『カーズ/クロスロード』 カーズ3でプレーンズ3を楽しもう

カーズ/クロスロード オリジナル・サウンドトラック Soundtrack 【ネタバレ注意】

 楽しみにしていた作品が、未完で終わると残念なものだ。
 マンガ『魔王ダンテ』や『魔獣戦線』のように掲載誌の休刊で未完になった作品や、編集者が原稿を紛失したといわれる小説『妖星伝』のように、後年作者の手で完結できたものもあるが、『サイボーグ009』や『火の鳥』のように完結前に作者が死去してしまった作品も少なくない。
 映画の場合は金と人手がかかるだけに、マンガや小説以上に最後まで作り続けるのが難しい。シリーズ化を意図していたにもかかわらず、一作目の成績が振るわずにシリーズが頓挫するのはよくあることだ。

 『カーズ』(2006年)で4.6億ドル、『カーズ2』(2011年)で5.6億ドルの興行成績を叩き出したディズニー/ピクサーは、カーズファミリーの映画を量産することを計画した。自動車を主人公にした『カーズ』のような形で、ボーツ(船)やトレインズ(列車)を作ろうとしていたのだ。
 先陣を切ったのが、飛行機を主人公にしたプレーンズ三部作だった。第一作『プレーンズ』が2013年に、第二作『プレーンズ2/ファイアー&レスキュー』が2014年に公開され、あまりの傑作ぶりに仰天した私は、完結編となる第三作を心待ちにした。

 だが、待てど暮らせど、『プレーンズ3』は公開されなかった。5000万ドルの制作費に対して2.4億ドルの成績だった『プレーンズ』や、1.5億ドルしか稼げなかった『プレーンズ2』の状況を見て、三部作構想は棚上げになったのかもしれない。
 私は残念でならなかった。このシリーズの結末を是非とも観たかった。

 カーレースを題材にした『カーズ』と同様に、『プレーンズ』は飛行機レースを扱った長編アニメーション映画だ。違うのは、『カーズ』の主人公ライトニング・マックィーンが最初からレーシングカーなのに対し、『プレーンズ』の主人公ダスティが農薬散布用飛行機であることだ。農薬散布用なのに飛行機レースで活躍したいなんてのは、とんでもなく難しい夢だから、『プレーンズ』で描かれる悲哀と勝負の厳しさは半端じゃなかった。

 さらに『プレーンズ2/ファイアー&レスキュー』は、花形レース機として幸せの絶頂にいたダスティが、故障のためにレース人生に終止符を打たれる物語だった。ギアボックスを損傷して出力を上げられない彼は、肩を壊した野球選手や足を失くしたサッカー選手のようなものだ。これまで応援してくれた人々と接することすら辛いダスティが、これからどうやって生きていくのか。子供向けのアニメーション映画とは思えないほど深刻な物語だった。もちろん、飛行機やクルマのキャラクターはどれも可愛らしいし、映画はユーモアたっぷりで面白い。シリアスなテーマと、楽しく可愛い作風の組み合わせの妙に、私はいたく感心した。

 それだけに、完結編たる第三作に期待した。勝負の厳しさや、挫折と再起を描いてきたこのシリーズが、最後に何を語るのかと、興味津々だった。

 残念ながら、プレーンズシリーズの最後のメッセージを知る機会は永遠に失われた。――そう諦めたところに公開されたのが、カーズシリーズの第三作『カーズ/クロスロード』(原題:Cars 3)だ。
 生き甲斐や生き方といったシリアスなテーマを掘り下げ続けたプレーンズシリーズとは違い、カーズシリーズはライトニング・マックィーンと仲間たちの友情を中心に据えつつも、第一作は新人レーサー、マックィーンの成長物語、第二作はレッカー車メーターが主役のスパイアクションと、内容の振幅が激しかった。だから、第三作も新奇性を重視した作品になるのかと思っていた。
 ところが本作は、『プレーンズ3』が作られたらこうなったであろうと思えるような、生き甲斐や生き方を掘り下げた映画だった。


超合金 カーズ(Cars) ライトニング マックイーン(LIGHTNING McQUEEN) 約200mm ダイキャスト&ABS&PVC製 彩色済み完成品フィギュア 『カーズ/クロスロード』の主人公は再びマックィーンに戻る。花形レーサーとして幸せの絶頂にいたマックィーンが、レースで大破して、このままレース人生を続けるか否かの瀬戸際に追い込まれる映画の序盤は、『プレーンズ2』の要約といえる。飛行機ダスティの挫折と再起の物語をマックィーンもなぞるのだが、加えて本作は『プレーンズ2』の後にダスティが直面したであろう事態まで描き出す。
 『プレーンズ2』のダスティは、体の一部が故障したとはいえ、まだ若くて体力も気力も充分だった。だが、本作のマックィーンが迎える危機は、世代交代だ。旧い世代であるマックィーンは、性能に勝る新世代のレーサーたちに手も足も出ない。同じ旧世代のレーサーが次々引退していく中、現役であることにこだわるマックィーンはどんどん立場が悪くなる。自分を凌ぐ新しい世代に追い上げられ、居場所がなくなっていくとき、人はどのように生きていけば良いのか。

 これだ。これこそが、幻の『プレーンズ3』で語られるべき物語だった。栄光も挫折も味わったダスティがさらに直面する事態といったら、旧世代として若い世代にどう接するかという問題だったに違いない。

 私は、ジョン・ラセターをはじめとする作り手に感謝したかった。失われたとばかり思っていた物語を、見ることができた気分だった。
 『カーズ』の原案・脚本・監督と『カーズ2』の原案・監督、そしてプレーンズシリーズの原案とエグゼクティブ・プロデューサーを務めたジョン・ラセターは、本作でもエグゼクティブ・プロデューサーとして関わっている。ラセターは、脚本家たちに「今作も、もちろん子どもたちが楽しめる作品にしたい。それでいて大人も共感出来るものにしたいんだ」と伝えたという。


ディズニー カーズ トミカ C-47 クルーズ・ラミレス (DINOCOレーシングタイプ) 本作は、『モンスターズ・ユニバーシティ』で扱ったテーマも改めて深掘りしている。
 多くの映画が、やればできる、努力すれば望みは叶うと夢を振りまく中で、『モンスターズ・ユニバーシティ』が、努力してもできないものはできないこと、才能や環境に恵まれた連中には敵わないことを描いたのは驚きだった。子供向けの映画として、本当に大切なことを描いていた。
 もちろん、そもそもやらなければできないし、努力すればかなりのことがやれるのは自明の理だ。やりもしないでやれないと思ったらせっかくのチャンスを逃してしまう。
 そのことについて、本作は『モンスターズ・ユニバーシティ』とは違ったアプローチで描いている。

 本作の新キャラクター、クルーズ・ラミレスは、レーサーになりたかったのに、とても自分にはできないと諦めていた。本作では、やりもせずに頭からやれないと思っているクルーズと、新世代に引き離されてもまだ自分はやれると思っているマックィーンの人生が交叉する。
 やればできるかもしれないということと、やってもできないかもしれないということ。一見すると矛盾した二つのことを両立させて描く本作には、舌を巻くしかない。

 性能では挽回できなくても、知識と経験に磨きをかけて有利に立ち回ろうとするマックィーンの姿は、もう若くはない年長者たちへのエールでもあろう。同時に、昔の体験にあぐらをかいて新たなことを学ばなければ、伸び盛りの若者に敵うはずもないのだと反省を促してもいる。
 そして何より、若者にチャンスを譲り、自信をつけさせ、伸ばしてやることが、年長者の務めなのだと諭している。それは自分が栄光を掴むこと以上に、やり甲斐のある、大事なことかもしれないのだ。本作をつくるに当たっては、長いあいだ「カムバック物」として検討されていながら、途中から「師弟物」に発展したのだという。
超合金 カーズ(Cars) ファビュラス ライトニング マックイーン(Fabulous LIGHTNING McQUEEN) 約200mm ダイキャスト&ABS&PVC製 彩色済み完成品フィギュア ブライアン・フィー監督は云う。「たとえ何者でも、その人が得た居場所は、前の世代の助けがあってこそ。最終的には、次の世代にそのお返しができれば、それって人生で最高のことだと思う。」

 師弟物といっても、『姿三四郎』や『クリード チャンプを継ぐ男』のように若者が師匠になってくれと頼みにくるのではない。『ロッキー5/最後のドラマ』や『ハスラー2』のような師弟対決とも違う。本作のクルーズは、マックィーンが引っ張り上げなければ、生涯埋もれたままだった。これはガッツのある若者を称える映画ではなく、自信を持てず、前へ踏み出せない人に優しく手を差し伸べる映画なのだ。

 人を伸ばすには、小さなことでいいから成功体験を積ませることが重要だ。
 まさしくクルーズ・ラミレスは、砂浜で走れるようになったり、場末のデモリション・ダービーで優勝したりして、小さな成功を重ねていく。それこそが大事であったのだと、振り返ってみれば判るようになっている。

 レースの世界を題材にしながら、本作はありとあらゆる境遇の、あらゆる世代の人にとって普遍的な物語だ。
 映画を観終えたときの感慨は、何物にも代えがたい。


カーズ/クロスロード オリジナル・サウンドトラック Soundtrackカーズ/クロスロード』  [か行]
監督/ブライアン・フィー  制作総指揮/ジョン・ラセター
出演/オーウェン・ウィルソン クリステラ・アロンゾ アーミー・ハマー ラリー・ザ・ケイブル・ガイ ポール・ニューマン クリス・クーパー ネイサン・フィリオン ケリー・ワシントン リー・デラリア ボニー・ハント
日本語吹替版の出演/土田大 松岡茉優 藤森慎吾 山口智充 戸田恵子 赤坂泰彦 福澤朗
日本公開/2017年7月15日
ジャンル/[アクション] [アドベンチャー]
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【theme : ☆ディズニー映画「カーズ」☆
【genre : 映画

tag : ブライアン・フィー ジョン・ラセター オーウェン・ウィルソン クリステラ・アロンゾ アーミー・ハマー ポール・ニューマン 土田大 松岡茉優 山口智充 戸田恵子

⇒comment

No title

お久しぶりです~名作でしたね!

>本作のクルーズは、マックィーンが引っ張り上げなければ、生涯埋もれたままだった。これはガッツのある若者を称える映画ではなく、自信を持てず、前へ踏み出せない人に優しく手を差し伸べる映画なのだ。

ここら辺は『レミーのおいしいレストラン』と近いところもありましたよね。
久々に身につまされるいい映画を見ました!

しかしプレーンズ3は企画倒れになってたんですね(^_^;)

Re: No title

ゴーダイさん、こんにちは。
『プレーンズ3』を物凄く楽しみにしていたので、とっても残念だったのですが、本作を観て救われました。
こんな素晴らしい映画を作ってくれて嬉しいです。

上映が終わり、場内が明るくなったとき、近くの席の子供はポカンとした様子でした。
もしかしたら、よく判らなかったのかも(期待と違ったのかも)しれません。
でもきっと、心の中にこの映画があることが、いつか支えになると思います。

No title

(マックイーンが)人を生かして自分も生かす。まるで柔道や合気道の極意のようです。素晴らしい「継承」でもありますし。満たされた気持ちでした。勝つ方も負ける方もだれもが自分らしく生きているのも印象的です。

Re: No title

魚虎555さん、こんにちは。
「人を生かして自分も生かす。」
いいこと云いますね!

経営者の役割は後継者を育てることだと云います。
本作で長編映画をはじめて監督したブライアン・フィーは、マックィーンとクルーズの関係を、前作までの監督だったジョン・ラセターと自分との関係になぞらえています。
ジョン・ラセターは現役バリバリだから続投することだってできたはずですが、思い入れのあるシリーズを敢えて監督未経験のフィーに委ねた成果が本作なんですね。

No title

これからの展開を予想する。
プレイヤー兼任トレイナーという新しい道を歩みだしたマックイーンだったが、彼等の世界にも戦争の災禍はやってきた。徴用されたマックイーンはジープ群の中で戦場の悪路で速く走れず、荷物を多く運ぶ事も出来ずに苦しんでいた。彼の素養を見抜いた軍部上層部の特命により秘密作戦への参加が求められる。空軍のレース・パイロットや海軍のヨット部隊との合同作戦で、彼等はみなレースで性能を磨いてきたメンツだったのだ。スピードに特化した特命作戦がいま、始まる。 みたいなんで、プレーンズ、シップス総出演で。
Secret

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▲画像は後から。 五つ星評価で【★★★★相変わらずピクサーはスキがないのう】 シリーズ三作目だが二作目は見逃している。 うろ覚えだが一作目は町の兄ちゃんのマックイーンがレースで頭角表わすまで。三作目のスタートでは連勝チャンピオンになっていたから、二作目ではレースでチャンピオンの地位を確立するまでが描かれたのだろう(※)。そして三作目はャンピオンとして老いを感じ、若者の台頭で限界を感...
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