『スリー・ビルボード』 アメコミファンに捧ぐ

スリー・ビルボード 2枚組ブルーレイ&DVD [Blu-ray] Raped while dying (レイプされて殺された)

 And still no arrests? (まだ犯人は捕まらない?)

 How Come, Chief Willoughby? (どうして、ウィロビー署長?)

 しんどい映画だ。
 娘をレイプされ殺された母の怒り。その母の怒りをぶつけられる警察官たちの怒り。警察官を失う妻の怒り。差別される小人や有色人種の怒り。『スリー・ビルボード(三つの看板)』は、怒らずにいられない出来事の連続だ。
 その怒りは共感を伴う。怒りの原因が、誰もが感化されそうな怨みつらみにあるからだ。娘が襲われ殺さたなら、怒る気持ちは痛いほど判る。不道徳な警察官に一方的に殴られたり、その現場を目撃したら、激しい憤りを覚えるはずだ。だから観客は怒る主人公に、登場人物たちに思い入れ、一緒になって怒りを覚える。
 怒りにはエネルギーを要するから、怒りが連続する本作を観るのはしんどい。観終わる頃にはへとへとだ。

 それほどまでに共感させ、感情移入させながら、本作は同時に観客の共感を拒絶する。
 同情すべき母親ミルドレッドは、あまりにも凶暴な性格で、当の娘にも嫌われていた。ミルドレッドが怒りをぶつけたエビング警察署のウィロビー署長は、紳士的で真面目な人物だった。観客は、感情移入した人物のろくでもなさを知り、袋叩きになればいいと思っていた人物の意外な面を見せられる。挙げ句の果てに、怒りをぶつける相手を間違えて、早合点から濡れ衣を着せていたことが判明する。
 主人公に共感して、ともに怒りに燃え上がり、悪い奴をぶちのめすのを見てスッキリ、とはいかないから、本作は疲れるのだ。

 にもかかわらず面白く観られるのは、『スリー・ビルボード』がパンチの利いたブラックコメディでもあるからだ。
 虐げられた者がさらに別の者を虐げる残酷さ、滑稽さ。その皮肉な構図と絶妙なセリフの間合いが、終始笑いを誘う。


 映画の舞台はミズーリ州だが、実際の看板はテキサス州の州間高速道路10号線沿いにある。英国出身のマーティン・マクドナー監督が、20年前に米国を旅した折に三つの看板を見かけたことが、本作をつくるきっかけだったという。
 その看板は、1991年に亡くなったキャサリン・フルトン・ペイジの父親ジェームズ・フルトン氏が立てたものだ。怒りを込めて看板を立てたフルトン氏は、事件を解決してくれるなら感謝の看板に変えるつもりでいるそうだが、いまだその日は来ていない。

 マクドナー監督はあくまでも看板にインスパイアされ、実際の事件がどういうものかは知らなかったという。
 それでも、そんな看板を立てずにいられない怒りを彼は感じとった。そして、これは母の怒りだと解釈したところから、『スリー・ビルボード』の物語が生まれた。


 本作で、とりわけ怒りを覚えずにいられない人物が、エビング一の乱暴者ジェイソン・ディクソン巡査だ。
 もちろん娘をレイプし殺した犯人は許せないが、ディクソン巡査は事件をほっぽらかして、有色人種に暴力を振るい、いや気に入らなければ白人だろうと誰だろうと暴力を振るい、それをちっとも悪いこととは思わない、独善的でわがままで鼻持ちならない人間だ。ディクソンが広告代理店に乗り込んで、何の罪もない経営者に暴力の限りを尽くす場面は、目を背けたいほど凄惨だった。
 こんな人物が警察官をやってるのだから、ミルドレッドが警察に怒るのはもっともなのだ。観客だれしもそう思うに違いない。
 映画は、被害者の母ミルドレッドと暴力警察官ディクソンの対立と憎みあいを軸に展開する。

 いったいなぜ、こんな人物がよりにもよって警察官になったのか。
 それに関する説明はなくとも、ディクソンの持ち物から観客は察することができる。
 あまりの素行不良に警察を追い出されたディクソンが、去り際に持ち出したのはマンガだった。彼にとって大事なものはそれしかなかったのだ。
Incorruptible Vol. 1 彼が熱心に読んでいたのは、ボブ・バーデン作のマンガ『Robot Comics』だった。バーで飲んだくれていたときは、マーク・ウェイド作のマンガ『Incorruptible』のTシャツを着ていた。

 マンガ好きで暴力的な人物といえば、ジェームズ・ガン監督の『スーパー!』の主人公が思い浮かぶ。あの主人公は、みずからスーパーヒーローの役を果たそうとして、悪と認定した人間を半殺しにして歩いていた。『スーパー!』は、悪(に見えた相手)を倒す喜びと、暴力を振るう快感を存分に描いた映画だった。

 キャラクター物のTシャツといえば、『映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ ~拉麺大乱~』のランも思い出される。カンフー使いのランは、いつもアクション仮面のTシャツを着ているほどアクション仮面のファンだった。正義の味方のアクション仮面にならって、街の悪を退治したいと願っていた。この映画では、ランの狂った正義感が、街の人々を不幸にした。

 ディクソン巡査はとんでもない乱暴者だが、彼が攻撃するのは敬愛するウィロビー署長に迷惑をかけた(と彼が認定した)人間や、母との関係をバカにした人間だ。彼の主観において、彼は正義の味方なのだ。

 短絡的でマザコンで、他者とまともにコミュニケーションできない独善家のディクソンを象徴するものとして、マクドナー監督が配したのがマンガだった。
 撮影するマンガを選ぶ上で、マクドナー監督はマーベルやDCのような大手の作品は出したくなかったのだという。『スーパー!』の主人公のように、少々マニアックな領域に入り込んだ人物としてディクソンを描きたかったのかもしれない。また、スーパーマンやキャプテン・アメリカのような有名なヒーローには、観客各位の思い入れや思い込みがあるから、そういったバイアスを避けたい気持ちもあったのだろう。

 もちろん、マンガ好きな人間が乱暴者だったり、独善的だったりするわけではない。
 マンガがしばしばヒーローによる私刑を描き、「正義」や「戦う理由」を取り上げることを思えば、マンガを手掛かりに人物を造形するのは妥当な手段といえるだろう。マンガ好きなら、このテーマにニヤリとするはずだ。


 驚くのは、立場も考えも違うはずのミルドレッドとディクソンが、一周回って同じ場所に立つことだ。
 悪と認定した者を容赦せず、怒りのままに暴力を振るったミルドレッド。ディクソンがしたのも同じことだ。
 正義の人にも狂人にも見える彼らの姿を通して、本作は観る者に問いかける。独善的な正義を振り回して暴力を振るうのと、正義について何も考えず、あるいは考えたふりをして何もしないのと、どちらが正しいと思うのかと。

 ある人はこの映画を観て、ディクソンが改心したと受け取るかもしれない。
 またある人は、ミルドレッドがディクソン同様の狂気に囚われたと受け取るかもしれない。
 あるいは、二人は想いを共有できたことで、もう気が済んだのかもしれない。

 観客の心の中に何があるかで、受け止め方は異なるだろう。

 ディクソンが着ていたTシャツが、何がしかを示唆するかもしれない。
 彼のシャツに描かれていたのは『Incorruptible』。それは、悪党だった男がスーパーヒーローになる物語だ。スーパーヒーローが悪党になる物語『Irredeemable』のスピンオフである。


スリー・ビルボード 2枚組ブルーレイ&DVD [Blu-ray]スリー・ビルボード』  [さ行]
監督・制作・脚本/マーティン・マクドナー
出演/フランシス・マクドーマンド ウディ・ハレルソン サム・ロックウェル アビー・コーニッシュ ジョン・ホークス ピーター・ディンクレイジ ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ ルーカス・ヘッジズ ケリー・コンドン
日本公開/2018年2月1日
ジャンル/[ドラマ] [サスペンス] [コメディ]
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【theme : ヒューマン・人間ドラマ
【genre : 映画

tag : マーティン・マクドナー フランシス・マクドーマンド ウディ・ハレルソン サム・ロックウェル アビー・コーニッシュ ジョン・ホークス ピーター・ディンクレイジ ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ ルーカス・ヘッジズ ケリー・コンドン

『ボックストロール』 かわいくない魅力

ボックストロール [Blu-ray] こんな傑作が日本未公開だったとは!

 『ボックストロール』のBlu-ray/DVDのカバーアートをご覧いただきたい。
 少女の手を引いて逃げる少年。明らかに彼が主人公だが、ひねた感じの生意気そうな子供で、あんまり可愛らしくない。
 手を引かれている少女も、つぶれたアンパンみたいな顔で、可愛いヒロインとはいいがたい。
 少年少女と一緒に走っている奇怪な生き物たち――体を箱に入れた彼らがボックストロールなのだが――も、悪の手先の雑魚キャラに見える。
 だが、後方には赤い帽子の妙な奴らが迫っているから、必然的に彼らが「わるもん」なのだ。すると手前の奇怪な生き物たちは、「いいもん」ということになる。その姿形からは、とてもそう思えないけれど。

 日本はカワイイ文化の発信地であり、とりわけ可愛いモノが持てはやされる。全国津々浦々に可愛いマスコットキャラクターがおり、2008年にあまり可愛いらしくないマスコット「せんとくん」が登場したときは、ずいぶんと嫌がられたものだ。
 そんな日本で、どう見ても可愛くなく、格好良くもないキャラクターばかりの映画『ボックストロール』は、はなはだ不利な状況にあろう。

 ディズニーを辞職したジェフリー・カッツェンバーグが、見かけの美醜と内面の美醜は関係ないことをテーマに据えた『シュレック』を発表し、可愛らしさの総本山ディズニーにカウンターを食らわせたのは2001年のことだった。
 本作はその域をはるかに超えて、可愛くないキャラクターたちのドラマで、人間社会の偏見と狭量さを描き出す。

ボックストロール [Blu-ray] 登場するのは、虐げられているのに抵抗せず、目先の娯楽に流されるだけの人々や、プロバガンダに易々と乗せられて他者を攻撃する大衆だ。
 赤い帽子の男、害虫駆除業者のスナッチャーはたしかに「わるもん」なのだが、身分の低さと、努力しても報われない境遇に抗おうとして、倫理を踏み外してしまった哀れな人間だ。
 そして、人前で話すと立派そうだが、何もしない街の権力者。美食のことで頭がいっぱいで、行うのはせいぜいパーティーくらい。
 本作は、身分の上下と格差拡大が社会をどれほど歪ませるかを描き、指導者の無策の結果が最終的に弱者への皺寄せとして現れることを訴える。たしかに、ここに可愛いキャラや格好良いキャラの出る幕はない。可愛くしようと思ったらいくらでもできる人形アニメを通して作り手が描くのは、可愛らしさで覆い隠してはならない過酷な現実だ。

 キャラクターが可愛いかったり、格好良かったりすることの功罪はハッキリしている。
 可愛いければ注目を集めやすいし、好かれやすいから、多くの観客にリーチできる。
 けれども、可愛いとそれだけで受け入れられたり、許されたりしてしまうから、真の問題を掘り下げる妨げになりかねない。美醜に関係なく受け入れたり、許したりできるかを問う作品で、「可愛いから好き」「格好良いから好き」という感情を観客に抱かせてしまったら、それは失敗作だろう。
 このようなことを避けるため、たとえば『崖の上のポニョ』では、主人公ポニョの姿が可愛い幼女に見えることもあれば、奇怪な半魚人にも変化する。『シェイプ・オブ・ウォーター』では、人々が恐れる怪物であり、同時に女性が恋したくなるような「半魚人」の顔を作るのに、三年を要したという。


ボックストロール [Blu-ray] 本作は、まだ社会の不合理、不条理に染まっていない子供たちが、大人が疑問視しない慣習を打ち破り、世間を引っ繰り返すファンタジーだ。
 少年も少女もひねた感じで、ちょっと憎々しいくらいのデザインなのに、動き出すと不思議と好きになってしまう。彼らの冒険に付き合ううちに、これ以上ないデザインであることが判ってくる。この二人がとても個性的で、歯並びの悪さや、歪んだ唇等も含めた人物丸ごとに魅了されるからだ。薄気味悪いと思っていたボックストロールさえも、愛嬌たっぷりに見えてくる。これが作品の力というものだろう。

 日本未公開のまま終わりそうだった本作は、Blu-ray/DVDの発売に合わせ、期間限定で公開された。
 上映に踏み切った東京都写真美術館と配給会社のギャガ株式会社に深く感謝したい。


ボックストロール [Blu-ray]ボックストロール』  [は行]
監督/グレアム・アナブル、アンソニー・スタッチ
制作/トラヴィス・ナイト
出演/ベン・キングズレー エル・ファニング アイザック・ヘンプステッド・ライト ジャレッド・ハリス サイモン・ペッグ ニック・フロスト トニ・コレット
日本公開/2018年4月27日
ジャンル/[ファンタジー] [アドベンチャー]
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【theme : 特撮・SF・ファンタジー映画
【genre : 映画

tag : グレアム・アナブル アンソニー・スタッチ ベン・キングズレー エル・ファニング アイザック・ヘンプステッド・ライト ジャレッド・ハリス サイモン・ペッグ ニック・フロスト トニ・コレット

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』 インフィニティ・ストーンのおさらいをしよう

Avengers: Infinity War (Original Soundtrack) Import 面白かった!
 マーベル・シネマティック・ユニバース最大のスケール、最大の賑やかさ。これまでのマーベル・シネマティック・ユニバース18作品は、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』にたどり着くためにあったのだ。
 シリーズ史上最多のスーパーヒーローが集結し、これまでチラリと映ったり、言及されるだけだった最大最強の敵サノスと対峙する。これぞ大興奮の一作だ。

 マーベル・シネマティック・ユニバース作品の中でも群を抜いた名作(と私が考える)『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』を監督したアンソニー・ルッソとジョー・ルッソの兄弟がメガホンをとったのだから、本作が面白いのはとうぜんなのだが、その彼らにもこの映画はかなり手強かったようだ。アンソニー・ルッソは次のように語っている。
 「これほど多数のヒーローが登場する群像劇は過去に存在しません。それは、物語を構成するうえで、かつての名作からヒントを得ることが難しいということを意味します。映画づくりにおいて、参考にする過去作がないのは恐ろしいことです。(群像劇の名手として知られる)ロバート・アルトマン監督の作品を参考にしようとも考えましたね。ただ、同時にやりがいも感じていました。それこそ、新たな未知の領域に足を踏み込むことでもあったからです。」

 登場するスーパーヒーローの数でいえば、仮面ライダーやスーパー戦隊、ウルトラマンの映画のほうが多いかもしれない。だが、いつでも主役級として新作を撮れる人気キャラクターが一堂に会し、しかも一人ひとりの個性とドラマがこれほどまでに描かれた作品は、過去に例がないだろう。
 その舵取りを見事にやりきったルッソ兄弟の手腕はたいしたものだし、それだけのドラマを書き込みつつきちんと整理されたクリストファー・マルクスとスティーヴン・マクフィーリーの脚本はどんなに称賛してもし足りない。

 観客の多くは、何といってもインフィニティ・ストーンが揃うことに感激するに違いない。数々のマーベル・シネマティック・ユニバースの作品を通して激しい争奪戦が繰り広げられてきたインフィニティ・ストーン(後述)が、とうとう全部揃うのだ。ただ一つでも宇宙を震撼させる強大な力を秘めたインフィニティ・ストーン。それが六個揃うのだから、その迫力や推して知るべし。
 多くの悪事を裏で操ってきたタイタン人サノスも(後述)、本作では前面に現れて、アベンジャーズとがっぷり四つに組む。はじめてサノスがスクリーンに登場してから、どれほどこの日を待ち焦がれたことか。


【チラシ付き、映画パンフレット】アベンジャーズ インフィニティ・ウォー 特別版 本作は、2017年に公開された『マイティ・ソー バトルロイヤル』のラストシーンの直後からはじまる。
 『マイティ・ソー バトルロイヤル』のラストは、故郷の星を破壊されて宇宙の難民となり、星々のあいだを旅していたソーとアスガルド人が、謎の巨大宇宙船に遭遇するところで終わっていた。本作では、その船――サノスの宇宙船サンクチュアリIIによってアスガルドの避難船が破壊され、アスガルド人の生き残りも皆殺しに殺されてしまう。

 ここからサノスとスーパーヒーローたちの戦いが延々と続くのだが、その描き方が潔い。各ヒーローの紹介は過去作で済んでいるし、サノスのことも、サノスが探し求めるインフィニティ・ストーンのことも観客は知っているから、余計な説明は一切いらない。
 ヒーローたちは、ただひたすらにサノスと戦い、翻弄され、さらなる謎に巻き込まれる。

 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』に感心するのは、世界観がまちまちなヒーローが集結したのに、物語が破綻せず紡がれていることだ。
 仮面ライダーが大戦争する映画や、歴代スーパー戦隊が集結する映画や、多くのウルトラマンが協力する映画は、たいへんでもやれないことはないと思うのだ。作品のカラーやフォーマットが似ているし、設定に共通するところも多い。
 だが、マーベル・シネマティック・ユニバースは各作品の独立性が高く、異質なところが多分にある。いくら地続きの世界だと主張しても、ただ心身を鍛えただけのスパイであるブラック・ウィドウと、時空を操る魔法使いのドクター・ストレンジと、宇宙を股にかけた暴れん坊のガーディアンズ・オブ・ギャラクシーらでは、力も雰囲気も違い過ぎる。スパイや暗殺者が束になってかかってきても平気なブラック・ウィドウでも、ダーク・ディメンションを支配するドルマムゥすら撃退したドクター・ストレンジが苦戦するような高次元の存在が来たらひとたまりもない。ちょっと気の利いた武器を持つだけのファルコンやウォーマシンは、通常の戦場なら大活躍だが、異星人や異次元の敵にはかなうまい。
 『アベンジャーズ』と銘打つ映画は三作目とはいえ、共闘するヒーローがどんどん増えていく中で、一本の映画としてのカラーを打ち出すのは至難の技であったはずだ。

 これを成し遂げたことは、本当に素晴らしい。はじめて合流したガーディアンズ・オブ・ギャラクシーが、添え物にならず、しっかりストーリーの中心にいるし、アイアンマン/トニー・スタークやハルク/ブルース・バナーらフェイズ1からの古参メンバーにもそれぞれの見せ場がある。絶妙なバランス感覚だ。


The Road to Marvel's Avengers: Infinity War - The Art of the Marvel Cinematic Universe (Road to Marvel's Avengers - Infinity War) 注目すべきは、アイアンマンとソーとドクター・ストレンジの扱いだ。個性的なヒーローの中でも特に我が強いこの三人の配置には、作り手も苦しんだに違いない。
 結果、科学と魔法という水と油の関係にあるアイアンマンとドクター・ストレンジを早々に引き合わせることで作品を引っ張る対立軸を設けながら、すでに『アベンジャーズ』でアイアンマンと衝突したことのあるソーには別ルートの旅をさせて、アイアンマンやドクター・ストレンジに会わせない。

 さらに、アイアンマンとドクター・ストレンジ、そしてスター・ロードたち科学と魔法に卓越した面々には、サノス単体との常識外れの戦い(月を砕いて落っことす!)を演じさせる一方で、ファルコンやブラック・ウィドウらには、サノスの配下ブラックオーダーが率いる雑魚キャラたちの相手をさせて、彼らなりの強さを演出する。
 複数個所で同時進行する戦いは、スケールやヒーローの能力が違い過ぎて、ともすれば一方の面白さだけが突出してしまいそうなものだが、本作では各キャラの個性と映像の魅力、そして優れた構成が、どちらも盛り上げて楽しませてくれる。
 マーベル・コミックスにはクロスオーバーを頻繁に行ってきた長い歴史があるとはいえ、実に巧く処理したものだ!

 しかもだ、本作はなんとスーパーヴィランであるサノスの内面を描く作品もある。
 『アベンジャーズ』に登場したチタウリ人のジ・アザーや、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』に登場したダークエルフのマレキスがいい例だが、作品が宇宙的スケールになってくると、どうしても敵側のキャラクターを掘り下げる余裕がなくなってしまう。いきおい、薄っぺらで記号的なヴィランになりがちなのだが、本作はこれだけ盛り沢山でありながら、サノスがとても魅力的に描かれている。だから、サノスとの戦いはいくら見ても見飽きない。
 アンソニー・ルッソ監督は、「本作では、サノスの感情を突き詰めて描きたいと考えていました」とまで述べている。


 さて、サノスはマーベル・シネマティック・ユニバース最大の敵、マーベル・シネマティック・ユニバースはインフィニティ・ストーンの争奪戦だった――といっても、18作もあると、どの作品で何があったか判らなくなりそうだ。何しろ最初のインフィニティ・ストーンが登場してから、もう八年も経つのだ。
 そこで、備忘を兼ねて過去作での扱いを記しておく。

■サノス
 『アベンジャーズ』(2012年)のエンドクレジット後に初登場。地球侵略をアベンジャーズに阻止されたチタウリ軍のジ・アザーから「アベンジャーズに戦いを挑めば死あるのみ」という報告を得て、ひるむどころか笑っていた。これにより、後続のマーベル・シネマティック・ユニバースの作品世界に大きな影響を与えたチタウリの大襲撃が、サノスの差し金だったことが判る。

 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)では、クリー人のロナンを使ってインフィニティ・ストーンの一つ、パワー・ストーンを手に入れようとしていた。娘のガモーラとネビュラに命じて、ロナンを補佐させていたが、娘たちに裏切られてしまう。

 『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015年)でもエンドクレジット後に登場し、まだ石のないインフィニティ・ガントレットを左手にはめて、「私の出番だ。」と宣言する。


インフィニティ・ストーン
(1) スペース・ストーン

 『マイティ・ソー』(2011年)のエンドクレジット後のシーンで、国際平和維持組織S.H.I.E.L.D.の施設に連れてこられたエリック・セルヴィグ博士が、四次元キューブ(Tesseract)の調査をニック・フューリー長官から依頼される。このときのセルヴィグ博士はロキに操られていたため、ロキが四次元キューブの在りかを知ってしまう。この時点ではまだ、四次元キューブの中にスペース・ストーンが入っていることは観客に明かされていない。

 1940年代を舞台にした『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』(2011年)では、オーディンがノルウェーのトンスベルグの聖堂に隠していた四次元キューブ(Tesseract)をナチスドイツの将校ヨハン・シュミットことレッドスカルが手に入れる。だが、キャプテン・アメリカとの闘いの最中、レッドスカルはキューブを暴走させてしまい、時空の彼方に飛ばされる(『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』において、レッドスカルが惑星ヴォーミアでソウル・ストーンの番人になっていたことが明かされた)。残された四次元キューブは、ハワード・スタークによって回収され(て、S.H.I.E.L.D.に受け継がれ)る。
 その後、息子のトニー・スタークが、アイアンマンの動力源となる新型アーク・リアクターの開発のヒントを探して父ハワードの遺品を調べたとき、父が四次元キューブの研究を続けていたことが判明する(『アイアンマン2』(2010年))。

 『アベンジャーズ』(2012年)では、四次元キューブを手に入れたロキが、キューブの力でワームホールを開いてチタウリの軍勢をニューヨークに呼び寄せる。チタウリとの戦いの後、四次元キューブはソーがアスガルドで保管する。だが、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2013年)のどさくさでロキがオーディンに成りすまし、アスガルドの支配者の座についたから、ロキはキューブを自由にできたはずだ。事実、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年)でアスガルドが崩壊した際に、ロキがキューブを持ち出していたことが本作で明らかになる。
(2) マインド・ストーン

 『アベンジャーズ』(2012年)において、(サノスから王笏を授かった)ロキはマインド・ストーンを備えた王笏で人の心を操り、四次元キューブ(Tesseract)を奪取する。チタウリとの戦いの後、この王笏はS.H.I.E.L.D.が保管したと思われる。

 『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014年)では、S.H.I.E.L.D.が長年にわたり秘密結社ヒドラに侵食されていたことが明かされる。そしてエンドクレジット後のシーンで、王笏を手に入れたヒドラの科学者バロン・フォン・ストラッカーがマインド・ストーンを使った人体実験を行い、双子の超能力者、スカーレット・ウィッチ(ワンダ・マキシモフ)とクイックシルバー(ピエトロ・マキシモフ)を生み出していた。

 『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015年)の冒頭で、バロン・フォン・ストラッカーのアジトはアベンジャーズの急襲を受け、王笏はアベンジャーズのものになる。トニー・スタークはさっそくマインド・ストーンを研究するが、その過程でマインド・ストーンの力により人工知能ウルトロンが誕生してしまう。ウルトロンはみずからの「容れ物」としてマインド・ストーンを額に埋め込んだ肉体を作るが、この肉体はスーパーヒーロー、ヴィジョンとして覚醒する。
 本作では、ヴィジョンのマインド・ストーンの争奪戦がクライマックスとなる。
(3) リアリティ・ストーン

 『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2013年)の冒頭で、宇宙誕生直後におけるマレキス率いるダークエルフとオーディンの父ボーとの戦いが描かれる。ダークエルフに勝利したボー王は、マレキスの武器――宇宙を誕生前の状態に戻せるエーテル、すなわちリアリティ・ストーン――を手に入れる。ボー王はエーテルを地中深くに隠したが、現代になって、不慮の出来事からエーテルが再びマレキスの手に渡ってしまう。死闘の末にマレキスを倒し、エーテルを取り戻したアスガルド人は、四次元キューブ(スペース・ストーン)とエーテル(リアリティ・ストーン)の二つがアスガルドにあることは危険だと考え、惑星ノーウェアのコレクター(タニリーア・ティヴァン)にエーテルの保管を依頼する。
(4) パワー・ストーン

 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)において、サノスの命を受けたクリー人ロナンが、パワー・ストーンを収めたオーブを探していた。スター・ロードはオーブをいったんコレクター(タニリーア・ティヴァン)の許に持ち込み、パワー・ストーンのいわれを聞くが、激しい争奪戦の末に、ザンダー星を本拠とするノバ軍警察にパワー・ストーンの保管を依頼する。
(5) タイム・ストーン

 『ドクター・ストレンジ』(2016年)に「アガモットの目」という首飾りとして登場。魔法の訓練施設カマー・タージで、長いあいだ厳重に保管されていた。その後、タイム・ストーンを収めた首飾りの状態のまま、ドクター・ストレンジが身につけている。
(6) ソウル・ストーン

 本作において、サノスがガモーラにソウル・ストーンの探索を命じていたことが語られるが、本作以前に登場することはなかった。


 当初の発表では、題名が『Avengers: Infinity War Part1』とされていた本作。「Part1」の文字は外れたが、もちろんこれは物語の前半に過ぎない。本作と同じ監督、脚本家が組んだ続編が、2019年5月3日に公開される予定なので、楽しみに待ちたい。
 おっと、その前に、本作の最後にニック・フューリーが呼び出したキャプテン・マーベルの登場だ。


Avengers: Infinity War (Original Soundtrack) Importアベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』  [あ行]
監督/アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ
出演/ロバート・ダウニー・Jr ベネディクト・カンバーバッチ クリス・ヘムズワース クリス・プラット クリス・エヴァンス ジョシュ・ブローリン マーク・ラファロ ゾーイ・サルダナ スカーレット・ヨハンソン カレン・ギラン トム・ホランド ポール・ベタニー エリザベス・オルセン アンソニー・マッキー チャドウィック・ボーズマン ドン・チードル トム・ヒドルストン デイヴ・バウティスタ ポム・クレメンティエフ ピーター・ディンクレイジ セバスチャン・スタン ベネディクト・ウォン グウィネス・パルトロー ベニチオ・デル・トロ イドリス・エルバ ダナイ・グリラ サミュエル・L・ジャクソン ヴィン・ディーゼル ブラッドリー・クーパー
日本公開/2018年4月27日
ジャンル/[アクション] [アドベンチャー] [スーパーヒーロー] [SF]
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【theme : アベンジャーズ
【genre : 映画

tag : アンソニー・ルッソ ジョー・ルッソ ロバート・ダウニー・Jr ベネディクト・カンバーバッチ クリス・ヘムズワース クリス・プラット クリス・エヴァンス ジョシュ・ブローリン マーク・ラファロ ゾーイ・サルダナ

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