスティックとインヴィジブル・ガールの息子フランクリンのようでもある(ちなみに、「ジャック」はバード監督の息子の名)。

 Mr.インクレディブルの友人であるスーパーヒーロー、フロゾンは、そのツルンとした外見や、みずから発生させた氷の上をスノーボードで疾走する姿から明らかなように、ファンタスティック・フォーの友人で、サーフボードで空中を疾走するシルバーサーファーに相当しよう。フロゾンがインクレディブル一家にあそこまで肩入れするのは、ファンタスティック・フォーとシルバーサーファーの関係が下敷きにあればこそだ。

 Mr.インクレディブルの敵シンドロームも、かつて敵ではなかったのにMr.インクレディブルを逆恨みして敵対したり、超能力がなくても各種の科学兵器を発明して強敵たり得るところなど、Mr.ファンタスティックを逆恨みした天才科学者ドクター・ドゥームを踏襲したキャラクターに違いない。


Mr.インクレディブル MovieNEX [ブルーレイ+DVD+デジタルコピー(クラウド対応)+MovieNEXワールド] [Blu-ray]■「途方もない家族」の物語

 さて、『Mr.インクレディブル』という題名だとMr.インクレディブルだけが主人公のようだが、原題は『The Incredibles』。「途方もない人たち」という意味と、「インクレディブル一家」という意味を掛けたものだろう。ブラッド・バード監督がかつて手掛けたアニメ番組『ザ・シンプソンズ』(シンプソン一家)と同様のネーミングだ。
 だから続編『Incredibles 2』の邦題が『インクレディブル・ファミリー』になったのは、より原題の意味に近くなって喜ばしい。これなら「インクレディブル一家」という意味にも取れるし、「途方もない家族」と解釈することもできる。

 そして『インクレディブル・ファミリー』は、前作に負けず劣らず充実したスパイアクションだ。
 21世紀を代表するスパイアクション映画『ミッション:インポッシブル』シリーズでも最大のヒット[*]となった第四作『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』を監督しただけあって、ブラッド・バードのスパイアクションの腕は冴えている。冒頭から前作のクライマックスを凌ぐほどのアクションが炸裂し、そこから一転、陰謀がインクレディブル一家を巻き込むサスペンスを経て、最後は一大スペクタクルが待ち受ける。主演がトム・クルーズでもおかしくない、豪快なアクション大作だ。

 『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』の次にブラッド・バード監督が手掛けた『トゥモローランド』(2015年)は、これまた面白くて素晴らしい作品だったのに、興行的に振るわなかったのは残念だ。
 シリーズ物よりオリジナル作品を優先するブラッド・バード監督は、『ミッション:インポッシブル』シリーズ第五作のオファーを断り、『スター・ウォーズ エピソードVII/フォースの覚醒』の監督も断って『トゥモローランド』に専念したのに、結果的にディズニーに大赤字を負わせてしまった。
 『トゥモローランド』の次に監督したのが、シリーズ化された『インクレディブル・ファミリー』なのは皮肉な巡り合わせだが、本作がブラッド・バード監督最大のヒットとなり、ディズニー/ピクサーに莫大な利益をもたらしたのはめでたいことだ。


The Art of Incredibles 2 (英語) ハードカバー■14年の歳月は状況を変えた

 しかし、前作『Mr.インクレディブル』公開からの14年は、続編制作を困難なものにしかねなかった。
 1960年代風のスパイアクションは後発の『怪盗グルー』シリーズが何度も繰り返してしまったし、方々の映画会社に自社作品の映画化を持ちかけていたマーベルはマーベル・シネマティック・ユニバースを成功させてスーパーヒーロー映画の大量生産を成し遂げた。前作の特徴であったものが、今や珍しくもなんともなくなってしまったのだ。


 1960年代風といえば、本作の中でインクレディブル一家が見ているテレビにアニメ番組の『科学少年J.Q』(原題『Jonny Quest』)の第8話「The Robot Spy」が映っていることから、その日が1964年11月6日であることが判る。再放送の可能性もあるけれど、『科学少年J.Q』だけでなくテレビドラマ『アウター・リミッツ』(1963年~1965年)を見ている場面もあるから、本作の時代設定が1964年であることは間違いあるまい。

インクレディブル・ファミリー オリジナル・サウンドトラック Soundtrack 1960年代を舞台にした『怪盗グルー』シリーズの『ミニオンズ』が、当時のヒット曲を散りばめて60年代らしさを醸したのも良かったが、本作は負けず劣らず60年代そのものとしか思えないテーマソングをみずから発信して楽しませる。
 劇中でも使用されるMr.インクレディブルのテーマソング『たたかえMr.インクレディブル』、フロゾンのテーマソング『アイツはフロゾン』、そしてイラスティガールのテーマソング『ゴーゴー・イラスティガール』は、いずれも名曲揃い。これらを収めたサウンドトラック盤は必聴だ。

 とはいえ、前作と同じくマイケル・ジアッチーノが担当した音楽は、全体的には前作ほど60年代らしく感じない。前作の楽曲はジョン・バリーが甦ったかのようだったが、本作ではそれほどジョン・バリーの再現に努めてはいないようだ。映画全体が、『ミニオンズ』のような徹底した60年代らしさを訴求しようとは考えていないようなのだ。


 スーパーヒーロー映画としては、前作同様に充実した内容で楽しませてくれる。
 Mr.ファンタスティックのエピゴーネンであるイラスティガールは、ドアの隙間から手を差し込んで錠を開けたり、冷凍室に閉じ込められて伸び縮みできなくなったりと、2005年の映画『ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]』と同じことを繰り返してみせる。

 対する敵のスクリーンスレイヴァーが催眠技術で人々を操るのは、ファンタスティック・フォーの敵パペット・マスターを模したものだろうか。このスクリーンスレイヴァーというキャラクター、1960年代らしくテレビ受像機や各種モニターを介して人々を操るのだが、これはスマホのスクリーンを見て下を向いてばかりいる2010年代の大衆への痛烈な皮肉であろう。パソコンの画面で勝手に立ち上がる「スクリーンセイバー」と、奴隷商人を意味する「スレイヴァー(slaver)」を掛け合わせたネーミングも秀逸だ。

 しかも、前作ではインクレディブル一家とフロゾンくらいしか登場しなかったスーパーヒーローが、今回は新世代のメンバーを加えてわんさか登場し、敵味方に分かれて大暴れ。
 敵の陰謀も、個人的な満足を得ようとした前作のシンドロームの悪事よりも社会的に影響の大きい企みとなり、はるかにスケールアップした。

 とはいえ、あの手この手でスーパーヒーロー映画が繰り出される昨今、スーパーヒーローの増員や多少の陰謀では差別化は図れない。
 前作は、スーパーヒーローが非合法化され、その上スーパーヒーローが次々抹殺されるというマンガ『ウォッチメン』をその映画化の前に先取りしたが、本家『ウォッチメン』の映画が2009年に公開され、さらに公的機関の管理下に置かれそうになったスーパーヒーローたちが敵味方に分かれて戦う『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)まで公開された後となっては、本作の今さら感は拭えない。


 だが、本作の真価は、1960年代風のテイストやスーパーヒーローの活躍ではない。


■「他に例がないもの」

 長年、ピクサーへ来るようにジョン・ラセターから誘われていたブラッド・バードが、ようやく入社を決めたときにラセターから出された要求は一つだけ。「ずっと作りたかった映画を作ること」だった。
 10年以上にわたり、スーパーヒーローの家族に関する作品を作りたいと思っていたブラッド・バードは、さっそく『Mr.インクレディブル』に取り組んだ。その背景には、『ザ・シンプソンズ』等の制作に追われた90年代、三人の子宝に恵まれながらブラッド・バード自身が仕事と家庭のバランスに悩んだ経験があったという。

 『トゥモローランド』が完成し、本作の脚本執筆に取りかかっていた2015年当時のインタビューで、ブラッド・バード監督はスーパーヒーロー物の興隆が長続きするとは思えないとして、時代を超えたものを作る重要性を強調した。
 「スーパーヒーローの部分には興味がないのです。より興味を抱くのは、家族のダイナミックな関係や、スーパーヒーロー的なものがそこにどう関わるかということです。この方向性はとても興味深いと思うし、他に例がないものです。」

ファンタスティック・フォー:銀河の危機 [Blu-ray] なるほど、だから『ファンタスティック・フォー』なのか。
 ファンタスティック・フォーの特徴は、アメコミ史上はじめてのヒーローチームということだけでなく、同時に家族でもあることだ。Mr.ファンタスティックとインヴィジブル・ガールは夫婦であり、ヒューマン・トーチはインヴィジブル・ガールの弟だ。他のスーパーヒーローも結婚したり親族関係が語られることがあるけれど、もっとも古く、たった四人のヒーローチームのうちの三人が家族であるという点で、ファンタスティック・フォーの特異な地位は揺るがない。
 ブラッド・バード監督がファンタスティック・フォーをモデルにインクレディブル・ファミリーを創造したのは、個々の特殊能力を真似したかったわけではなく、家族でありながらスーパーヒーローチームというファンタスティック・フォーが提示したモチーフを掘り下げたかったからなのだろう。

 バード監督は『Mr.インクレディブル』において、会社をクビになった上にそれを家族に打ち明けられず、何とか稼ごうとしてあがく父親という、およそスーパーヒーローらしからぬ切ない中年男を描き出した。この作品の結論は、家庭のことは妻に任せきり、その代わり稼ぐことについては夫だけが悩むという"役割分担"はもうやめて、みんなで悩みと苦労を分かち合おうという新たな家族像を提示することだった。

 そして本作――。
 Mr.インクレディブルことボブと、イラスティガールことヘレンが、働き手と家事の役割を交替するアイデアは、前作公開時からバード監督の中にあったという。しかし、完璧なストーリーを思いつくのに何年も要したのだった。
 このストーリーが実に面白く、「他に例がないもの」になっている。スーパーヒーローのはずのMr.インクレディブルが家事に専念し、悪との戦いが繰り広げられるのをテレビで見ているだけだなんて、そんなスーパーヒーロー映画が他にあろうか。

 スーパーヒーロー映画として見た場合、本作は完全にイラスティガールが主人公になっている。これがまた本作を際立たせる点だ。
 2010年代、マーベル・シネマティック・ユニバースの名の下にスーパーヒーロー映画が量産されたにもかかわらず、『キャプテン・マーベル』が公開された2019年まで女性が主人公の映画はなかった。ライバルといえるDCエクステンデッド・ユニバースに目を向けても、女性の主演映画は『ワンダーウーマン』(2017年)とその続編(2019年)しかない。スーパーヒーロー映画に欠かせない天才科学者も、2018年に『ブラックパンサー』が公開されるまで男性に占められていた。

 スーパーマンが受ければ『スーパーガール』(1984年)、英雄コナンが受ければ『レッドソニア』(1985年)、バットマンが受ければ『キャットウーマン』(2004年)、デアデビルはそれほど受けなかったが『エレクトラ』(2005年)等、男性ヒーローの人気にあやかる形で女性が主人公のアメコミ(スピンオフ)映画が作られたこともあったけれど、興行的にも批評的にも成功した女性スーパーヒーロー映画は『ワンダーウーマン』が初めてだろう。そんな状況でブラッド・バード監督は、『ワンダーウーマン』公開のはるか前から女性を主人公に据えたスーパーヒーロー映画を作ろうとしていたのだ。
 しかも『ワンダーウーマン』でさえ、女性が男性と並んで戦う話であり、男性が家庭を守る映画ではなかった。現実の世界では、妻が稼ぐ一方、夫が家事に専念する家庭だって少なくないと思うが、ことスーパーヒーロー映画では前代未聞の設定だ。
 たしかに、本作は時代に縛られない、時代を超えた映画といえよう。


インクレディブルファミリー ポスター 60x90cm■世界の真実

 ただ、これは米国においてのこと。日本ではいささか事情が異なる。
 なにしろ、日本にはセーラームーンやプリキュア等の女性スーパーヒーローがたくさんいるし、彼女たちの主演映画も山のように作られている。日本の観客にとっては、イラスティガールが前面に出て大活躍しても、さほど新鮮ではあるまい。

 夫と妻が役割を交替するのも、日米では受け止め方が異なるだろう。
 多くの国では、家の外に出る稼ぎ手が経済力を持っている。だから夫だけが稼ぎ手であれば、世帯収入すべてが夫の手中にあることになる。ところが日本では、夫が稼いだ金は妻の管理下に置かれ、夫は妻から小遣いをもらうケースが少なくない。この場合、夫が自由にできるのはわずかな小遣いに限られ、稼ぎ手ではない妻のほうが経済力を持つことになる。深尾葉子氏は、このような夫婦の関係を、水生昆虫タガメがくちばしをカエルに挿して肉を吸い取る様になぞらえ、「タガメ女」と「カエル男」と名付けている。カエルがあちこちで獲物を捕らえ、自分の養分にしようとしても、すべてはタガメに吸い取られてしまうのだ。
 家事をボブに任せたイラスティガールことヘレンは、社会に活躍の場を得て生き生きして見える。だが、カエルに取りついて養分を吸うタガメの場合、わざわざカエルの立場になって喜ぶかは疑問である。

 もちろん、日本にだって「タガメ女」「カエル男」でない男女はたくさんいよう。女性みずから稼ごうとすると、有形無形の障害が立ちはだかるのが問題であることは云うまでもない。

 ともあれ本作は、夫婦や親子のあり方を問うて家族に変化を促す物語であり、スーパーヒーロー映画にありがちな都合のいいアジェンダ設定――宇宙からの侵略者や悪の秘密結社との闘いにかまけて、目の前の家族との良好な関係構築というもっと難しいことを後回しにする――を打ち破る、特筆すべき作品といえよう。


 さらに云えば、本作が提示するのは単なる男女の役割交替ではなく、圧倒的に女性中心に回っている真の世界像だ。

 本作の悪役イヴリンは、幾重もの意味で新しいキャラクターだ。007シリーズには登場したこともない女性の黒幕であること、『ブラックパンサー』のシュリ王女に続く女性の天才科学者であること。そして、映画に出てくる女性の黒幕といえばせいぜい魔女とか欲望の塊のおばさんとか、あまり知的な人物ではないことが多いのに、本作のイヴリンは天才的頭脳を駆使して、世界の人々のメンタリティを変えようとする。

 イヴリンには、大金持ちだがお人好しの兄ウィンストンがいるけれど(ウィンストンのほうが黒幕だと考えた観客もいることだろう)、初期段階の構想ではネルソンという悪い兄がいて、兄のほうが真の黒幕とされていた。そしてイヴリンは電気を操るシェレクトリック(Shelectric=彼女(she)+電気(electric))となってインクレディブル一家を襲うはずだった。
 しかし、女性――それも超能力を持ち出したりせず、頭脳を駆使して悪事を働く女性――の黒幕が好ましいという作り手の判断から、現在のイヴリンが創造されたという。
 おかげで、彼女の兄はただの善良な脇役となり、電気を操るスーパーヒーローとして別途ヘレクトリクス(He-Lectrix=彼(he)+電気(electric))が誕生した。

インクレディブルファミリー  Mrインクレディブル ポスター 60x90cm イラスティガールがスーパーヒーローに復帰したのも、戦いのたびに街を壊してしまうMr.インクレディブルよりイラスティガールのほうが市民生活に与える損害が少なく、スーパーヒーローに相応しいとの分析結果が出たからだ。
 事実、Mr.インクレディブルが大暴れすると訴訟沙汰になったのに、イラスティガールの活躍には誰もが拍手喝采する。そしてテレビに出演したイラスティガールは、「ヒーローを男に任せてはおけません」と演説まではじめてしまう。
 Mr.インクレディブルことボブはといえば、これまでヘレンが完璧にこなしていた家事に挑戦して、まったく手も足も出ないことが判明する。
 家事労働者としても、家の外での稼ぎ手としても、女性のほうが男性に勝ることを本作は強調する。

 今後の政策のキーパーソンとなるヘンリエッタ・セリック大使も女性、スーパーヒーローのスーツを作る凄腕デザイナーのエドナ・モード(007シリーズのQに相当する)も女性、新世代スーパーヒーローの中で唯一個性的に振る舞うのももちろん女性のヴォイドだけ。一方で、社会の底辺でうごめく性根が腐ったアンダーマイナーは男性である。
 こうしてイラスティガール対イヴリンの、女性対女性の戦いを中心に据えた本作は、男性の出る幕がほとんどなく、それどころか男性はトラブルメーカーにしかならないことを示しながら展開する。

 「他に例がないもの」を作ろうとするブラッド・バード監督の意気や良し。
 ただ、ここまでくるとミサンドリー(男性嫌悪)のように感じなくもない。
 劇中では、突然動き出したインクレディビールに驚いた男性が女性の陰に隠れたり、調理器を前にした男性が女性から「あなたにもできる」と諭されるテレビコマーシャルが流れたりもする。
 男性はそこまで役に立たない生き物でもないと思うが、家父長制を肯定するような傾向が見られるピクサーにおいて(一例として、こちらの記事の2016年5月16日のコメントを参照されたい)、本作はとても挑戦的で、「時代を超えたもの」と云えるだろう。


 こうして、前作時点で構想していたことを見事作品に結実させたブラッド・バード監督だが、2018年に公開されるはずだった『トイ・ストーリー4』の制作が遅れ、代わりに2019年に公開予定だった本作が2018年に前倒しされることになったため、本作に盛り込むのをあきらめたアイデアがたくさんあるという。たとえば、本作の敵スクリーンスレイヴァーは、AI絡みの複雑なプロットをあきらめて急遽こしらえたキャラクターだそうだ。
 是非ともシリーズ第三弾を作って、また我々を楽しませて欲しいものだ。


[*] 『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』の興行成績は、本記事公開後に中国のものが加わり、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』を上回った。

インクレディブル・ファミリー オリジナル・サウンドトラック Soundtrackインクレディブル・ファミリー』  [あ行]
監督・脚本/ブラッド・バード
制作総指揮/ジョン・ラセター
出演/クレイグ・T・ネルソン ホリー・ハンター サラ・ヴォーウェル ハック・ミルナー サミュエル・L・ジャクソン ソフィア・ブッシュ イーライ・フチーレ ジョン・ラッツェンバーガー ジョナサン・バンクス イザベラ・ロッセリーニ ブラッド・バード マイケル・バード
日本語吹替版の出演/黒木瞳 三浦友和 綾瀬はるか 山崎智史 斎藤志郎 木下浩之 加藤有生子
日本公開/2018年8月1日
ジャンル/[アクション] [スーパーヒーロー] [ファミリー]
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【genre : 映画

tag : ブラッド・バード ジョン・ラセター クレイグ・T・ネルソン ホリー・ハンター サラ・ヴォーウェル ハック・ミルナー サミュエル・L・ジャクソン 黒木瞳 三浦友和 綾瀬はるか

⇒comment

こんにちは

いや~この記事を読むと確かに、ファンタスティックフォーをめちゃくちゃリスペクトしてるんだなって思いましたw
このアメコミもこの前貸してもらって読んでたはずなんですけどね(^_^;)

没プロットではAIを絡めようとしていたみたいですが、この映画ってやっぱり自動車やカメラがレトロだし、ああいうブラウン管洗脳?の方が作風には結果的に合っていたと思います!

お兄さんが結局ただのいい人っていうのは、よかったですね。そして、テーマ的に女性がボスなんだろうけど、お兄さんがなんとなく黒幕の可能性もあるように思えたのは、やっぱり制作途中で黒幕の設定に悩んだからっていうのは納得いきました。

観客を騙すのって、こんな感じで、脚本を練るときに作り手も悩んでいて、最後までどっちでも行けるようにストーリーを展開させると、わりと上手に作れますね。だって書いている人も、悩んでいるわけですしw
こういう、練り込みがなされた脚本ってやっぱりいいなって思います。

あとミソジニーって聞いたことありますけど、その逆もあるんですね(^_^;)
確かに日本って戦闘美少女ものってセーラームーンをはじめとしてあるけれど、あれに違和感がないのは確かに興味深いですね。
わりと日本の方が欧米に比べて女性の社会進出は保守的な感じがするんですが(^_^;)
あれかな、日本のサブカルチャーはあまり社会とかそういうのと無関係に戦っているからなのかなあ。

Re: こんにちは

ゴーダイさん、こんにちは。
世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数2017」において144ヶ国中49位の米国と114位の日本では、女性の社会進出の度合いがまるで違いますね。
米国と日本はともに世界に名だたるスーパーヒーローの量産国であり、いずれも多くの女性スーパーヒーロー(「ヒロイン」ではなく、あえて「ヒーロー」と呼びますが)を擁していますが、それぞれの系譜というか、誕生した文脈は異なると思います。それぞれが発展していく中でたまたま似たような形に至ったのであり、いわば収斂進化と捉えるほうがいいでしょう。

収斂進化も行くところまで行くと区別がつかなくなるらしいのは面白いです。
日本のマンガ『銃夢』がハリウッドで『アリータ: バトル・エンジェル』として映画化されますね。
私はアメコミやアメリカ映画が好きな一方、日本の戦闘美少女モノがどこから勃興してきたか、魔法少女モノがどのような経路を経て合流し、セーラームーン等に結実したか、その過程をリアルタイムで見てきたので、なかなか感慨深いです。

機会があれば、日米の女性スーパーヒーローの類似と相違について記事にするのも面白いかもしれませんね。

楽しみにしてます!

>日米の女性スーパーヒーローの類似と相違

ぜひぜひ~!

あと、アメリカって日本くらい女性のスーパーヒーローがいるんですね、そんなイメージなかったから新鮮です。

>魔法少女モノがどのような経路を経て合流し、セーラームーン等に結実したか、その過程

こっちも気になるな~w私はあまりアニメとか見て育ってないから(^_^;)

No title

007に女性の悪役がいない。なるほど。悪役じゃないけどジュディ・デンチのMはインパクトありました。昨今、ナポレオン・ソロ新版やマイティ・ソー3、キングスマンGCなどで女ラスボスが増えてきてるのは、キャラ性が強ければ男女関係ない事に気が付いたのか。と言うより、アメリカの物づくりの現場で嫌な女ボスが増えてきてるとかかもしれない。

こういうの考える時、日本は本当に狂ったコンテンツ大国だと思う。コンバトラーVのオレアナ、ジャネラ、ヘドリアン女王、マシンマンのマダムM、いろいろいる。キャラが強かったり、面白ければ多分何でもいいんだよね、きっと。

そんな中、永井豪の単なる思い付きだろうけど、ヒーローもビランもどっちも女という、キューティー・ハニーがエポック・メイキングですよね。幹部怪人も女で、あっ、乳付けとけば醜くてもいいんだって気付かされて凄かった。日本のコンテンツ普通じゃなくて面白い。あと、探してみればきっと手塚が何かやってると思う。

Re: No title

fjk78deadさん、こんにちは。
Mがジュディ・デンチになったのは、英国諜報機関の長官が女性であることが判明したからですね。現実に後れをとってますね。

その点、日本は先進国です。「奥様」とはよくいったもので、男性を走狗としてこき使う女性の黒幕にこと欠きません。実際、次の徳川将軍を誰にするか大奥が決めてた国ですし。
それにしても『キューティー・ハニー』は凄いです。敵組織のトップも女、幹部も女。対するヒーローも女。男性は敵組織の下っ端雑兵と、ヒーローに守ってもらうかよわいキャラクターだけ。電撃フリントが女性だけの組織と戦ったことはありますが、それをはるかに上回って斬新でしたね。
おっしゃるとおり、女性が醜いのも特徴で、どうしても女性は美しいものだ、女性は美しく描かなきゃという思いに囚われがちですが、永井豪氏はあっさり醜い女性を描いたのですからたいしたものです。

かつて米国の女性ヴィランは、『眠れる森の美女』のマレフィセントとか『リトル・マーメイド』のアースラとか『スーパーガール』のセレナのような魔女系ばかりの印象が強かったのですが、近年では日本のように女性が悪の組織のトップに就けるようになったようです。ワイルド・スピードシリーズのサイファーのような例が出てきましたね。
嫌な女ボスという点では、すでに1994年に『ディスクロージャー』の例もありましたが、ようやく悪いボスに性別は関係ないということが広く認識されるようになったのでしょう。
Secret

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