『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』 前から二列目で観よ!
濃密な時間であった。
これほどドロリとした作品を観るのは久しぶりである。
『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』 で描かれるのは、一つの悲劇であり、遍歴であり、愛の物語である。
新聞の社会面に取り上げられる事件にも、もしかしたらこんな事情があるのかもしれないし、現実にはありえない夢のようにも思える。
主人公は、「なんでも代行屋」の紅(くれない)次郎。本名は村木哲郎である。
「なんでも代行屋」とは、その名のとおり、人の困ったことを肩代わりする商売だ。家の片付けから、ペットの捜索まで、なんでもする。
まず、この設定がイイ。これは男の理想だ。
誰に雇われるでもなく、誰を雇うわけでもなく、一人で生きている。
社会からドロップアウトしたようでいて、ヤクザ者ではない。ぎりぎり堅気に踏みとどまっている。
倉庫の2階を住まいとし、金があるわけではないが、食うに困っているわけでもない。
次郎の暮らしは気楽そうで、少々ストイックで、少々スタイリッシュだ。
そんな次郎が人捜しをするのだが、彼は裏社会に通じているわけでもなく、警察に顔が利くわけでもなく、ただ雨の中を、傘を差してトボトボ歩きながら人の話を聞くだけだ。
こんな捜し方なら自分にもできるかも、と観客に思わせるところが良い。
観客は、自分を取り巻くいろいろなものを吹っ切ってしまえば、次郎のように生きられるのではないかと夢想できる。
現実には、できないけれど。やっぱりこれは、夢の中の男だけれど。
やがて次郎は一人の女に出会い、凄惨な事件に巻き込まれる。
女も理想の存在である。
時に少女、時に悪女、被害者も加害者もないまぜになって、男が抱く女性のイメージのすべてを押し付けられた存在だ。
そのため女の人物像は破綻しているが、男の夢が詰まっているため、愛さずにはいられない。
計算しつくした照明は、ヒロインの肢体を美しく浮かび上がらせ、また謎めかして闇に隠す。
そして徹底したローアングルは、観客が地べたに這いつくばって映画を観ているような気分にさせる。
ごくまれに高みから見下ろす構図があっても、カメラはいきなり見下ろしたりせずに、低い位置から高みへと動いていくことで、ローアングルとの連続性を保つ。
このローアングルのカメラと、降りしきる雨と、過剰なまでに美しく差し込む光とが、哀しい男女の物語を、まるで幻想譚のように思わせる。
天を仰ぐヒロインは、あたかも蜘蛛の糸を待つカンダタである。糸を掴まない限り、地獄の混沌の中にいるしかない。
そして化け物じみた人間たちの中にあって、ひとり次郎だけが私たちと等身大のままでいるのが、かえって悲しい。
『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』の上映館は決して大きくはない。
私は177席しかない銀座シネパトス1の前から二列目で鑑賞した。
ローアングルの映像は、二列目でスクリーンを見上げる角度が相応しい。
地べたを這うような視点から次郎や女を見上げるとき、彼らの哀しみが土砂降りになって降り注ぐ。
『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』 [な行]
監督・制作・脚本/石井隆
出演/竹中直人 佐藤寛子 東風万智子(旧芸名 真中瞳) 井上晴美 大竹しのぶ 津田寛治
日本公開/2010年10月2日
ジャンル/[ドラマ] [犯罪] [エロティック]
これほどドロリとした作品を観るのは久しぶりである。
『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』 で描かれるのは、一つの悲劇であり、遍歴であり、愛の物語である。
新聞の社会面に取り上げられる事件にも、もしかしたらこんな事情があるのかもしれないし、現実にはありえない夢のようにも思える。
主人公は、「なんでも代行屋」の紅(くれない)次郎。本名は村木哲郎である。
「なんでも代行屋」とは、その名のとおり、人の困ったことを肩代わりする商売だ。家の片付けから、ペットの捜索まで、なんでもする。
まず、この設定がイイ。これは男の理想だ。
誰に雇われるでもなく、誰を雇うわけでもなく、一人で生きている。
社会からドロップアウトしたようでいて、ヤクザ者ではない。ぎりぎり堅気に踏みとどまっている。
倉庫の2階を住まいとし、金があるわけではないが、食うに困っているわけでもない。
次郎の暮らしは気楽そうで、少々ストイックで、少々スタイリッシュだ。
そんな次郎が人捜しをするのだが、彼は裏社会に通じているわけでもなく、警察に顔が利くわけでもなく、ただ雨の中を、傘を差してトボトボ歩きながら人の話を聞くだけだ。
こんな捜し方なら自分にもできるかも、と観客に思わせるところが良い。
観客は、自分を取り巻くいろいろなものを吹っ切ってしまえば、次郎のように生きられるのではないかと夢想できる。
現実には、できないけれど。やっぱりこれは、夢の中の男だけれど。
やがて次郎は一人の女に出会い、凄惨な事件に巻き込まれる。
女も理想の存在である。
時に少女、時に悪女、被害者も加害者もないまぜになって、男が抱く女性のイメージのすべてを押し付けられた存在だ。
そのため女の人物像は破綻しているが、男の夢が詰まっているため、愛さずにはいられない。
計算しつくした照明は、ヒロインの肢体を美しく浮かび上がらせ、また謎めかして闇に隠す。
そして徹底したローアングルは、観客が地べたに這いつくばって映画を観ているような気分にさせる。
ごくまれに高みから見下ろす構図があっても、カメラはいきなり見下ろしたりせずに、低い位置から高みへと動いていくことで、ローアングルとの連続性を保つ。
このローアングルのカメラと、降りしきる雨と、過剰なまでに美しく差し込む光とが、哀しい男女の物語を、まるで幻想譚のように思わせる。
天を仰ぐヒロインは、あたかも蜘蛛の糸を待つカンダタである。糸を掴まない限り、地獄の混沌の中にいるしかない。
そして化け物じみた人間たちの中にあって、ひとり次郎だけが私たちと等身大のままでいるのが、かえって悲しい。
『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』の上映館は決して大きくはない。
私は177席しかない銀座シネパトス1の前から二列目で鑑賞した。
ローアングルの映像は、二列目でスクリーンを見上げる角度が相応しい。
地べたを這うような視点から次郎や女を見上げるとき、彼らの哀しみが土砂降りになって降り注ぐ。
『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』 [な行]
監督・制作・脚本/石井隆
出演/竹中直人 佐藤寛子 東風万智子(旧芸名 真中瞳) 井上晴美 大竹しのぶ 津田寛治
日本公開/2010年10月2日
ジャンル/[ドラマ] [犯罪] [エロティック]
⇒comment
No title
佐藤寛子は素晴らしい。
あの話的には全く必然性のないポールダンスもとてもいい。でも、お話にはちょっとのめりこめなかったです。
あの話的には全く必然性のないポールダンスもとてもいい。でも、お話にはちょっとのめりこめなかったです。
Re: No title
ふじき78さん、コメントありがとうございます。
佐藤寛子さんのことはこの作品で初めて知ったのですが、話題になっているところを見ると彼女の起用は大成功ですね。
私は、大竹しのぶさんにほれぼれしました。ビールかっくらいながら死体の解体って絵になるなぁ。
話はいささか無理矢理ですが、石井監督の「オレの撮りたい絵を撮ってるんだ。文句あるか!」的な強引さが、私は気に入りましたけどね。
当初の脚本は、もっと殺伐としていたんだとか。
石井隆監督は次のように語っています。
---
前作は、代行屋の紅次郎(竹中直人)が愛した女、名美を失って終わった。(略)実生活で妻を亡くしたのをきっかけに、「名美亡き後の次郎の物語」を脚本に書き上げた。「でも、当時の僕の精神状態のままに、殺伐とした内容だったので、映画化の企画が通らなかった」という。
昨年5月、(略)平静を取り戻した状態で手を入れ、「破滅的な物語を少しずつ修正」していった。
---
読売新聞 2010年10月8日 夕刊
http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/cinema/cnews/20101008-OYT8T00698.htm
本作の方向性は『エル・トポ』に近いと思います。やたらと裸になるところを含めて
佐藤寛子さんのことはこの作品で初めて知ったのですが、話題になっているところを見ると彼女の起用は大成功ですね。
私は、大竹しのぶさんにほれぼれしました。ビールかっくらいながら死体の解体って絵になるなぁ。
話はいささか無理矢理ですが、石井監督の「オレの撮りたい絵を撮ってるんだ。文句あるか!」的な強引さが、私は気に入りましたけどね。
当初の脚本は、もっと殺伐としていたんだとか。
石井隆監督は次のように語っています。
---
前作は、代行屋の紅次郎(竹中直人)が愛した女、名美を失って終わった。(略)実生活で妻を亡くしたのをきっかけに、「名美亡き後の次郎の物語」を脚本に書き上げた。「でも、当時の僕の精神状態のままに、殺伐とした内容だったので、映画化の企画が通らなかった」という。
昨年5月、(略)平静を取り戻した状態で手を入れ、「破滅的な物語を少しずつ修正」していった。
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読売新聞 2010年10月8日 夕刊
http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/cinema/cnews/20101008-OYT8T00698.htm
本作の方向性は『エル・トポ』に近いと思います。やたらと裸になるところを含めて
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『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』が動きだした。前作『ヌードの夜』から17年、企画から10年をかけた石井隆監督と竹中直人の熱い想いの詰った渾身の作品『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』は、主人公・紅次郎の新しい物語。主演の竹中直人はもちろんのこと、竹中扮する...
「ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う」完成披...
公式サイト 取り敢えず、R-15+指定映画。佐藤寛子のフルヌードシーンもありますから。 上映前に、ほぼフルキャストでの舞台挨拶が行われた今回の試写会。 やっぱり竹中直...
ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う
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『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』をシネマート新宿2で観て、佐藤寛子には熱烈な拍手を送りたいけど、映画は☆☆なふじき
五つ星評価で【☆☆記事のタイトルに書いたとおりです】
ええと、この映画の企画が
佐藤寛子を脱がす事にあるのなら、
大成功。
100%どころか200%達成してると言えるでしょう。
達成しすぎちゃった感があって、この後、
女優としての杉本彩みたいに、
そうい...
『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』(2010)/日本
監督・脚本:石井隆出演:竹中直人、佐藤寛子、東風万智子、井上晴美、宍戸錠、大竹しのぶ鑑賞劇場 : 横浜ブルク13公式サイトはこちら。<Story>とある街でバーを営む母...
『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』はエロティックな雨が降るよ。
今回は『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』の感想でございます。
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『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』
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ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う
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この監督...
「ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う」
「ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う」
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「ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う」愛を奪われた先にみた闇に覆われた女の悲惨な過去
11月7日に新潟で公開されていた
「ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う」(R15+指定)を観賞した。
この映画は17年前に公開された
映画「ヌードの夜」の続編的な作品で
何でも屋の男がある以来を受けた事で事件に巻き込まれていく姿を
描いたストーリーである。
依頼...
「ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う」
石井隆ワールド、全開の一本。
ほんとよねえ。漆黒の夜、しのつく雨、瞬くネオン…。
撮り方は、舌なめずりするようにねちっこく、匂い立つように不健康そのものに。
誰が観たって、石井隆の世界が帰...
『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』
ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う
代行屋 紅次郎は依頼人れんに騙され
母娘の保険金殺人に巻き込まれる...
【個人評価:★★☆ (2.5P)】 (自宅鑑賞)
『ヌードの夜』(1993年)の続編