『ドライヴ』 これぞリアルな変身ヒーロー
影響を受けたのは『ハロウィン』と『トランスポーター』。
オマージュを捧げているのは『タクシードライバー』とアレハンドロ・ホドロフスキーの諸作。
そうニコラス・ウィンディング・レフン監督は語っている。
なるほど、『ドライヴ』は仮面の男による猟奇殺人と、プロの運び屋の逃亡劇と、運転手による悪人退治がないまぜになった作品だ。
観客たちはそれらに加えて、本作同様にロサンゼルスでカーチェイスを繰り広げる『ブリット』をはじめ、多くの作品を本作と比べているようだが、私はそこに『仮面ライダー』も加えたい。
本作の主人公は、人には云えない過去と、いくつもの顔を持つ孤独な男だ。
あるときは自動車修理工場の整備工、またあるときはカースタントのドライバーであり、そしてレーサーの卵でもある。しかして、ひとたび平和のために立ち上がるや、仮面に素顔を隠して悪人どもを皆殺しにする。
これはまるで、普段は城南大学の学生として研究に勤しみながら、同時にオートレーサーを目指していた仮面ライダー1号こと本郷猛のようである。
ニコラス・ウィンディング・レフン監督は、この主人公は昼間はただの人間だが、夜は真のヒーローになると述べている。
劇中、College & Electric Youth の歌う"A Real Hero"で繰り返されて、観客の頭にこびりつくのも、次の一節である。
Real human being, and a real hero,
それはまさしく、仮面のヒーローそのものだ。
このリフレインを聴きながら、『仮面ライダー』のエンディング曲『ロンリー仮面ライダー』の、
悲しみを 噛みしめて
ひとり ひとり 斗う
というフレーズを思い出す人もいるだろう。
もちろん、本作の主人公と本郷猛との違いもある。
本作の主人公は、必ずしも正義の味方ではない。ときには逃亡犯を運ぶ闇社会の運転手としての裏の顔も持っていた。
しかし、それとて仮面ライダーが悪の秘密結社ショッカーの一員たるべく作られた改造人間であることを髣髴とさせる。
ヒーローは、人々とは異なる存在であるという点において、一般大衆よりも悪漢に近いのだ。
それは本作の主人公が、自分をサソリになぞらえていることからも明らかだ。
彼はサソリの刺繍つきのジャケットを着ており、劇中でも自分の戦いをカエルとサソリの寓話にたとえている。泳げないサソリが川を渡るためにカエルの背に乗せてもらいながら、カエルを刺し殺して一緒に溺れてしまうあの話だ。
IMDbの記事では、サソリの刺繍を背にした主人公をカエルとみなしているが、本作では主人公こそサソリと考えるべきだろう。主人公のズバ抜けた戦闘能力と残虐さ、そして戦いはじめると止められない性質は、一緒に溺れると判っていてもカエルを刺さずにいられないサソリの哀しい性(さが)そのものである。
ジェイムズ・サリスの原作では、主人公の過去にも重きが置かれているそうだが、映画は過去を一切語らない。
これは、読者が主人公の主観に同化しながら進行する小説と、観客が文字通り客観的に眺める映画との媒体の違いもあろうが、観客にすら語れない過去を背負うがゆえに、本作では一層主人公の孤独が感じられる。
ヒーローに安息の日々はない。
本作はそれをスタイリッシュに突き詰めた映画である。
『ドライヴ』 [た行]
監督/ニコラス・ウィンディング・レフン 原作/ジェイムズ・サリス
出演/ライアン・ゴズリング キャリー・マリガン ブライアン・クランストン クリスティナ・ヘンドリックス ロン・パールマン オスカー・アイザック アルバート・ブルックス
日本公開/2012年3月31日
ジャンル/[アクション] [サスペンス] [犯罪]
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オマージュを捧げているのは『タクシードライバー』とアレハンドロ・ホドロフスキーの諸作。
そうニコラス・ウィンディング・レフン監督は語っている。
なるほど、『ドライヴ』は仮面の男による猟奇殺人と、プロの運び屋の逃亡劇と、運転手による悪人退治がないまぜになった作品だ。
観客たちはそれらに加えて、本作同様にロサンゼルスでカーチェイスを繰り広げる『ブリット』をはじめ、多くの作品を本作と比べているようだが、私はそこに『仮面ライダー』も加えたい。
本作の主人公は、人には云えない過去と、いくつもの顔を持つ孤独な男だ。
あるときは自動車修理工場の整備工、またあるときはカースタントのドライバーであり、そしてレーサーの卵でもある。しかして、ひとたび平和のために立ち上がるや、仮面に素顔を隠して悪人どもを皆殺しにする。
これはまるで、普段は城南大学の学生として研究に勤しみながら、同時にオートレーサーを目指していた仮面ライダー1号こと本郷猛のようである。
ニコラス・ウィンディング・レフン監督は、この主人公は昼間はただの人間だが、夜は真のヒーローになると述べている。
劇中、College & Electric Youth の歌う"A Real Hero"で繰り返されて、観客の頭にこびりつくのも、次の一節である。
Real human being, and a real hero,
それはまさしく、仮面のヒーローそのものだ。
このリフレインを聴きながら、『仮面ライダー』のエンディング曲『ロンリー仮面ライダー』の、
悲しみを 噛みしめて
ひとり ひとり 斗う
というフレーズを思い出す人もいるだろう。
もちろん、本作の主人公と本郷猛との違いもある。
本作の主人公は、必ずしも正義の味方ではない。ときには逃亡犯を運ぶ闇社会の運転手としての裏の顔も持っていた。
しかし、それとて仮面ライダーが悪の秘密結社ショッカーの一員たるべく作られた改造人間であることを髣髴とさせる。
ヒーローは、人々とは異なる存在であるという点において、一般大衆よりも悪漢に近いのだ。
それは本作の主人公が、自分をサソリになぞらえていることからも明らかだ。
彼はサソリの刺繍つきのジャケットを着ており、劇中でも自分の戦いをカエルとサソリの寓話にたとえている。泳げないサソリが川を渡るためにカエルの背に乗せてもらいながら、カエルを刺し殺して一緒に溺れてしまうあの話だ。
IMDbの記事では、サソリの刺繍を背にした主人公をカエルとみなしているが、本作では主人公こそサソリと考えるべきだろう。主人公のズバ抜けた戦闘能力と残虐さ、そして戦いはじめると止められない性質は、一緒に溺れると判っていてもカエルを刺さずにいられないサソリの哀しい性(さが)そのものである。
ジェイムズ・サリスの原作では、主人公の過去にも重きが置かれているそうだが、映画は過去を一切語らない。
これは、読者が主人公の主観に同化しながら進行する小説と、観客が文字通り客観的に眺める映画との媒体の違いもあろうが、観客にすら語れない過去を背負うがゆえに、本作では一層主人公の孤独が感じられる。
ヒーローに安息の日々はない。
本作はそれをスタイリッシュに突き詰めた映画である。
『ドライヴ』 [た行]
監督/ニコラス・ウィンディング・レフン 原作/ジェイムズ・サリス
出演/ライアン・ゴズリング キャリー・マリガン ブライアン・クランストン クリスティナ・ヘンドリックス ロン・パールマン オスカー・アイザック アルバート・ブルックス
日本公開/2012年3月31日
ジャンル/[アクション] [サスペンス] [犯罪]
【theme : アクション映画】
【genre : 映画】
tag : ニコラス・ウィンディング・レフンライアン・ゴズリングキャリー・マリガンブライアン・クランストンクリスティナ・ヘンドリックスロン・パールマンオスカー・アイザックアルバート・ブルックス